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【23-68】新型ポリマーが水中設備の暗号化と偽造防止の難題を解決

兪慧友(科技日報記者) 2023年12月04日

 ブルーエコノミー(海洋経済)の台頭により、ますます多くの設備が海洋資源の開発と利用に使われるようになっている。ただ、これらの設備に使われる偽造防止ラベルや情報暗号化材料は、海水の腐食に耐えられないことがある。中国の科学研究者がこのほど、新しいタイプの光スイッチ型蛍光性ポリマーを開発した。このポリマーは関連する問題の解決や、複雑な光学的情報の暗号化偽造防止材料の設計・作成に対し、新たなアプローチを提供する可能性があると期待されている。最新研究成果はこのほど、学術誌「Materials Horizons」に掲載された。

 刺激応答性ポリマーは、外部の刺激に応答するスマートマテリアルだ。この材料は外部の刺激に応答し、その物理的、化学的性質を変えることができる。外部からの刺激には、光や温度、力、湿度、PH値、電気などがあり、うち、温度や力、湿度、PH値、電気は接触型の刺激手段であり、いずれも材料に避けられない損傷を与えることになる。

 偽造防止ラベルと情報暗号化材料のうち、比較的多く使われているのは光の刺激に応答する光スイッチ型蛍光ポリマーだ。この材料は異なる光の刺激を受けると、色または蛍光の可逆的変化により「スイッチ機能」を実現する。こうした材料は主にフォトクロミック分子(スピロピラン、ジチエニルエテンなど)の共有結合をポリマーに結合することにより、高い光スイッチ型性能を実現するとともに、ポリマーとしての複数のメリットも備えている。

 光スイッチ型蛍光ポリマーは、その高い輝度、高コントラスト、迅速な応答、そして優れた耐疲労性により、物品の偽造防止や情報保存・暗号化、バイオイメージングなどの分野に幅広く応用されている。ただ、残念ながら、現時点で、光スイッチ型蛍光ポリマーの大半は、一般的な環境にしか応用されていない。厳しい水中環境においては、光スイッチ型蛍光ポリマーは安定性が低く、防汚能力や自己修復効率が低いという問題が数多く存在し、このことが光スイッチ型蛍光ポリマーの水中における応用と発展の重い足かせとなっている。

 こうした難題を解決するべく、湖南科技大学の陳建教授率いるチームは、電子科技大学の崔家喜教授率いるチームと共同で、水中の偽造防止と情報暗号化に応用できる高弾性の自己修復可能な光スイッチ型超分子蛍光ポリマー(PSFPs)を開発した。この新しいタイプのポリマーは、従来の光スイッチ型蛍光材料の利点を生かし、超分子ポリマー体系と光スイッチ型蛍光分子を組み合わせ、既存材料の応用性能を向上させている。

 チームはまず、2種類の光スイッチ効果を持つジチエニルエテン分子を作成し、その後、フッ素化合物基質を選び、水中において偽造防止機能を持つPSFPsを作成した。PSFPsの分光法に対する測定で、チームは365ナノ、254ナノの紫外線、および460ナノ、525ナノの可視光線を交互に照射した。その結果、作成したPSFPs膜は、無蛍光、赤蛍光、緑蛍光の3つの状態で可逆的に変化することが分かった。また、ポリマー基質における独特な双極子--双極子相互作用により、このポリマーに高弾性と高い自己修復率が与えられることが分かった。

 陳教授によると、PSFPsはさまざまな基材の表面で良好な粘着性能を示している。これは、偽造防止ラベルに応用できる高いポテンシャルを秘めていることを物語っている。また、その非共有結合で架橋できる超分子相互作用により、優れた溶剤性質や熱加工性、防汚能力が備わることも分かった。さらに、それを酸性溶液やアルカリ性溶液、生理食塩水といった複数の極端な水中環境に1週間以上放置しても、そのスイッチ能力とポリマーの形状に著しい変化は見られなかった。陳教授は「これらの特徴により、この材料を水中の情報暗号化と偽造防止ラベルに応用できると確信している」と語った。

 チームはこのほか、PSFPsの自己修復性能も検証した。今後は必要に応じてマルチレベルの情報暗号化システムを構築する可能性を探るという。


※本稿は、科技日報「新型聚合物破解水下设备加密防伪难题」(2023年10月24日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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