【24-18】全人代2024、科学技術関連内容を読み解く
松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2024年04月01日
中国の第14期全国人民代表大会(以下、全人代)が3月5~11日に北京で開かれた。
まず、政府活動報告で提示された2024年の目標をまとめると下記の通りである。
出典:第一财经 政府工作报告的五维理解 | ||||
分野 | 指標 | 2023年の目標 | 2023年の実績 | 2024年の目標 |
経済成長 | GDP | 5% | 5.2% | 5% |
物価 | CPI | 3% | 0.2% | 3% |
雇用 | 失業率 | 5.5% | 5.2% | 5.5% |
新規雇用 | 1200万人 | 1244万人 | 1200万人 | |
財政 | 財政赤字率 | 3% | 3.8% | 3% |
地方政府特別債権 | 3.8兆元 | 3.96兆元 | 3.9兆元 |
なお、7日間続いた今回の全人代の核心的内容は以下の5つである。
一、全人代2024の5つの核心的内容
(1)GDP成長率を5%前後に定め、10大活動課題のうち、最優先課題は「現代化産業システムの構築と科教興国戦略(科学技術・教育を通じた興国戦略)の推進を通じた高品質発展の強化」であると提示した。
(2)工業・情報化部は「工業分野データセキュリティ能力向上方案(2024~2026)」を公開し、2026年までに工業分野で基本的なデータセキュリティ保障体系を構築する予定であると明らかにした。当該方案が提示した3大重点課題には、①工業企業データ保護能力向上、②データセキュリティ監督・管理能力向上、③データセキュリティ産業支援能力向上が含まれる。
(3)工業・情報化部は「産業分野におけるカーボンニュートラルの標準システム指針」を発表し、「2025年まで200件以上の標準を設定する。技術と設備分野の標準として、生産過程制御、端末整備、炭素削減協力等の方向性を提示する」とした。
(4)2024年は「京津冀 (北京・天津・河北省)共同発展」計画実施10年目を迎える年で、地域経済、交通インフラ面での成果を発表した。今後人材育成モデル地域の構築、エネルギー協同発展等を強化していく方針であると明らかにした。
(5)2023年「中国の研究開発指数CIRD」は前年より高い評価となったが、特に新エネルギー自動車分野で、海外特許出願件数が1.03万件に増加し、前年比54.9%アップした。
二、科学技術関連内容のまとめ
科学技術分野においては、2024年の科学技術への予算が3708億元となり、前年比10%増加した。科学技術への投資と重視はこれからも続くだろう。
(1)目標:GDP成長率5%、都市失業率5.5%、15の重点活動[ⅰ]も提示
■2024年は14次5か年計画の目標と課題を達成する重要な年として、科学技術の自立、内需拡大、供給面での構造改革、質の高い発展と安全等が極めて大事となる。
■中央予算を7000億元投入し、「科学技術イノベーション、新型インフラ、エネルギー削減、カーボンニュートラル」を重点的に支援する予定である。
■量子技術、生命工学等の未来産業の育成、人工知能+プロジェクトの推進等を重点活動とする。
(2)科学技術イノベーションが主導する現代化産業システムを構築する
■新興産業と未来産業
・ 量子技術、生命工学等の未来産業を育成し、未来産業の先導地域を支援する。
・ スマートコネクト車等の産業強みをより一層強化し、水素エネルギー、新素材、新薬等の新興産業の発展を加速させる。バイオ製造・常用化、航空宇宙、低高度経済等、成長ポテンシャルの高い新産業も育成する。
■デジタル経済
・ ビックデータ、人工知能等の開発と応用を拡大し、人工知能+プロジェクトを推進することで、国際競争力のあるデジタル産業クラスターを育成する。
・ デジタルインフラ、特に国家統合コンピューティングパワーシステムを構築する。
・ 製造業のデジタル転換プロジェクトを推進し、産業インターネットの大規模応用を加速させる。
■供給ネットワークと産業ネットワークの発展を目指す
・ 製造業の重点産業ネットワークと高品質発展プロジェクトを推進し、先端製造クラスター、国家新型産業化モデル区を作る。
・ 「専精特新」の中小企業を育成し、世界的影響力がある「中国製造」ブランドを育成する。
(3)科教興国戦略の実施と強化
■よりハイレベルの科学技術の自立自強を実現
・ 基礎研究システムを強化[ⅱ]し、イノベーション基地、優秀な研究チームと研究者、重点研究分野を安定的かつ長期的に支援する。
・ 国家実験室の運営メカニズムを改善し、重大科学技術インフラの構築を通じ、基盤となる技術プラットフォームと実証プラットフォームを作っていく。
・ 企業を科学技術イノベーションの主体とし、産学研連携、企業主導のファンディングプロジェクトを増やしていく。
■教育システムのイノベーション
・ 教育強国建設計画の綱要を制定・実施し、高等教育総合改革を推進することで、世界一流の大学と学科を育成する。
・ 中西部地域にある地方大学の実力を向上させ、デジタル教育を大いに発展させる。
■ハイレベル人材の育成
・ 国家戦略人材、科学技術リーダーと研究チームを育成し、基礎研究人材を育成できるプラットフォームを構築する。
・ 若手科学者/研究者への支援を拡大し、イノベーション価値・能力・貢献度に沿って評価する人材評価システムを構築する。
習近平政権は、米中貿易戦争の背景もあり、近年、科学技術自立自強を強調しているが、今大会では、今まで以上のハイレベルの科学技術の自立を実現することを強調した。科学技術の自立には、核心技術におけるボトルネックの突破とハイレベル人材が何より重要であろう。そのため、中国政府は、量子技術、人工知能、生命工学、エネルギー分野への集中投資と基礎研究人材の育成、大学教育の改革等に積極的な態度を示した。
一方、今回の政府活動報告では、「安全」について最も多く(29回)触れ、かつ経済成長・物価・雇用・財政における目標が2023年とほぼ変わっていないことから、社会情勢の不安定と楽観的ではない経済状況が読み取れるが、上昇する若手の失業率、停滞する経済成長率を乗り越え、成長ぶりを見せる中国に変身できるかは、これからが勝負所であろう。
[ⅰ] 財政、政府投資、特別国債、未来産業、デジタル経済、消費、住宅、就職、農村振興、都市化、教育、医療保険、社会保障、開放、環境保護等が含まれる。
[ⅱ] 補足すると、基礎研究への投資は近年増加傾向にあるが、2023年基礎研究分野への投資は、前年比9.3%増加した2212億元である。
参考資料
- ①中国中央人民政府「2024年全国两会」
- ②中国中央人民政府「政府工作报告」
- ③第一财经「政府工作报告的五维理解」