【14-13】百賢教育基金会による「将来のアジア指導者奨学金」の設立
2014年 5月23日 米山 春子(中国総合研究交流センターフェロー)
2014年5月6日正午、「百賢教育基金会」による「将来のアジア指導者奨学金」設立発表会が北京香港馬会会所(北京市東城区金宝街68号)で開催された。
「百賢教育基金会」とは、一昨年、香港永新投資控股有限公司副董事長・曹其鏞(ロナルド・チャオ)(東京大学工学部卒)氏及びご一族が約150億円を寄贈、設立されたものである。100億円は、奨 学資金に、50億円は北京大学に、燕京学堂建設のために寄付される。
設立発表会には、曹其鏞氏をはじめ、基金会の運営を任された曹氏の娘・百賢教育基金会行政総裁曹恵婷氏、中 国人民政治協商会議第十二回全国委員会副主席の董建華氏および百賢亜洲研究院理事会の方々が出席され、来賓として、木寺昌人・駐中国特命全権大使、谷野作太郎・元駐中国特命全権大使、ま た林建華・浙江大学学長、小寺秀俊・京都大学理事・副学長など日中の大学および経済界の約200人が招かれた。科学技術振興機構(JST)からは沖村憲樹・特別顧問・中国総合研究交流センター上席フェローが、招 請により出席した。
「将来のアジア指導者奨学金」設立発表会で(左 沖村上席フェロー、右 曹其鏞氏)
曹其鏞氏は、1960年に、東京大学留学時代、「アジア文化会館」という新築の寮に最初に入居した学生の一人であった。彼はこの寮の中で多くの日本および海外の学生と出会い、一 生を通じる多くの友人を得たという。
2010年、曹氏は70歳になり、日中関係を鑑み、自分に何ができるのかと考えた末、中国の主要な5つの大学に日本の「アジア文化会館」のような「アジア青年交流センター」と いう旗印の下の寮を建設しようと考えた。自身の経験から、学生同士がひとつの屋根の下で、共に住み、共に学び、互いに理解し合うことは、きっと固い友情が末永く結ばれるに違いないと確信し、建設に着手した。現 在では北京大学に「中日青年交流中心」がすでに完成し、日本人と中国人の学生が相部屋で入居する条件で運営されている。日中関係が依然厳しい中、昨年秋から中国人学生30名、日 本人学生30名がすでに相部屋で入居、今後順次に入居者数を増やしていく予定である。なお、中国人学生とその両親は、日本人との同居を大変喜んでいるとのことである。
2013年7月、百賢基金会は、「将来のアジア指導者奨学金」を設立することを決定した。この奨学金は、ア ジア太平洋地域内の海外留学を望むアジアの若者たちの異文化間理解と青年交流の促進を図ることを目的としている。
同年12月にこの奨学金計画を実施する日中の大学の選考を完了し、中国側は香港科技大学、北京大学、浙江大学、日本側に一橋大学、京都大学、早稲田大学の6大学がそれぞれ選ばれた。本 奨学金による年間100名の奨学生は、日本と中国の両方の大学で学ぶことが条件となっており、日中友好が促進される内容となっている。
2014年3月に京都大学は香港で百賢基金会と本計画の実施協定を締結。内容は2014年10月より、中国側の拠点3大学から京都大学の大学院修士課程または博士課程に進学させ、年 間最大15名の学生に対して、一人当たり奨学金年額約250万円を、最長2年間にわたり支給することになっている。また、同計画の奨学生には、毎 年8月頃に百賢亜洲研究院が実施する4週間のサマープログラムに参加することが義務付けられている。
同年4月には、早稲田大学も百賢基金会と協定を締結した。内容は、政治経済学部に入学するアジア諸国からのダブルディグリー学生に対し、年間最大15名、一人当たり月額15万円奨学金を支援するという。ま た、アジア経済界との産学連携による共同人材育成など幅広い教育・交流プロプログラムの開発が予定されている。本年9月には、最初の奨学生を迎える予定である。今後、早 稲田大学から中国の拠点大学に留学する学生に対する支援も開始される予定。なお、学位を取得した奨学生に対しては「百賢亜洲フェロー」の称号が附与される。
「百賢教育基金会」の活動は、日中友好の心を持ったリーダーを日中両国に長期的な構想の下に育成することを目的としており、中国の民間人の莫大な寄付による壮大な計画である。心から感服する次第である。