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【22-60】ペロブスカイト太陽電池 商用化まで後どれくらい?

滕継濮(科技日報記者) 韓 栄(科技日報実習記者) 2022年11月08日

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画像提供:視覚中国

 ペロブスカイト太陽電池は、軽くて薄く、低コストで容易に製造でき、弱い光でも変換効率が高いという優位性を誇ることから、大きな注目を集めている。

 太陽電池は、光起電力効果を利用して、光エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスで、広い発展と応用の見通しがある。新型太陽電池としてのペロブスカイト太陽電池も近年、少しずつ頭角を現している。中国科技部(省)を含む9当局がこのほど共同で通達した「テクノロジーで二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラルを支える実施案(2022--30年)」(中国語:科技支撑碳达峰碳中和实施方案(2022--2030年))も、ペロブスカイト太陽電池に言及している。

 では、ペロブスカイト太陽電池とは何なのだろう?従来の太陽電池とは何が違うのだろう?将来的にはどんなシーンに応用が可能なのだろう?科技日報の記者はこのほど、ペロブスカイト太陽電池分野の複数の専門家を取材した。

サンドイッチのような構造の新型太陽電池

 ペロブスカイト太陽電池は、色素増感太陽電池の一種で、光吸収層にペロブスカイト材料を採用している。

 次世代の太陽電池としてのペロブスカイト太陽電池の動作原理は、従来の太陽電池と違いはない。その構造はまるでサンドイッチのようで、典型的な構造は5層になっている。2つの電極が、サンドイッチの2枚のパンのように一番外側にあり、次に正孔輸送層と電子輸送層があり、ペロブスカイト層が真ん中にある。

 太陽の光がペロブスカイト太陽電池に当たり、太陽光の光子のエネルギーがバンドギャップを上回ると、ペロブスカイト層が光子を吸収し、「電子‐正孔対」が生成される。そして、電子輸送層が、分離した電子を負極に輸送し、正孔輸送層が電子から分離した正孔を正極に輸送し、さらに外部回路で電荷移動が起きることにより、電流が発生し、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。

 北京理工大学材料学院の陳棋教授は、ペロブスカイト太陽電池の動作原理について、「太陽電池を教室、男子学生を電子、女子学生を正孔に例えることができる。太陽光が太陽電池に当たると、授業の終わりのチャイムが鳴るようなもので、男子学生は列を作って後ろの扉から外に出て、女子学生は前の扉から外に出ることにより、電荷移動が起きる」と説明する。

ペロブスカイト太陽電池の3つの際立つメリット

 ペロブスカイト太陽電池は材料が特殊であるため、誕生した時から、さまざまな点で優位性を誇り、広く注目を集めている。

 2016年「第13次五カ年計画(2016‐20年)国家戦略的新興産業発展計画」は、「ペロブスカイト太陽電池、色素増感太陽電池、有機太陽電池といった効率的で低コストの新型太陽電池技術の研究開発を強化する」としている。

 重慶大学物理学院の博士課程指導教員・鄧業浩教授は、「市場に出回っている結晶シリコン系太陽電池と比べると、ペロブスカイト太陽電池には3つの際立つメリットがある」と説明する。

 1つ目のメリットは、ペロブスカイト材料は光エネルギーを吸収する能力が高いという点だ。太陽光の主な波長の下、ペロブスカイト材料の光エネルギー吸収能力は結晶シリコンの10倍以上に達する。そのため、同様の光エネルギー変換効率とすると、ペロブスカイト太陽電池のほうが薄くできる。鄧教授によると、製品の形式を大幅に拡大でき、幅広いシーンに応用できるという。

 2つ目のメリットは、ペロブスカイト太陽電池は、低コストで、製造しやすい点だ。鄧教授は、「ペロブスカイト材料は合成材料の一種で、その原料にレアメタルは含まれていないほか、溶解処理を採用して製造することができる。そのため、ペロブスカイト材料の製造コストが安く、製造が容易だ」と語る。

 3つ目のメリットは、ペロブスカイト材料は弱い光でも変換効率が高いという点だ。曇りで光が弱いという条件下でも、ペロブスカイト材料は、短波長光を吸収できるだけでなく、高いエネルギーの変換効率を維持することができる。ペロブスカイト材料のそのような特徴により、ペロブスカイト太陽電池は、薄膜型太陽電池で、単層電池とすることもできれば、理論上、各種電池の材料の表面に積層し、積層電池とすることもできる。そうなると、太陽光の利用効率を効果的に高めることができる。

 鄧教授は、「実験室における測定結果からして、数十年の発展を経たシリコン系太陽電池の変換効率は最高26.7%。それに対して、ペロブスカイト太陽電池の変換効率は現時点で既に25.7%に達しており、先の見通しは明るい」と説明する。

商用化に向けての2つの課題

 実験室において、理論的にはペロブスカイト太陽電池には非常に大きなメリットがあることが分かっているものの、産業化という観点から見ると、依然として「発芽」したばかりの段階だ。それは、不安定性と、モジュールサイズを大面積化した時に変換効率が下がるという、2つの短所が存在しているからだ。

 まず、不安定性という課題について、陳教授は、「実験室では、ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率が高いが、実際の応用においては、さまざまな条件の制約を受けることになる」と指摘する。

 北京曜能科技有限公司の孫于超会長は、「業界内では現在、ペロブスカイト太陽電池の課題を解決するための取り組みが多方面で行われている。例えば、不安定性という問題を例にすると、ペロブスカイト材料自体を改良するというのが、その問題を解決する最も直接な方法だ。構造設計、元素置換、添加・ドープといった手段を通して、材料自体を安定させ、材料自体の固有安定性を高めることができる。他にも、製法や工学的手段を通して、水や熱といった、外部の不安定要素と隔絶することで、外部の不安定要素が材料や部品に与える影響を減らすというのも実行可能な手段だ」と説明する。

 これについて、中国科学院電工研究所太陽電池技術研究部の王文静部長は、「外部の不安定要素と隔絶するという方法は、屋外での大量の検証が今後必要だ」との見方を示す。また、現時点で報道されているペロブスカイト太陽電池の寿命は最長で数千時間にとどまり、シリコン系電池を大きく下回っている。

 不安定性という課題のほか、モジュールサイズを大面積化した時に変換効率が下がるというのもペロブスカイト太陽電池の短所だ。

 王部長は、「効率という点では、ペロブスカイト太陽電池を商用化、応用することに問題はない。しかし、実験室の小面積から、いかに実際に応用される大面積へと拡大させるかが、商用化のために乗り越えなくてはならない高いハードルとなっている。現時点では、実験室で製造されているペロブスカイト太陽電池は指の爪ほどの大きさで、市場で必要とされる太陽電池のサイズには程遠い」と指摘する。

 ペロブスカイト材料は、結晶化の速度が速く、生産におけるプロセスウィンドウはわずか数秒であるため、生産の難度が高い。それ以外に、ペロブスカイト太陽電池を製造する過程で、小さな破損、一つのほこりがあったとしても、電池パネル全体の効率に影響を及ぼし、大面積に応用した際の効率が下がってしまう可能性もある。

 王部長は、「現時点で、ペロブスカイト太陽電池の製造技術は、いかにペロブスカイトの薄膜を緻密でフラットにするかという問題と、いかにクリーンな環境を確保して、ほこりといった要素が良品率を下げることがないようにするかという2つの問題を解決しなければならない。先進的製造技術を確立できれば、ペロブスカイト太陽電池を大面積で応用した時の効率を保証することもできる」と説明する。

見通しが明るい中国のペロブスカイト太陽電池技術

 ペロブスカイト太陽電池には依然として不確定要素がたくさんあるものの、学界の多くの専門家は将来性について楽観的な姿勢を示している。

 陳教授は、「中国は現在、ペロブスカイト太陽電池の学術研究と産業研究において、2つの面で優位性を誇っている。1つは、研究グループの規模が大きいという点で、中国のペロブスカイト太陽電池を研究している企業・機関は海外より遥かに多い。2つ目は、中国には非常に大きな産業の基礎があるという点で、太陽光をめぐる市場、製造業は急拡大している」と説明する。

 そして、「中国のペロブスカイト太陽電池の技術には無限の可能性がある」との見方を示す。

 ペロブスカイト太陽電池の今後の応用について、孫会長は、「ペロブスカイトをめぐる技術を応用する最も価値あるシーンは、大規模な太陽光発電の分野だ。ペロブスカイトは、シリコン系の電池と組み合わせた積層電池にすると、太陽光発電パネルの発電効率を大幅に向上させることができる。それにより発電コストのさらなる低減にもつながる。そして、従来の化石エネルギーに代わるエネルギーとしての使用が加速し、中国のCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標達成を後押しする。このほか、ペロブスカイト太陽電池は、シリコン系電池の1000分の1の薄さに過ぎず、フレキシブルで軽いという特徴があるため、ウェアラブル発電デバイスに応用したり、太陽光発電のガラス・建築物一体化、屋外の臨時発電設備に応用したり、さらには宇宙における発電に応用したりと、さまざまなシーンに応用できる」と説明する。

 ペロブスカイト太陽電池の分野で数年間奮闘してきた孫会長と科学研究チームは、知られていなかったペロブスカイト太陽電池が、少しずつ一般の人々の視野に入るようになる過程に立ち会ってきた。「テクノロジーでCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルを下支えする実施案(2022--30年)」が、「効率的で安定したペロブスカイト太陽電池を研究開発する」と言及しているのを知った孫会長は、「ペロブスカイト太陽電池の時代が来た!」と興奮気味に話した。


※本稿は、科技日報「雖独具特色,但仍存短板 鈣鈦鉱電池距離商業化還有多遠」(2022年9月20日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。