宜昌の中小・零細企業発展に頼れる「後ろ盾」
2020年12月22日 劉志偉(科技日報記者)、郭士俊(科技日報特派員)
公共技術サービスプラットフォームが「避難港」と「生産要素のプール」に
「当社では年間で五倍子の固体廃棄物が数千トン出る。公共技術サービスプラットフォームのサポートを受けて、五倍子の固体廃棄物をバイオ発酵で有機肥料に加工し、五倍子の固体廃棄物から年間で1,000万元規模の利益を得ている」。11月27日、湖北省宜昌市五峰赤誠生物科技公司総合管理部マネージャーの張品徳氏はこのように語った。
宜昌市五峰赤誠生物科技公司の生産現場では、何袋もの有機肥料がフォークリフトで倉庫へと運ばれていた。張氏の言う公共技術サービスプラットフォームというのは、バイオテクノロジー、ジェネリック医薬品技術イノベーション、ファインケミカル技術イノベーションの三大公共サービスセンターで、宜昌市が安琪集団、宜昌人福、興発集団に委託して立ち上げたものだ。公共サービスセンターは業界内の中小・零細企業のために専門に技術や管理、インキュベーションなどのサービスを提供している。宜昌市五峰赤誠生物科技公司が固体廃棄物処理技術の難題を解決する手助けをしたのは、そのうちの宜昌市バイオテクノロジーサービスセンターだ。
宜昌市ファインケミカル技術イノベーション公共サービスセンターで、ガスクロマトグラフを操作して有機シリコン製品の成分分析をする技術者(撮影・付蓓蓓)。
「避難港」と協力し、経営リスクを回避
興山県にある宜昌科林硅材料有限公司は、シリコンオイルの生産と製品研究開発に従事するハイテク企業だ。近年、市場と生産技術の原因により、生産がフル稼働しない状態が続き、同社は設立されたばかりの宜昌市ファインケミカル技術イノベーションサービスセンターに自社の全権管理を委託することを決めた。
2019年10月、同社の管理を正式に委託されると、宜昌市ファインケミカル技術イノベーション公共サービスセンターは技術者を同社に常駐させ、技術研究開発、設備改造、生産技術最適化などの面で重点的に同社の全面的な改造と高度化を行った。
サービスセンターは360万元(約5,724万元)を投資し、メチルシリコンオイルとビニルシリコンオイル製品の応用実験室を設立。ワッカーや信越化学など世界の一流企業の製品基準との比較を行い、既存製品の技術的な欠陥や品質面での違いを洗い出し、生産技術最適化と製品品質の向上を図った。
サービスセンターの有機シリコン新材料技術サービスプラットフォーム責任者の李書兵氏は、「現在、同社の製品適応性は大幅に向上し、従来のシリコンシーラントのほかにも、電子材料や食品加工などの分野にも用いることが可能になった。今年同社の生産量は前年同期比で20%以上増え、顧客は30数社に増えた。新型コロナウイルス感染症の影響はあったが、それでも1-11月の販売収入は1億2,500万元(約19億9,000万円)、粗利益は594万元(約9,400億円)に達し、初めて黒字化を実現した」と説明する。
三大公共技術サービスセンターはそれぞれ業界内企業と協力体制を築き、華中農業大学や武漢工程大学など30校あまりの大学との間に深いレベルでの協力関係を結んでいる。技術研究開発、検査・測定、基準策定などの職能職責をめぐり、サービスフロー、作業細則、業績評価方法を策定して打ち出し、「企業内と外部がともに力を発揮する」ことで、「社内に奉仕する」から「業界に奉仕する」へ、「技術サービス」から「総合サービス」へと転換し、徐々に産業化応用体系を構築。「大きな手が小さな手を引く」と「大が小を牽引し、強が弱を助ける」を真の意味で実現し、各市場の変化を効果的にヘッジし、経営リスクを低減した。
「生産要素のプール」を共有し、より強いサポートを提供
「我々は企業の発展を左右する重大な難題をその企業が解決できるよう重点的に手助けし、原料品質保証、生産設備改良、科学技術発展戦略策定の面で、企業の発展をサポートする」。9月15日、中国工程院院士の陳堅氏は宜昌「院士・専門家の中小・零細企業サービスマッチング座談会」でこう述べた。
陳院士とその他専門家・博士14人は三大公共サービスプラットフォームを通じて、中小・零細企業の技術的難題解決を直接手助けし、産業の発展に奉仕するというビジョンを実現させた。国家傑出青年科学基金の獲得者で、「長江学者奨励計画」の対象となっている張和平教授、中国科学院微生物研究所研究員の白逢彦氏、中国科学院院士の舒紅兵氏らが、サービスプラットフォームを通じて企業とマッチングし、協力イノベーション体制を構築している。
宜昌市科技局資源配置科の李紀科長は、「宜昌市では、このような公共技術サービスプラットフォームを通じた人材請負方式が企業に歓迎されている」とした上で、「三大公共サービスプラットフォームを通じて、人材、設備、資金、技術、特許、データといったコア生産要素の集約と分配を実現することができ、生産要素の共有をより効果的に促進し、中小・零細企業のイノベーションと発展を支えている」と語った。
また、宜昌市科技局の王代紅副局長は、「三つの技術サービスセンターはその設立以来、企業の技術面における『ボトルネック』を効果的に解決しただけでなく、企業と産業の質の高い発展に力強い技術的サポートを提供してきた」と指摘。さらに、「現時点で、三大公共技術サービスセンターは市全域の中小・零細企業向けに物質検査1,100回以上、基準策定20項目以上、サンプル検査4,000件以上を提供し、企業が発展の過程でぶつかる技術的難題を90件以上解決。関連企業に直接経済利益1億1,000万元(約17億4,900万円)をもたらした」と述べた。
宜昌市バイオテクノロジー公共サービスセンターでは、科学技術による西蔵(チベット)支援を行っており、チベット自治区山南(ロカ)市にチベット支援サブセンターを設立した。2020年8月末、チベット支援サブセンターの第1期実験室が運用を開始。すでにロカ産クルミ油の生産技術を高度化し、クルミの搾りかすの高付加価値加工生産技術研究と、チベットの微生物資源地調査・採集を行った。現在は第2期実験室の建設を急いでいる。
中小・零細企業の発展を促進すると同時に、安琪、人福、興発の3社も企業としての急成長を実現した。2020年の第1-3四半期、安琪集団の販売収入は64億2,600万元(約1,022億円)、粗利益は15億7,200万元(約250億円)、宜昌人福の販売収入は34億元(約541億円)、粗利益は14億元(約223億円)、興発集団の販売収入は152億2,000万元(約2,420億円)、粗利益は8億5,700万元(約136.3億円)に達した。中小・零細企業のサポートに大いに力を入れたため、宜昌市科技局のビジネス環境最適化の取り組みは、今年の市全域580社に対する満足度調査で総合ポイント2位を獲得した。
※本稿は、科技日報「宜昌中小微企業発展有"靠山"」(2020年12月10日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。