貧富の差が世界の野生生物取引を助長 香港大などが研究
2021年09月29日 AsianScientist
高所得国は野生生物製品の最大の消費者であり、富の不平等が世界の野生生物取引の主な動力源となっている。
AsianScientist ― 香港の研究者らによると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は富の格差をさらに拡大し、世界の貿易額を増加させ、その結果、野生生物を危険にさらす可能性がある。 この調査結果は科学誌Science Advancesに掲載された。
野生生物取引と聞くと、闇夜に紛れて行われる違法行為をイメージする人がいるかもしれない。だが実際には、さまざまな日用品が関係する。家庭の観賞用水槽で見られる生きたサンゴから、医薬品や化粧品に含まれる動物由来の成分まで、私たちのほとんどは、何らかの形で合法的な野生生物取引の恩恵を受けている。
COVID-19のパンデミックをきっかけに、野生生物の取引が詳細に調べられることになった。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の本当の起源は不透明なままであるが、ウイルスは野生生物の取引を通じて人間に広がったと考えられている。このことから、中国では野生の陸生動物の消費が禁止された。
野生生物取引の世界的な流れを調べるために、香港大学(HKU)と嶺南大学(LU)の研究者らは、世界の合法野生生物取引データベースを分析した。伝統的な治療に使われるタツノオトシゴから水産養殖用に捕獲された野生のチョウザメまで、20年分のデータを見ると、推定4億2,100万頭の動物が世界で取引されていた。
この調査結果から、世界のほとんどの野生生物取引に関わっているのは圧倒的に裕福な国々であることが分かった。米国、フランス、イタリアが世界の野生動物の輸入トップ3カ国である。アジアでは、中国、シンガポール、日本などの裕福な国々がすべて野生生物製品の純輸入国であった。
一方、低所得国は、主に経済的に裕福な国々の需要を満たすために、野生生物製品を輸出していた。 特にインドネシアのように物流能力の高い国々の場合、野生生物製品の輸出高は一層多くなっていた。
全体的に、野生生物製品の輸出国と輸入国の間には著しい不平等があり、輸入国は一般的にすべての社会経済的指標において、はるかに繫栄している。例えば、調査が記録した最大の貿易関係は米国(輸入国)とインドネシア(輸出国)の間に存在し、前者の1人当たりの国内総生産(GDP)は後者の20倍もあった。
パンデミック後に規制が強化され、短期的には野生生物の取引が減少する可能性があるが、COVID-19は世界経済に不均衡な影響を与えたため、各国間の富の不平等は既に悪化している。富の不平等と世界の野生生物市場との間に正の相関関係があることから、長期的に見るとパンデミックは国際野生生物取引の増加を促進させる可能性がある。
調査を行った研究者らは、この結果から、啓蒙活動や代替製品を通じて裕福な国における野生生物製品の需要を減らす取り組みの重要性が明らかになったという。
「メッセージの一つは、貧しい国・低所得国の野生生物の捕獲と取引を促進しているのは、明らかに豊かな国からの需要であるということです。豊かな国の裕福な消費者は、動物製品に対する需要と欲望を制限するために、何か行動を起こす責任があるということです」
HKUのデビッド・ダジョン(David Dudgeon)名誉教授はこのように締めくくった。
発表論文等:Liew et al. (2021) International Socioeconomic Inequality Drives Trade Patterns in the Global Wildlife Market.
原文記事(外部サイト):
●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2021/07/in-the-lab/wealth-inequality-wildlife-trade/
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Source: University of Hong Kong; Photo: Shutterstock. Disclaimer: This article does not necessarily reflect the views of AsianScientist or its staff.