第176号
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農業・農村・農民の「デジタル化」への妙案―浙江省

2021年05月21日 洪恒飛、江 耘(科技日報記者)

浙江省農業農村庁「デジタル三農(農業、農村、農民)」専門班の統計によると、2019年、同省の農村で情報インフラ建設がさらに強化されながら進み、合計90%の県(市、区)のインターネット普及率が80%以上に達した。長興県を例にすると、同年、農家の人々に役立つ情報サービスを提供する機関である益農情報社ステーションが259カ所、農村スマート景勝地が2カ所、オンライン病院が1施設建設され、同県の路線バスに、統一されたQRコード「一碼通」を使って乗車することができるようになった。

「現在、デモンストレーションをしているこの農業ドローンには、25キログラムの種が入っており、1分余りで、約3,330平方メートルの土地に種を撒くことができる。人の手で撒くよりも均等で効率的に撒くことができる」。3月16日、浙江省衢州市に位置する県級市・江山市で開催された浙江省のプロジェクト「春の耕耘の準備・テクノロジーを農村へ」の始動セレモニーで、無人の自動運転トラクターや無限軌道型ロータリー耕運機などの農業機械がお披露目された。

 浙江省農業技術推進センターの関係責任者は同日、江山市佳源家庭農場で、「同農場の専業育苗センターでは、スマート設備を活用して、温度や水を合理的にコントロールすることができ、トレーに撒かれた種がきれいに揃って発芽しており、発芽率も高く、田植機を使った田植えにも適している。年間を通して栽培が行われている約133.3ヘクタールの農場のうちの約533.3ヘクタールの田んぼに、大規模な育苗サービスを提供できる」と説明した。

 浙江省は近年、「三農」デジタル化改革推進を加速させ、テクノロジーや人材、資金などの要素が農村へとスムーズに行きわたるよう取り計らい、農村部の振興に、創造力を提供している。第14次五カ年計画(2021~25年)や2035年までの長期目標綱要の要求に基づき、浙江省は2025年をめどに、農村部全域をインターネット体系がカバーするという目標を打ち出し、「デジタル三農」協同応用プラットホームを構築して、生産、流通、監督・管理などの中心業務のデジタル化・応用を推進し、農村部でデジタル経済を大きく発展させたいとしている。

農業に工業化の遺伝子注入 業界の垣根を超えた融合の取り組み

 杭州市浜江区英飛特テクノロジーパーク内では、企業や工場の中に紛れている「植物工場」では、土を使わない垂直農法や太陽光の代わりにLEDライトを照射する方法が採用され、工業生産ラインのようなスタイルで、野菜を生産することにより、1平方メートルの土地で、5平方メートル分の野菜が栽培できるようになっている。

 四維生態科技(杭州)有限公司の陳慶社長は、「デジタル化農業のうち、最も直観的なのが設備のデジタル化だ。当社が建設した植物工場は、自社で開発したスマートコントロールシステムを活用し、野菜に適した温度、湿度、光、二酸化炭素の濃度、栄養補給などを自動でコントロールしている。365日24時間態勢で運用しており、残留農薬や重金属『0』を実現している。工場では現在、50種類以上の植物を栽培している。レタスを例にすると、約6.7アール当たりの生産量は畑での栽培と比べて50倍以上に達している」と説明する。

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杭州ハイテクパーク内に位置する生態科技(杭州)有限公司が建設した植物工場は、スマート監視システムを活用して、作物の収穫周期が20~50%短縮し、栽培コストも低減した。画像提供:取材先

 20世紀に登場し、これまで発展を続カてきた「植物工場」は、限られた田んぼや畑などの資源を効率良く使い、そこに工業化の「遺伝子」を注入するというのがそのコンセプトだ。陳社長は、「栽培の工業化には、可視化が不可欠」と話しながら、スマホのアプリを起動させ、浙江省義烏市にある植物工場に設置された監視カメラから送られる映像を通して、栽培環境を見せてくれた。アプリを通して、野菜の成長状況や収穫状況を一目でチェックできるようになっていた。

「当社は立ち上げからこれまでの3年の間、研究開発に毎年数千万元を投入してきた。科学研究チームは、業界の垣根を超えた融合を実施して、光学や人工知能などの専門的な分野を栽培に応用している。植物工場のほか、コンテナ栽培システムや室内栽培機なども開発し、雲南省や天津市、浙江省などでは、提携プロジェクトによる応用が実施されている」と陳社長は語った。

「2021年中央一号文件」は、「農業の供給側の構造改革を一歩踏み込んで推進する」と提起している。また「2017年中央一号文件」も、「製品・産業の構造を最適化し、農業の質、効率を向上させることに力を入れる。そして、テクノロジーイノベーション駆動を強化し、現代農業が加速して発展するよう取り組んでいく」と言及している。

 浙江省では、工業的思考が農業生産のイノベーションに活用されており、四維生態のケース」は、デジタル産業発展の一つの縮図に過ぎない。

 最近、浙江省海洋水産養殖研究所が開発した「永興水産デジタル漁場」では、2,500平方メートルのスマート化、施設化されたコウライエビ養殖工場や養殖水環境のスピーディーな感知・コントロール、的確な給餌、コウライエビの行動観測、スマート管理・コントロールクラウドプラットフォームなどのソフトウェア建設が完成。一部が無人化されたコウライエビ養殖工場1カ所が大まかに構築されており、浙江省の第2期デジタル農業試行工場に指定された。

 同研究所の関係責任者は、「浙江省の沿海に設置された養殖池でコウライエビを養殖した場合、生産量は1度の収穫につき水域1平方メートル当たり3~3.5キロ、収穫回数は年間2~3回だ。一方、一部が無人化されたコウライエビ養殖工場の場合、生産量は1度の収穫につき水域1平方メートル当たり7.5キロ、収穫回数は年間4~6回に達すると予想されている」と説明し、「農業の供給側の構造改革において、テクノロジーイノベーションによる生産スタイルの変革促進は不可欠だ。工業化の思考を活用して改革を推進するといのも、一つの近道かもしれない」との見方を示す。

複数のシーンでの応用を模索 県域のデジタル化は全国トップクラス

 湖州市長興県呂山郷の長興羊スマート循環産業パーク内では、羊2,000頭余りが飼育されている。羊の飼育小屋の環境パラメータ、出産可能なメス羊の状況、羊の販売の分布などがパークのデジタル大スクリーンに表示されている。パークは、飼育している羊の数は年間5万頭、出荷する羊の数は年間8万頭に達すると予想している。

 繁殖から飼育、牧場経営までが一体となったデジタル牧場は、同郷初の大規模スマート化農業プロジェクトで、9村が株式参入し共同で建設した。呂山郷農業農村発展弁公室の孫凱凱室長は、「9村の経営的収入は現在、平均200万元(約3,300万円)以上に達しており、モデルパークが本格的に操業を開始すれば、各村の経営的収入は平均300万元(約4,950万円)に達するようになるだろう」と話す。

「ヒトに代わってロボットが作業をして生産のスピードアップ」と「スマート監督・管理により品質をコントロール」というのが、長興県が現代農業を「デジタル化融合」へ転換するための2大手法だ。湖州融晟漁業科技有限公司にあるマーレーコッドの仔魚繁殖・飼育拠点は、健康的で効率的な循環水設備を通して、工場化養殖を行い、温度や水質の調整もスマート化され、養殖に使用する水で節約した量は100倍となり、「ゼロ・エミッション」、「薬品ゼロ」を実現している。

 長興県農業農村局の関係責任者によると、同県では既にスマート化農業パークが6カ所、農業モノのインターネット(IoT)応用モデル拠点が72カ所建設され、主な農作物の総合機械化水準が90%以上に達している。

 それ以外にも、湖州市徳清県も、地理情報産業が集まる徳清地理情報タウンの優位性を活かし、リモートセンシング衛星「徳清1号」やドローンによるリモートセンシング、画像認識技術などを総合的に活用し、県内で農業情報マクロモニタリング分析を行い、県全体の食糧生産機能エリアの田畑の試算、作物識別、生長の様子の監視などの機能を実現している。

 浙江省農業農村庁の「デジタル三農」専門班の統計によると、2019年、同省に属する各県のデジタル農業・農村の発展水準は68.8%に達し、発展水準が中国全土のトップ500に入る県(市、区)は80あり、各県のデジタル農業・農村の発展を全体的に見ると、中国全土でもトップクラスとなっている。

最新の「施工図」を描き情報サービスの全域カバーを加速

 杭州市に位置する県級市・建徳市の三都鎮松口村は、富春江ダムの微気候の影響もあり、ミカンの栽培に適した気候となっている。しかし、以前は、収穫期になると、村には腐ったミカン、ミカンの皮があふれ、村の居住環境に影響を及ぼしていた。中国全土で第1期農村ガバナンス体系構築試行地となった建徳市は現在、デジタル農村ガバナンスのスタイルを積極的に模索している。

 松口村婦女聯合会の龔水婷会長は、「現在は、各家の前も裏側もとてもきれいで、玄関にはオレンジの形をしたライトが光る看板が掲げられており、スマホでそのQRコードをスキャンすると、各世帯のポイントの状況のほか、公開されている「村内四務」(党内の仕事、村の仕事、財務、サービス)などの情報をチェックできるようになっている。アプリ・釘釘を通して、松口村の特徴的なポイントによる管理をプラットホーム『郷村釘』へ移行し、『デジタル松口』を構築し、村民に自治に参加して、村の景観を改善するよう呼び掛けるという取り組みもしている」と話す。

 浙江省農業農村庁の王通林・庁長は、「当省は比較的早くから『デジタル農村』の建設を始め、発展も比較的速い。しかし、都市と比べると、農村の情報インフラ建設は依然として遅れており、農民の情報ターミナルの使用レベルも低い」と説明する。

 今年1月に発表された「浙江省のデジタル農村建設実施ガイドライン」は、2022年をめどに、省全体の農村の情報インフラを効果的に整備し、5Gの電波が全ての県の行政中心地や重点郷・鎮をカバーするようにし、デジタル「三農」協同応用プラットホームをほぼ完成させ、農業・農村データ・リソースバンクを継続的に整備し、初期段階の宇宙・空・地上全域の地理情報図構築を目指すという目標を掲げている。

明確な目標の源は基礎

 浙江省農業農村庁「デジタル三農」専門班の統計によると、2019年、同省の農村で情報インフラ建設がさらに強化されながら進み、合計90%の県(市、区)のインターネット普及率が80%以上に達した。長興県を例にすると、同年、農家の人々に役立つ情報サービスを提供する機関である益農情報社ステーションが259カ所、農村スマート景勝地が2カ所、オンライン病院が1施設建設され、同県の路線バスに、統一されたQRコード「一碼通」を使って乗車することができるようになった。

 浙江省農業農村庁「デジタル三農」専門班の関係責任者は、「地域のデジタル農業・農村の発展水準が不均衡であるという現実は、『デジタル浙江』と『農村部の振興』を全面的に発展させるために乗り越えなければならないハードルだ。政府の関係当局はデジタル農村建設という契機に照準を合わせ、現代農業プロジェクト資金が、農業デジタル技術の応用、サポートを強化するよう牽引する必要がある。また、社会資本の投入を確実に呼び込み、社会の力がデジタル農業・農村の建設に幅広く参加するよう奨励し、各方面が力を合わせ、集中的に資金が投じられる局面を作り出す必要がある」との見方を示す。


※本稿は、科技日報「打造"数字三農"亮麗風景"浙"裏有妙招」(2021年4月9日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。