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【19-02】第2回 人工知能が制御する植物工場のシステム構成

2019年7月22日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会会長
研究領域 中国農業問題全般

はじめに

 日本の植物工場には、体積や形が多様な工場とコンテナ式工場とがある。この点は、中国も同様だ。また、一般に前者は市場に出回る葉菜類や果菜類が、後者はそれらのうちやや高価に売れるものや薬草など高付加価値作物が栽培される傾向にある。

 コンテナ式は面積当たり生産性に難点があるとされ、目立たない一般の園芸作物ばかりを作っていたのでは、普通の型式の植物工場どころか市場を席巻するビニールハウスや露地栽培ものにコスト的に遠く敵わないのが現状だ。やがて、一般の植物工場とコンテナ植物工場は市場に認知される日が到来すれば、作物間や品種間の分業が自ずと生まれることだろう。

 発展途上にある植物工場を念頭に置く場合には、その優劣を考える際、ひとまず技術的課題と採算上の課題は分離しておくべきだ。画期的な機械装置開発や新薬開発と似て、技術的課題が残るいまの段階で、植物工場の採算云々をいっても進歩はない。

 もちろん技術的課題というのは経済的合理性との関数であり独立変数ではないが、最初から完成した技術集積的な資本財というものは存在しない。

 日本の植物工場の場合、養液のための清潔かつpH・硬度が適切な原水確保、培地、EC値(養液の肥料などの濃度)および養液循環と流速、雑菌・病気制御、生産性、省エネ、栽培管理、環境制御(温度、風力・風向、二酸化炭素、湿度、照光など)、収穫・包装、廃養液処理、建屋の断熱性などが、なお技術的課題だと言われている。

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(日本の先進的植物工場建屋:S社。筆者撮影)

 中国では、どうであろうか?以下、植物工場についての2つの最新技術の例を分解して、その到達点を探ってみよう。ここで取り上げる新技術は、【1】人工知能を使った定温植物栽培装置(ただし装置の物理的配置や性能構成ではなく、モジュール構成とモジュール交流システムを取り上げる)と【2】一般の植物工場やコンテナ植物工場で課題となってきた養液供給・回収・循環システムだ。

1.人工知能定温植物栽培装置

 最初に紹介するのは人工知能を使った植物栽培装置の管理を可能にした太陽光+人工光システムで、中国の植物栽培装置では困難とされてきた環境づくりに成功した事例である。この装置は人工知能制御装置とこれをマザーとする植物栽培装置という二つに装置を分け、それぞれに配置されたモジュールを組み立て、その後、二つの装置をケーブルでつなぐ方式だ。栽培装置には人工知能処理器があり、一方の装置である人工知能制御処理器と連携して、最もキーになる定温環境を形成、植物栽培を安定的な環境の下で進めうる利点を実現した。

 二つの装置のうち人工知能制御装置には人工知能制御処理器、加熱器時間管理モジュール、栽培温度モジュール、太陽光作動時間モジュール、植物灌漑時間管理モジュール、太陽光開閉・灌漑水装置開閉・加熱器開閉を組み込んだ栽培制御装置、栽培データ集積モジュール、モニター制御モジュール、信号発信モジュールが組み込まれている。

 栽培装置制御モジュールおよび加熱器時間管理モジュールから栽培灌漑時間管理モジュールまで、4つのモジュールの情報は植物栽培装置にセットされている人工知能制御処理器へと結ばれ、集まった情報は栽培データとして集積、それをモニターで監視することができる。人工知能制御処理器の情報は、データ発信モジュールとデータ受信モジュールへ集約される。

 もう一方の植物栽培装置は、さらに複雑な構造からできている。その心臓に当たる装置は人工知能処置器であり、人工知能制御処理器から送られる信号受信モジュール・データ送信モジュール・稼働時間モジュールを通じて情報を集積し、それを加工し、さらに独自の情報を集積しながら装置のオペレーションを行う仕組みだ。

 この栽培装置は人工知能処理器を中心に温度変化、太陽光管理、加熱管理、灌漑管理などのモジュールを集積し、環境制御された植物栽培装置を形成している(図1参照)。

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図1 人工知能定温植物栽培装置の構造分解

(クリックすると、ポップアップで拡大表示されます)

 中国では食品の安全問題が消費者に広く認識されるに及んで、外部と遮断した密閉式の栽培装置が選考される傾向を強めている。消費者からは、化学肥料と農薬の使用管理に厳しい目が注がれるようになっている。

 この点が背景となって、ビニールハウス栽培においても密室化が進んでいるが、技術的にそれよりも一段と高い技術を集約する植物工場が急速な広がりを見せつつあるのが現状だ。

 なかでもいま紹介した事例は、人工知能を栽培環境制御の核心に於いて栽培データの集積をしながら、栽培管理機能を更新していく動態的な核心技術に位置づけられる。

2.コンテナ植物工場の養液供給・回収システム

 コンテナ植物工場は簡単にいえば、土壌の持つ良さも欠点も排除した有機・無機の素材からできた培地を使い、そこに肥料分や免疫性の薬品類などさまざまな成分を含む養液を使うシステムだ。

 コンテナ植物工場を人体に例えれば、養液システムは、心臓と血管そして肝臓と腎臓に当たる。人体は肝臓できれいな血液を作り、それを心臓から血管を使って送り出し回収、腎臓で浄化し再利用、純度が下がった段階で体外へ送り出される。

 コンテナ植物工場を動かす上では不可欠な養液だが、その使い方には、DFT(Deep Flow Techniqu:湛液型水耕栽培-養液に循環性がなくベッドまたは容器に滞留)とNFT(Nutrient Film Technique:薄膜型水耕栽培-ベッドが斜めで養液が流れるので循環)とあるが、現在の中国のコンテナ植物工場を含む植物工場はおおむねDFTである。

 ここで紹介するコンテナ植物工場もNFTであり、養液供給・回収システムに優れ、供給と回収システムを分離、最後に回収槽に集めるという部分に焦点を当てたものである。

 回収した養液は、その後洗浄効果を持つ濾過装置に送られ、状況により再利用の頻度を上げ下げしながら運用される。状況とは、養液自体の温度、栽培植物の品目、微妙に変化する温度、湿度、二酸化炭素量など室内環境のことである。

 本事例の場合、養液については原液貯蔵システム、その養液槽連結システム、養液供給管理システム(養液槽とその残量センサー(センサーによる供給量の自動バルブによる自動調整)、養液が植物根に適切に吸収されるシステム(養液槽の出入口のバルブによる自動調整)、養液回収システム(回収養液の貯蔵とその殺菌などを施す濾過装置とおよび循環バルブの設置)、システム全体の監視制御システム(養液過不足時における原液の養液化に際しての水その他の成分との調合および,その供給調整システム、養液吸収システム、養液回収システムの自動制御)から構成されている。養液槽があることから、新旧養液が所定のpH及びEC濃度に自動的に調整される。

 同時に、監視制御システムにはタッチパネルのディスプレイを併用、操作を容易にするよう可視化されている。養液は多様な成分からできていることから、ときに固まるか濃度自体にばらつきが生まれる可能性があり、これを避けるため養液供給管理システムには、適宜作動する攪拌機能が付設されている。さらに、養液のEC・アルカリ度センサーがある。

 以上のシステムごとの装置の交換作業は容易にできるよう設計されているので、装置の老朽化にも迅速に対応可能である(図2参照)。

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図2 人工知能制御のコンテナ植物工場の養液供給・回収システム

 本事例には、コンテナ栽培の強みである技術集約的な効率性をさらに高める狙いがこめられていそうだ。

 中国製植物コンテナの優位性の一つは、人工知能が装置全体をコントロールする心臓部に位置づけられている点だ。