最近の環境法政策-生態文明と環境保護法改正-(その1)
2014年 6月10日
北川 秀樹:龍谷大学政策学部教授
NPO法人・環境保全ネットワーク京都代表、博士(国際公共政策・大阪大学)
略歴
専門は環境法政策。1979年京都大学法学部卒業後、京都府庁勤務、地球環境対策推進室長を最後に12年前に研究者に転身。日本と中国の環境法政策と環境ガバナンスの研究に取り組んでいる。編著書『 中国の環境法政策とガバナンス(2011)』など。
習近平政権は2013年11月に開催された中国共産党18期3中全会において、「中共中央の若干の重大問題を全面的に深化改革することに関する決定」(3中全会決定)を提起して、「生態文明」の 建設を強調した。また、20年余りにわたって続けられてきた環境保護法改正案が本年4月に全国人民代表大会(人大)常務委員会を通過した。この二つの動きから、最 近の中国政府の環境問題対応の基本的な考え方と特徴について考察した。
生態文明
3中全会決定14章で、生態文明制度が掲げられた。生態文明の建設に関するバランスの取れた制度の確立、最も厳格な汚染源改善、損害賠償、責任追及、環境改善と修復制度の実行、及 び制度を活用した生態環境保全を明記し以下の4つの方針を強調して環境重視の姿勢を表した。
①自然資源財産権制度と用途管理制度の健全化
水、森林、山地、草原、荒地、干潟などの空間に対して統一して権利を確認して登記する。帰属が明らかで、権利と責任が明確で、監督管理が有効な自然資源財産権制度を形成する。空間規劃システムを確立し、生 産・生活・生態空間開発制限を定め、用途管理を実行するとした。エネルギー、水、土地の節約集約使用制度を改善し、自然資源の資産管理と体制を健全にし、国が統一して所有者としての職責を行使するとした。
②生態保護方針の確定
主要機能区の設定により国土空間開発保護制度を確立する。厳格に主要機能区を位置づけ、これに基づき国家公園制度を確立する。資源環境の負荷能力観測・警告メカニズムを構築し、水土資源、環 境容量と海洋資源の負荷能力を超えた区域について規制措置を実施するとした。開発制限区域と生態の脆弱な国家貧困支援開発重点県に対するGDPによる審査をやめ経済偏重方針を転換する。自 然資源資産負債表を作成し指導幹部に対する自然資源資産にかかる離任監査を実施し、生態環境に損害を与えたものに対する生涯責任制の確立を掲げた。
③資源有償使用制度と生態補償制度の実行
自然資源とその産品の価格改革を急ぎ、市場需給、資源の欠乏、生態環境損害コストと回復利益を全面的に価格に反映するほか、資源使用について、汚染・破壊者負担原則を維持して、資 源税を各種自然生態空間の占用に拡大する。退耕還林・退牧還草の範囲の拡大、汚染地区、地下水過採取地区の耕地の用途を調整し、耕地と河川湖沼の回復の実現、工 業用地と居住用地の有効調節のための比較価格メカニズムを確立し工業用地価格を引き上げるとした。受益者負担の原則により、重点生態機能区の生態補償メカニズムを改善し、地区間の横向きの生態補償制度の推進、環 境保護市場の発展、省エネ量・炭素排出権・汚染物排出権・水権取引制度の推進を進める。社会資本を生態環境保護に投入することにより市場メカニズムを確立し、環境汚染の第三者による改善を促進するとした。
④生態環境保護管理体制の改革
あらゆる汚染物排出を厳格に管理する環境保護管理制度を確立し、陸海を統合した生態システムの保護回復と汚染防止区域との連動メカニズムを整備することとした。国 有林区の経営管理体制の健全化と集団林権制度改革を実施し、適時環境情報を公布し、通告制度の健全化と社会監督を強化するほか、汚染物排出許可制の改善、企業・事業体の汚染物排出総量抑制制度の実行、生 態環境に損害を与えた責任者に対する賠償制度の厳格な実行、法による刑事責任の追及を盛り込んだ。
以上から、自然資源の財産権帰属の明確化と用途管理の実施、管理責任の所在と追究の厳格化、生態機能区の中で重点的に保護しなければならない地区の確定、経 済発展優先の成績審査の転換と幹部の厳格な責任追及、汚染者負担、受益者負担原則の貫徹と市場メカニズムを活用した生態補償制度の確立などを重点として掲げたことがわかる。いわば資源に対する国の管理強化、環 境汚染や破壊に対する責任追及、費用負担の制度確立を明確にしたといえる。
このほか同決定では、環境ガバナンスに関連する注目すべき内容を規定している。一つは、4章の「政府職能の転換」の中で、投資体制改革に触れ、エネルギー、土地、水の節約、環境、技術、安 全等の市場における基準の強化、生産過剰を防止・解決できる長期的なメカニズムの構築を規定した。また、成績評価について審査評価システムを改善し、経済成長のスピードで成績を評価する傾向を糺し、資源消耗、環 境損害、生態効果、生産過剰、科学技術の刷新、安全生産、新増加債務等の基準の強化などによる省エネ、環境面での基準整備を強調している。さらに、9章の「中国の法治」において掲げた司法管理体制の改革である。省 以下の地方法院、検察院の人事と財政の統一管理を推進し、行政区画と分離した司法管轄制度の確立を模索し国の法律を統一して正確に処理するとした。従来、地方の人民法院の財政は地方政府から手当され、法 院院長の人事は地方の人大により決められるため、裁判の内容に地方の利益が優先される「地方保護主義」の傾向が指摘されていた。この改革により、上 級法院の直接管轄が実現すれば裁判の独立性の保障に一歩近づくことが期待される。
( その2へつづく)