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中国人の誠実さは世界で最下位? 研究者らが連名で論文再審査を要求

2019年7月30日 金斯基/小賽(編集)

この調査研究結果によると、中国は誠実さのランキングで最下位だった。当然ながら、この調査研究は極めて大きな議論を呼んだ。さらには、この調査研究は「企むところのある」人物が中国を非難するために行った可能性があるとする評論まであった。

 中国人学生・教授ら18人が署名したこの連名書簡は、学術雑誌「サイエンス」に対し、世界各国の人々の誠実さに関する論文について踏み込んだ調査を行い、編集者の意見を発表し、さらに同論文が同誌での発表に適しているか否かを再度評価するよう求めるものだった。

 2019年6月29日、中国人学生・教授ら18人が署名した連名書簡が「サイエンス」誌の編集者Valda J. Vinson氏の電子メールアドレスに送付された。連名書簡は「サイエンス」誌に対し、6月20日に発表されたある論文について踏み込んだ調査を行い、再評価するよう求めるものだった。添付ファイルには調査研究方法に対する疑問が詳細に列挙されていた。

 再調査を求められた論文は、ミシガン大学、ユタ大学、チューリッヒ大学の研究者が共同で執筆した「世界各国の人々の誠実さ」(Civic honesty around the globe)という論文だ。論文が発表されると、瞬く間に中国のソーシャルメディアで拡散された。激論を呼んだのは論文中の図1だった。

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(出典:参考資料[1]

 この結果によると、中国は誠実さのランキングで最下位だった。当然ながら、この調査研究は極めて大きな議論を呼んだ。さらには、この調査研究は「企むところのある」人物が中国を非難するために行った可能性があるとする評論まであった。それと同時に、調査研究自体に注意を向けた人もいた。

調査研究はどのように行われたか?

 各国の人々の正直な行為を検証するために、研究者たちは世界40ヶ国355都市に計1万7,303個の透明な財布を準備し、実験アシスタントが通行人を装って財布を現地の銀行や郵便局、ホテルなど公共機関に届け、届け先のスタッフに持ち主に連絡してほしいと依頼した。

 これらの財布には、持ち主の連絡先メールアドレス、鍵、買い物リストなどが入っていたが、財布の中には、現金が入っていなかったり、多少入っていたり、かなりの金額が入っていたりした。この金額については現地の1人あたり平均収入に基づいて設定された。

 研究者らは1つの財布ごとに単独のメールアドレスを設定し、その後、実験が開始されてから100日以内に受信したメールの件数を集計した。その結果によると、財布の中の金額が多いほど、人々は持ち主に財布を返そうと連絡する可能性が高くなったという。しかし具体的な返却率は国によってばらつきがあり、中国の財布返却率は最下位だった。

疑問の声が上がる

 激論が繰り広げられる中、Q&Aサイトの知乎で「Yanyan」と名乗るネットユーザーが調査方法について疑問を呈した。Yanyan氏は、調査では電子メールを唯一の連絡方法としているが、中国インターネット情報センターのデータによると、中国のネットユーザーの電子メール使用率は35%にすぎないと指摘した。

 Yanyan氏は論文の責任著者の一人であるミシガン大学のAlain Cohn助教に連絡を取り、討論した。Cohn助教は返信の中で、「メール使用率の低さは中国の返却率が低かった要因かもしれないが、我々にはその信頼性を確かめる良好な国際的データはない。一部の人が我々の調査研究を悪用して恨みを伝えていると聞いて、心を痛めている。我々にはコントロールできないことではあるが、謝罪したい。我々の調査研究は決して彼らを傷つけようとしたものではない」と回答した。

 Yanyan氏はネット上でも、「能力がある人は沈黙していてはいけない、『サイエンス』誌に意見を提出するべきだ」と呼びかけた。この呼びかけに、国内外の中国人学生と教授が積極的に応えたのである。

 米国ハーバード大学芸術・科学調査研究院博士課程に在学中の袁博氏は「サイエンス」誌に連名で書簡を送ることを考えついた。袁博氏は知乎の回答主である米ルイジアナ州立大学の馬研氏に連絡を取り、論文発表後1週間で執筆チームを結成し、学生や教授ら数人で連名書簡を起草した。彼らはより正規のルートで、厳粛な討論をすることを望んだ。

 この連名書簡は最終的に世界各国にいる学生10人と教授8人によって共同で作成された。そのうち清華大学の張学工教授は連名書簡作成のために多くの意見を提供し、内部でこの件を広めることに協力した。彼らは一致して、空談や感情的議論、または民族主義的な非難を行うのではなく、存在する問題とそれによって起こる可能性のある社会的影響を客観的な角度から検討するべきだと考えていた。

 袁博氏は、この論文の問題は中国が最下位だということにあるのではなく、実験とデータ提示の方法に論理的欠陥があり、一般の人がデータを読み誤りやすい点にあると考えた。

 彼らは連名書簡の添付書類に調査研究方法に対する疑問を詳細に列挙した。たとえば、メールでの報告率を使って誠実さを量化することの信頼性や、交絡変数(文化習慣など)に関する討論が十分に行われたか、実験サンプル量の代表性、主観的確認による誤差の有無といった点である。彼らはこの論文による悪影響についても指摘した。

 連名書簡は「サイエンス」誌に対し、この論文を踏み込んで調査し、編集者の意見を発表し、さらに同論文が同誌での発表に適しているか否かを再度評価するよう要求した。

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連名書簡に署名した教授・学生(参考資料[1]

 メール送付の翌日午前、Vinson氏から返信が届いた。彼女は連名書簡の作成者たちに対し正式な批判意見を提出するよう提案し、「サイエンス」誌は査読を行った後、雑誌が表に立って著者に正式な回答をするよう依頼し、論文審査員に評論を発表するよう連絡する可能性があることが記されていた。

 返信を受け取った後、袁博氏は学術サイト「知識分子」の科学関連微信公式アカウント「賽先生」に、安堵したことと決してあきらめないことを伝えた。

 7月4日、「賽先生」はこの件に関して「サイエンス」誌と連絡を取った。「サイエンス」誌広報部門の執行董事(Press Package Executive Director)であるMeagan Phelan氏は、「学術界が発表後の論文に対し意見を述べることを奨励する。しかし技術的な評論については、本誌では一定の処理期間が必要で、論文著者が回答した後で双方の意見について厳正な内部審議を行う。受理されれば、関連討論はネット上で公開される」とした。

 原稿締め切り時点で、論文の著者は連名書簡の件について回答していない。「賽先生」ではこの件に引き続き注目していく。


参考資料

[1] A.Cohn et al., Science 10.1126/science.aau8712(2019)

[2] Attachment: a brief critique of the methodologies in "Civic honesty across the globe" and its consequent social impacts.

[3] 拾金不昧,中国排名倒数第一?研究者回応称,本意并非如此/「知識分子」 https://mp.weixin.qq.com/s/VNEIbzIpVSgMFW--DUNrAw

[4] Science 発表《全球公民誠信排名》,中国為什么排名倒数第一?/知乎https://www.zhihu.com/question/330671869/answer/724717236


※本稿は、JSTが参加する国際科学技術メディア連盟に提供された記事「中国誠信墊底?科研人員聯名請求重審論文」(知識分子、2019年7月5日付)を日本語訳/転載したものである。

関連リンク

知識分子「中国誠信墊底?科研人員聯名請求重審論文」 http://www.zhishifenzi.com/depth/depth/6378.html