【23-14】ばら積み穀物の通関をサポートするスマート検査システム
陳 曦(科技日報記者) 2023年03月06日
ばら積み穀物の検査・検疫難、サンプリング効率の低さを解決
表層スマート検査装置 画像提供取材先
ばら積み穀物を陸揚げすることなく、スマートサンプリング・キープサンプル装置やモバイルスマートサンプリング検疫装置、オンラインスマート検疫装置・システムを通して、表・中・下層のサンプリング・サンプル作成が可能になっている。こうした装置は、サンプリング頻度と1回当たりのサンプリング量を自動で設定して、サンプリング・キープサンプル、サンプル篩い分け、分流展開、篩い分けで残った物の保存、データのリアルタイム送信の全プロセスの自動化、キープサンプル計量、袋詰め、インクジェットによるマークのプロセスの自動化を実現している。
船で輸入されるばら積み穀物は、穀物エネルギー資源の重要な産業チェーンの安全だけでなく、中国のバイオセキュリティにも関わるため、その検査・検疫は非常に重要だ。しかし、船に10数メートルも積み上げられたばら積み穀物のサンプリング、特に中・下層のサンプリングを行い、それを速やかに検査・検疫、鑑定、分析を行うというのは困難で、税関にとってこれまでずっと悩ましい問題となってきた。
この問題が、先ごろ秦皇島港と青島董家口港で解決された。秦皇島税関技術センターと董家口港税関が江蘇閃碼光機電科技有限公司(以下「閃碼科技」)と共同で「船で輸入されるばら積み穀物のスマート検査装置・システム」を開発した。同社は船に乗り込むことなく表層のサンプリングや中・下層のサンプリング、キープサンプル、サンプル作成を行うシステムのイノベーションを行い、複数の技術を駆使して、船で運ばれてきたばら積み穀物のスマート検査装置・システムのスマート化を実現した。
サンプリング、キープサンプル、サンプル篩い分けを含む全プロセスの自動化を実現
長期間にわたり、船で輸入されるばら積み穀物の検査・検疫は、税関の職員が船倉に入って表層検査、サンプリング、第一段階の検査を行った後に、サンプルを税関の実験室へ送り、検査・検疫、鑑定・分析を行ってきた。
穀物は粒が小さい上、流動性があるため、各船倉に1万トンの穀物を積み込むことができるばら積み貨物船において、第一線で検査を行う職員が中・下層のサンプリングを行うというのは、安全のリスクが伴うたいへんな作業となる。
このほか、船で輸入されるばら積み穀物の検査・検疫には時間がかかるのも大黄な問題である。例えば、表層の検疫だけでも6--7時間必要だ。そして、表層から取ったサンプルを実験室に送って結果が出るまでに、通常7--10営業日かかり、港の陸揚げ作業の効率に影響を与えている。
閃碼科技の株主である閃碼科技山東支社の袁海博社長によると、現時点で存在しているこうしたいくつかの難題を解決するために、同社は、船で輸入されるばら積み穀物のスマート検査をめぐるイノベーションプランに基づいて、スマート検査装置・システムを4種類開発したという。
表層スマート検査装置・システムは、船倉の穀物の表層の映像・画像データを収集、伝送、マークをすることができ、同システムを通して、第一線で検査を行う税関の職員は、タブレットPCやスマートフォンといった端末を使って、こうした映像・画像データを見た後、陸揚げする許可を出すかの判断を行うことができるという。
ばら積み穀物を陸揚げすることなく、スマートサンプリング・キープサンプル装置やモバイルスマートサンプリング検疫装置、オンラインスマート検疫装置・システムを通して、表・中・下層のサンプリング・サンプル作成を行うことが可能になっている。こうした装置は、サンプリング頻度と1回当たりのサンプリング量を自動で設定して、サンプリング・キープサンプル、サンプル篩い分け、分流展開、篩い分けで残った物の保存、データのリアルタイム送信の全プロセスの自動化、キープサンプル計量、袋詰め、インクジェットによるマークのプロセスの自動化を実現している。袁社長は、「どの装置も、埠頭の原有の陸揚げ・運搬プロセスに組み込み、さまざまな陸揚げ・運搬シーンに基づいて、サンプリング・キープサンプルの前後に、機器の視覚・近赤外線技術を活用して、陸揚げ・運搬途中の穀物に対して、官能検査、理化データの採集、マーク、伝送を実施することができ、陸揚げしてからすぐに検査して、データを送ることができるようになった」と説明する。
陸揚げ・運搬の過程に組み込まれているほか、穀物の品種に基づいて、1回当たりのサンプリング量やサンプリングの頻度を自動で設定できるため、スマート検査装置・システムは、陸揚げ・運搬の全ての過程における穀物の流れに沿ったサンプリングを実現している。表・中・下層の各層の50ポイントにおいて、200グラムずつサンプリングし、合計8‐10キログラムを抽出する方法と1000トンごとに、1ロットとして全横断面機械サンプリング方法に対し、グリッド式の人員配置によるサンプリング方法と1ロットとして全横断面機械サンプリング方法に取って代わるスマートサンプリングは、サンプリングのカバー性、分布的代表性が一層高くなっている。
袁社長は、「輸入のばら積み穀物を載せた各船において、検査の全プロセスにおける大量のデータの収集・保存、キープサンプルができるようになっている。従来のサンプリング・検査方法と比べると、船1隻当たりの収集できるサンプルデータは、1千倍、ひいては1万倍にも上る。従来の混合・分割サンプル作成から、全てのサンプルを対象にした検査へと改善できた」と説明する。
現時点で4種類のスマート検査装置はいずれも昼夜問わず24時間稼働させることができる。そして、穀物種と穀物の粒子特性、雑草の種、昆虫といったサンプルのデータバンクが絶えず整い、各種データが蓄積され、アルゴリズムが継続的に最適化されるにつれて、システムはAIマシンビジョン技術を活用して、官能検査で不合格となった部分に直接マークを付けることができ、港に到着する船の検査・検疫の複数のシーンに全く新しいソリューションを提供すると期待されている。
インターネット技術を媒介として複数の技術を融合
船で輸入されるばら積み穀物のスマート検査装置・システムは、インターネット技術を媒介として、近赤外線技術や機械設計、自動制御・モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ、AIマシンビジョンを融合させて、船で輸入されるばら積み穀物の検疫・検査データの収集、伝送、マーク、スマート分析、スマート応用を実現し、その穀物のデジタルツインを構築することもできる。
検査・検疫、陸揚げ業務において、スマート検査装置・システムに応用されている近赤外線技術やIoT技術などは、ばら積み穀物のデータ収集を行うことができ、データの真実性と有効性が確保できるようになっているほか、インターネット身分認証、ビッグデータ、AIマシンビジョンといった技術を活用してデジタル証拠、比較照合、追跡・トレーサビリティなどもできるようになっている。
インターネットやビッグデータといった技術を活用して、スマート検査装置・システムが、複雑な各業務において、データ収集やデータ伝送・処理、データ分析といった基礎となる作業を効果的に行うことができるようになっているほか、他機関がデータの照合・比較作業を効果的、かつスピーディーに行うことができるようサポートしている。このほか、同システムは、物理的検査方法や5G通信技術、ブロックチェーン技術を含むより多くの新技術及びデータ収集ハードウェアと互換性がある。
袁社長によると、これまでに、中国の国内にも海外にも、応用されている方法と製品がなかったため、参考にできる経験が全くなかった。そのため、実験しながら、結果をまとめ、アップグレードするしかなかった。その修正、改善のために、毎回、何度も何度も試運転、現場の状況と装置の検査データを照合しなければならなかった。そして、検証をクリアしてはじめて実験成功となった。また、機能性及びサンプルデータバンクの構築にも時間がかかったという。
そして、「表層スマート検査装置の開発」を例にして、「4度モデルチェンジした。1代目は運転が不安定で、設備の性能指標も基準に達していなかった。4代目になってはじめて、作業員1人が、10分でセッティング・取り外しをし、ワンボタンで検査し、起動してすぐに使い、3分以内に故障を発見し、25分で船倉の作業を終え、スマート表示できるようになった」と説明する。
このほか、検査現場の環境温度や明るさ、湿度なども物理・化学指標、視覚指標人工知能の正確度に影響を与える。
装置の識別精度。研究開発者は、各種環境において、異なる時間帯、異なる温度下で、大量の設備の試運転、データ収集、認識アルゴリズムモデルのアップグレードを行わなければならない。
異なる穀物の種類や異なる転送環境、気候環境下において、自動でサンプリングを行う機械の構造やサンプリング精度には、違いが出るため、スマートサンプリングを実現するためには、事前に大量のサンプリング実験を行い、サンプリングの「ブレイン」の構築、蓄積を行い、異なるシーンでスマートサンプリング作業が行えるようにしておかなければならない。
袁社長は、「輸入穀物の検査・検疫をしっかり行い、複数の穀物の粒子特性、雑草の種、昆虫といった有害生物サンプルデータバンクを構築することは極めて重要だ。サンプルデータバンクのサンプル量が比較的少ないという難題については、各側の力を集めてデータバンクのデータを収集する一方で、閃碼科技の常州、秦皇島、董家口、大連にあるサンプルデータバンク構築チームを活用して、複数の穀物、複数の雑草の種のサンプルデータバンクの構築推進を加速させた」と説明する。
穀物・食用油の検査に応用可
2022年10月以来、表層スマート検査装置は、董家口港で昼夜問わず稼働している。認定を受けた税関職員はスマートフォンやタブレットPC、パソコンといった端末を使って、検査の過程をリアルタイムで遠隔操作できると同時に、インターネットを通して、映像・画像及び検査結果をリアルタイムでチェックして、陸揚げ許可の判断を行うことができるようになっている。
第一線で検査を行う税関職員は、船に乗り込まずに、表層スマート検査装置を使って2時間以内に、船(積載量7万トンのばら積み貨物船)の船倉7つの表層検査を完了させることができ、通関にかかる時間が大幅に短縮され、門戸を守りながら、発展を促進することを両立させることができるようになっている。
袁社長は、「現時点で、当社のこの装置・システムは、税関が検査を実施するスマート化サポートツールとして、主に、船で輸入されるばら積み穀物の検査・検疫、サンプリング検査に応用されている。これは、輸入ばら積み穀物輸送のデジタル化監督・管理の一環として、将来的には、穀物を車両に積み込む際の相応の官能検査、物理・化学データ収集・伝送、穀物加工工場・倉庫において穀物を下ろす際の相応の官能検査、物理・化学データ収集・伝送に応用することができる。これにより、2つのシーンにおける同類のデータ照合を行い、転送、監督・管理、市場流通許可の判定ツールの一つとすることができる。内陸部の通関地の穀物輸入についても、輸送ツール及び相応のサンプリング基準に基づいて、このシステムをカスタマイズ調整し、海運と陸運により輸入される穀物の検査・検疫のフルカバーができる」と説明する。
そして、「現時点で、スマートサンプリング・キープサンプル装置・システムをベルトコンベヤーに応用して、中・下層の穀物のサンプリングをめぐる難題解決を検討している穀物・食用油企業がある。大手の穀物・食用油企業や飼料加工企業の穀物の品質・状態といった具体的な検査ニーズに応じて、モバイルスマートサンプリング検疫装置、オンラインスマート検疫装置とシステムをオーダーメイドすることもできる」と述べた。
※本稿は、科技日報「智能査験系統助進境散粮高效通関」(2023年1月19日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。