第181号
トップ  > 科学技術トピック>  第181号 >  なぜ子供たちのコロナ感染は軽度で済むのか

なぜ子供たちのコロナ感染は軽度で済むのか

2021年10月29日 AsianScientist

 成人と比較して、COVID-19に感染した子供のT細胞応答は低いため、感染症は軽度または無症候性となるのかもしれない。

image

 AsianScientist COVID-19に対抗して活性化される防御機構は数多くある。その中でも、子供の症状が大人よりも軽度であるのは、T細胞と呼ばれる免疫細胞によるのかもしれない。香港の研究者たちが、子供たちのT細胞応答が低いことを発見し、 Nature Communications 誌に発表した。

 COVID-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2が体に侵入すると、免疫防御が働き始め、多数の免疫細胞が動員される。動員された免疫細胞の種類と量は疾病の重症度に影響を与え、将来の再感染に対する保護メカニズムを構築する。

 大多数のCOVID-19患者は症状をほとんど示さないかまったく示さないかのいずれかだが、特に子供の場合、成人よりも重度になりにくい傾向がある。科学者たちはこの違いをヒントとして、血液中のウイルス粒子の量や、B細胞として知られる別の種類の免疫細胞によって産生されるウイルス中和抗体などさまざまな分子を調査した。

 しかしながら、今までもこのような取り組みが行われたことはあったが、重症度の差に影響を与える免疫メカニズムを特定することはできなかった。結果として、子供の場合はCD4 + T細胞およびCD8 + T細胞が低く、それが違いとなっていることが分かった。これは、香港大学のソフィー・バルケンバーグ(Sophie Valkenburg) 博士率いる研究チームによる発見である。

 チームは免疫応答を評価するために、軽度または無症候性の感染症を患っている成人と子供からサンプルを採取し、その中に存在する様々な細胞を染色し、定量化した。分析を行ったところ、CD4 + T細胞は迅速に作用し、年齢とともに反応が強まる一方、CD8 + T細胞応答は感染後の蓄積に時間がかかり、不十分な抗体反応を補う可能性があることが分かった

 B細胞は抗体を使用して攻撃を行うが、CD8 + などの一部のT細胞はより直接的な戦略を取り、ウイルスに感染した細胞によって運ばれる特定のたんぱく質を標的とすることで細胞の死を促進する。 CD4 + などの他のT細胞はB細胞が抗体産生細胞へと分化するのを助け、体がウイルス標的を覚えるのに役立つ。

 これらの細胞は長期的な保護において重要な役割を果たすことから、研究者たちは、子供のCD4 + レベルが低いことは、長期的な反応が弱いことを示唆し、再感染した場合に病気の重症度に影響を与える可能性があると述べた。

 さらに、T細胞の活性化が低いのは、子供が本来持つ免疫力が基本的に低いために起こるのかもしれない。子供たちの体は他のコロナウイルス、例えば季節性インフルエンザを引き起こすコロナウイルスに曝露することはあまりないので、子供の免疫系はまだこれらの感染性物質に反応することを学んでおらず、影響は軽度のものとなる。

 パンデミックが猛威を振るう中、そのような発見から、子供と大人で異なる対SARS-CoV-2保護戦略に関する新しい事実が次々と明らかになり、さらに研究を続ければ、COVID-19との戦いにおける免疫細胞の役割の全体像を描くのにわずかでも役立つであろう。

 著者たちは「SARS-CoV-2感染症の臨床的解決には、協調的な細胞性免疫反応が鍵となっている」と主張している。また、「ベースラインの免疫活性化が低いため、子供たちのSARS-CoV-2 T細胞応答は低く、COVID-19におけるT細胞の保護的役割を理解するにはさらに多くを調べる必要がある」とも述べている。

 

発表論文等:Cohen et al. (2021) SARS-CoV-2 Specific T Cell Responses Are Lower in Children and Increase With Age and Time After Infection.

原文記事(外部サイト):

●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2021/09/health/mild-covid-19-immune-response-children/

本記事は、Asian Scientist Magazine の許諾を得て、再構成したものです。掲載された記事、写真の無断転載を禁じます。
Source: The University of Hong Kong; Photo: Shutterstock.
Disclaimer: This article does not necessarily reflect the views of AsianScientist or its staff.