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【23-36】宇宙に種子を送る晋中農業ハイテク産業モデル区

韓 栄(科技日報記者) 2023年07月28日

 中国の有人宇宙船「神舟16号」が5月30日に無事打ち上げられ、晋中国家農業ハイテク産業モデル区と山西省晋中市太谷区が選定した「晋谷21」「コーリャン晋糯3号」「トウモロコシ瑞普909親木」など8種類9品種の種子が、中国有人宇宙プロジェクト弁公室の専門家による審査と選定を経て、宇宙に打ち上げられ、宇宙ステーションで宇宙突然変異搭載実験を行うことになった。

 宇宙育種は農作物の種子を帰還型宇宙船に搭載し、宇宙に「出張」させることだ。宇宙線や微小重力、高真空などの特殊環境により、これらの種子のごく少数に遺伝子変異が生じる。これらの種子は地球上に戻った後、科学者の数世代にわたるスクリーニングと育成を経て、最終的に特性が安定した新品種を形成する。

 今回選定された種子のうち、トウモロコシの種「瑞普909」は山西農業大学トウモロコシ研究所が独自開発した食糧用品種だ。同品種の山西省での栽培面積は約26.7万ヘクタール、エリア試験生産量は900キロ以上となっている。収穫量が多く、適応性が高く、病害に強く、倒れにくいという特徴があり、山西省科学技術進歩1等賞を受賞したことがある。

 同研究所の張中東所長によると、「瑞普909」は山西省の春季播種地域だけでなく、東北や華北などの栽培農家からも好評を博しているが、まだ不十分な点もある。例えば、斑点病や茎腐病への耐性が低く、さらなる改良が必要となっている。張氏によると、改良は通常の育種手段でも実現できるが、種子を宇宙に送り込むことでも可能になるという。

 種子は農業における半導体のようなもので、育種の取り組みの着実な推進は食糧安全生産の効果的な措置となる。晋中国家農業ハイテク産業モデル区はここ数年、国家級農業イノベーションプラットフォームとして、科学技術による支援的役割を絶えず強化し、穀物研究所やキヌア研究院など一連のイノベーションプラットフォームを相次いで設置し、育種の研究開発を行う多くのハイテク企業を誘致した。また、中国有人宇宙プロジェクト弁公室と積極的に連携し、中国有人宇宙プロジェクト長期実験協力機関となった。

 晋中国家農業ハイテク産業モデル区管理委員会の王英権副主任は、「今回の宇宙での搭載実験により、比較的短期間で優れた性質を持つ遺伝資源を創出する。これにより、山西省の宇宙育種の新たな道のりが始まる」と語った。

 王氏はさらに「近年は種業技術の研究開発を見据え、宇宙育種技術を利用して遺伝資源を創出している。今回の宇宙育種試験は農作物優良品種の高速育成、有機乾地農業の発展、特色・優位性戦略の実施に対して重要な意義を持つ。晋中国家農業ハイテク産業モデル区は今後、中国有人宇宙プロジェクト弁公室との協力を深め、国の農業・生態建設などの重要なニーズに対し、農業科学技術イノベーションを見据え、有人宇宙技術を利用して宇宙突然変異育種実験を行い、農業・農村現代化の実現に向けて貢献していきたい」と述べた。


※本稿は、科技日報「加速种质资源创新晋中国家农高区送种子上太空」(2023年6月1日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。