第168号
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晋江集積回路産業パーク:「産教融合」で人材育成に最適化

2020年9月30日 謝開飛(科技日報記者)、陳弘毅(科技日報特派員)、何淵銘(科技日報特派員)

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2019年11月、安海職業技術学校で開かれた「産業カリキュラム」開設セレモニー(画像提供:安海職業技術学校)

高等教育機関、地方政府、企業が共同で産教(産業界と教育界)融合のイノベーションプラットフォームを構築し、協力してコア技術人材の育成や科学技術イノベーション、学科・学部開設などを展開することで、人材チェーンとイノベーションチェーン、産業チェーンのより効果的なマッチングを促進することができる。

 今年9月、福建省の福州大学晋江科学教育パークは、福州大学先進製造学院の第1期生となる大学院生を迎え入れた。その一部は、福州大学マイクロエレクトロニクス学院の新入生と共に、福州大学--晋江マイクロエレクトロニクス研究院プラットフォームに加わった。これは、近年、福建(晋江)集積回路産業パークが、専門人材の全方位育成体系構築を積極的に模索する革新的措置の一つだ。

 今年7月、中国国務院が発表した「新時代に集積回路産業やソフトウェア産業の高い品質の発展を促進するための若干の政策」は、「高等教育機関の集積回路、ソフトウェア学部開設をさらに強化し、複合型、実用型のハイレベル人材育成に取り組む」ことに言及しているほか、条件の整う高等教育機関に対して、「集積回路企業と協力するスタイルを採用して、モデルとなるマイクロエレクトロニクス学院の建設推進を加速させること」を推奨している。

「産業発展を見据えて先手を打ち、人材育成を行わなければならない」。9月7日、福建省の晋江市政府党組のメンバーで、泉州半導体ハイテクパーク・晋江サブパーク管理委員会の陳志雄委員長は、「2016年にはすでに福建(晋江)集積回路産業パークは福州大学や福建省電子信息集団と共同で福州大学にモデルとなるマイクロエレクトロニクス学院を建設して、職業学校とパーク内のリーディングカンパニーが連携して必要な学部を開設するよう推進していたほか、福建省で初めて、中等職業学校で、集積回路産業の『予約クラス(大企業が事前に学生と契約するためのクラス)』を開設するなどして、集積回路の分野の産教融合型企業育成に取り組み、現在、集積回路産業で広く見られる人材不足という難題解決を目指してきた」と説明する。

大きなニーズに焦点を絞り人材不足解決に取り組む

 福州大学--晋江マイクロエレクトロニクス研究院の関係責任者は、「晋江と地域の産業発展のニーズに合わせて、学科設置と産業ニーズの一歩踏み込んだ融合に取り組むことで、科学技術イノベーションの成果を地元で実用化することができるほか、人材も地元で才能を十分に発揮することができ、『校・政・企』のハイレベル人材育成スタイルを構築することができる」との見方を示す。

 集積回路は、中国政府が現在、重点的に発展を目指すハイテク産業であるものの、人材不足や高等教育機関の教育資源に限りがあるなどの原因で、業界では、「技術者が見つからない、技術者をつなぎ留められない、技術者の技術が低い」などの問題が普遍的に存在している。中国電子情報産業研究院集積回路研究所が発表した「中国集積回路産業人材白書(2018--19年版)」は、2021年には、中国の集積回路の分野の人材は26.1万人不足すると予想している。さらに、晋江では、関連の川上・川下産業が次々に発展を遂げているため、集積回路の専門人材のニーズが日に日に増していると指摘している。

 泉州半導体ハイテクパーク・晋江サブパーク管理委員会の謝建新常務副会長によると、国家戦略、地域の発展、産業モデル転換・高度化などのニーズに焦点を合わせて、福建(晋江)集積回路産業パークは、集積回路の分野の人材政策体系を率先して構築し、「晋江市集積回路産業人材戦略計画網要(2016--25)」を制定。中国全国初の集積回路産業特定項目人材認定基準を打ち出したほか、全国に先駆けて集積回路の分野の人材優待政策を制定し、各種補助金を累計で1億元(約15.5億円)支給するなどして、人材発展のための最適なエコシステムを積極的に構築している。また、市全域の教育資源を統一して管理し、全市全域の中等・高等職業院・校が集積回路関連の学部を設置するよう導くほか、リーディングカンパニーと福州大学、泉州職業技術大学をはじめとする高等教育機関が共同で「予約クラス」を開設して人材を育成し、人材育成の精度向上に取り組んでいる。

企業・学生双方に「ウィンウィン」をもたらす人材育成メカニズムの構築

 晋江市晋興職業中等職業学校(以下「晋興職校」)の実習室では、新機軸を開く工業ロボットカリキュラムが注目を集めていた。教壇に立っているのはパーク内のリーディングカンパニー・矽品電子(福建)有限公司(以下「矽品電子」)の技術者だ。企業の従業員がなぜ「教師」になっているのだろうか?

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工業ロボット実習室で授業を受ける晋興職校の学生ら(画像提供:晋興職校)

 2018年、福建(晋江)集積回路産業パークのサポートの下、晋興職校は、集積回路産業の発展に必要な人材に焦点を合わせ、矽品電子と提携して、斬新な「マイクロエレクトロニクス技術・トランジスター製造」学部を開設。福建省初の中等職業学校集積回路産業「予約クラス」となり、省内で初めて集積回路産業のニーズに方向性を合わせた人材育成スタイルを構築した。

 同「予約クラス」は企業にニーズに合わせて、電気工学基礎、パッケージング検査、水晶製造などのカリキュラムを開設してきた。専門の講師を招聘しているほか、矽品電子も定期的に中核の技術者をカリキュラムに派遣し、さらに、学生が企業で実習できるよう企画してきた。晋興職校の関連の責任者によると、「『予約クラス』の学生は、早い段階で、矽品電子の基礎的な専門技術の知識、企業文化に触れることができ、卒業後も優先的に同社に雇用される」という。

 また、福建(晋江)集積回路産業パークも、「集積回路産業カリキュラム学園進出」活動を実施し、同産業の経験豊富な中核として働く専門家が学校に出向き、学生に集積回路産業の基礎知識と基本スキルを伝えるようにしている。同活動は、これまでに19校で展開され、カリキュラムが176コマ行われ、授業を受けた学生は累計で5,000人を超えている。

 晋興職校17級電子クラスの学生・孫柯煒さんは、「以前、集積回路産業に関する知識は生半可だった。しかし今回のカリキュラム学園進出活動を通して、集積回路の由来、発展の現状、製造技術・プロセス、今後の就職の方向性などを、初めて網羅的に知ることができた。将来、集積回路関連の仕事をすることを望んでいる」と語る。

 晋興職校の関係責任者は、「企業のニーズに合わせて、当校は専門のカリキュラムをオーダーメイドし、学校と産業パークの壁を打破した。また、企業における新入社員の採用前研修に時間がかかる、多くの資金が必要などという問題に合わせて、学校と企業の提携を強化することにより、採用前研修の一部の内容を学校教育に盛り込み、産学の『シームレスなマッチング』を実現し、企業にさらに多くのハイレベルの応用型技術者を送り込むと同時に、学生にも、さらに多くの就職の機会、良いポストを与えることができ、ウィンウィンを実現し、技術者不足という難題を効果的に解決している」と説明する。

提携プラットフォームを立ち上げて産業チェーン・人材チェーンを効果的にマッチング

 謝常務副会長は、「単純な学校と企業の提携と異なり、『産教融合』は、複雑で系統的なプロジェクト。資源、人員、技術、管理、文化など、全方面の実質的な一歩踏み込んだ融合を実現するためには物理的空間上に、下支えとなるイノベーションプラットフォームキャリヤーを構築し、最適化しなければならない。そのために、晋江市は福州大学と晋江マイクロエレクトロニクス研究院などの、『政学企』協同イノベーションキャリヤーの構築を全力で推進している」と説明する。

 福建(晋江)集積回路産業パークの準備グループ人材テクノロジーグループの関係責任者は、「研究院が設立され、マイクロエレクトロニクス学院が全面的に晋江に進出し、産教研融合を深化させるようさらに促進されるだろう。そして、産業のニーズに合わせた人材育成スタイルが形成されるだろう。同研究院の総投資額は1億元で、オリジナルの基礎となる技術研究に立脚して、中国国内外の半導体分野のハイレベル人材を呼び込み、産業、応用に焦点を合わせて、新材料、新トランジスター、新技術、新製品の研究開発に取り組み、5年以内に、福建省のマイクロエレクトロニクス産業チェーンの企業にサービスを提供する国家級マイクロエレクトロニクス先導技術研究開発の中心に、また公共研究開発のプラットフォームにしたい」と語る。

 その他、福建(晋江)集積回路産業パークは、福建省発展改革委員会とも積極的に連携し、「6·18協同創新院マイクロエレクトロニクス分院」を設立し、同省で唯一の集積回路の分野のイノベーションプラットフォームを晋江に設置して積極的に資源を統合できるよう取り組んでいる。また、パーク内の高等教育機関、専門家、科学研究機関のプロジェクトバンク、人材バンクを立ち上げ、既に専門家120人、紹介・推薦プロジェクト成果163件、技術ニーズ97件、推進成果マッチング60件が登録されている。そのようにして、晋江の伝統産業にターゲットを絞ったモデル転換、高度化を推進している。

 陳委員長は、「高等教育機関、地方政府、企業が共に産教融合イノベーションプラットフォームを構築し、共同でコア技術の人材育成、科学技術イノベーション、学科学部開設を展開すれば、人材チェーン、イノベーションチェーン、産業チェーンの効果的なマッチングをさらに促進できる。同パークは今後、『新時代に集積回路産業やソフトウェア産業の高い品質の発展を促進するための若干の政策』の最新の手配指示に基づいて、人材育成、チームの共同建設、科学研究・成果の実用化など、具体的な部分で一歩踏み込んだ融合を展開し、テクノロジー研究開発サービスプラットフォームの力を継続的に充実させ、産学研用(企業・大学・研究機関・実用化部門)一体の産業構造を構築し、イノベーション要素が融合し、ハイレベル人材が密集し、産城(産業界と都市)産教が融合して発展するイノベーション型パークの建設に取り組む」としている。


※本稿は、科技日報「晋江集成電路産業園: 産教融合打造人才培養最優格局」(2020年9月11日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。