【22-54】科学普及と技術革新の相乗効果で科学技術強国建設を力強く支える
劉 垠(科技日報記者) 2022年10月21日
----科技部党組書記を務める王志剛部長が「新時代におけるテクノロジー普及事業のさらなる強化に関する意見」を解説
中国共産党中央委員会弁公庁と国務院弁公庁がこのほど通達した「新時代における科学技術普及事業のさらなる強化に関する意見」(关于新时代进一步加强科学技术普及工作的意见。以下「意見」)は、新時代におけるテクノロジー普及事業を強化するために体系的な計画を制定し、具体的な要求を提起している。
今の状況下で、同文書の制定にはどんな意味があるのだろうか?テクノロジー普及事業が「新時代」に突入したことをどう理解すればいいのだろうか?今、どんな新たな課題に直面しているのだろう?テクノロジー普及・発展における難題をめぐって、同文書はどんな解決策を打ち出しているのだろうか?中国科学技術部(省)の党組書記を務める王志剛部長が9月4日、科技日報の取材に応じ、上記の質問に答えた。
記者:「意見」が発表された背景にはどんな理由があるでしょうか?その重要な意義とは何でしょうか?
王部長:中国共産党中央委員会と国務院は常にテクノロジー普及事業を重視してきた。2012年に中国共産党第18回全国代表大会が開催されて以来、習近平総書記は、何度もテクノロジー普及事業に関する重要な指示を出し、2016年の「テクノロジー三会(全国テクノロジーイノベーション大会、中国工程院・中国科学院院士大会、中国科学技術協会第9回全国代表大会)」では「テクノロジーイノベーションと科学普及はイノベーション発展を実現するための『両翼』で、科学普及をテクノロジーイノベーションと同等の重要な位置づけにしなければならない」と強調した。また、2020年科学者座談会では、「子供の頃から、科学に興味を抱くよう導き、育てなければならない」と強調し、2021年中国工程院・中国科学院院士大会、中国科学技術協会第10回全国代表大会では、「科学を尊ぶ気風を醸成し、より多くの青少年が科学に関する夢を抱き、イノベーションを志向するようにしなければならない」と強調した。
「意見」の制定は、習総書記のテクノロジー普及事業に関する重要な指示を徹底するための着実な措置で、現在、そして今後しばらくの間のテクノロジー普及事業を導く綱領的文書となり、制度面でテクノロジー普及とテクノロジーイノベーション事業を統一して推進することになる。「意見」には、中国共産党中央委員会と国務院の新時代におけるテクノロジー普及事業に関する新たな明確な要求が示されており、新時代におけるテクノロジー普及・イノベーション発展を推進する重要な契機となるだろう。
中国のテクノロジー普及事業は長年、目覚ましい発展を遂げてきた。新時代に突入し、世界テクノロジー強国を建設し、ハイレベルなテクノロジーの自立自強を実現するという目標は、テクノロジー普及事業に対する要求をさらに高くしており、時代がテクノロジーイノベーションに与える歴史的使命ともなっている。「意見」は、テクノロジー普及の質の高い発展が直面している難題解決と体制メカニズムの障害打破に注力しており、テクノロジー普及事業発展に強力なサポートを提供し、テクノロジー普及が国家の戦略的任務と使命において重要な役割を果たすほか、科学の精神を培い、テクノロジーイノベーション人材を育成し、一般社会においてイノベーションの雰囲気を作り出すといった面でも重要な役割を果たすことになり、テクノロジー普及事業発展を踏み込んで推進し、ハイレベルなテクノロジーの自立自強に効果的にサービスを提供するうえで重要な意義がある。
記者:文書が言及している「テクノロジー普及事業が『新時代』に突入しているという表現はどのように理解すべきでしょうか?
王部長:世界的に見ると、今の世界は百年間なかった大変局に直面しており、世界の力関係が大きく変わろうとしている。平和と発展は依然として時代のテーマで、人類運命共同体という理念がしっかりと人々の心に刻まれている。同時に、世界の環境が日に日に複雑化し、世界の経済、テクノロジー、文化、安全、政治などの構造が大きく変化している。新型コロナウイルスのパンデミックが、この大変局を加速させている。気候変動やエネルギー資源、公共衛生といった世界的問題に対処するために、グローバルテクノロジーガバナンスをめぐる共通認識を築くことが急務となっている。そのためには、科学普及が架け橋としての役割をさらに果たし、技術的・人的・文化的交流を深化させ、文明の相互参考を推進し、さらに多くの世界の先進的な事例に学び、それを参考にし、世界に一つでも多くの中国のテクノロジー成果をシェアし、世界的課題に対処するうえで、「中国の知恵」を提供し、人類運命共同体構築のためにさらにサービスを提供しなければならない。
中国国内を見ると、中国は質の高い発展の段階へと既に移行しており、制度の優位性が際立ち、ガバナンスの効果が向上し、経済が長期にわたり好調さを維持しており、物質的基礎が厚く、ヒューマンリソースが豊富で、市場が巨大で、発展の強靭性が高く、社会の全体的な情勢が安定していて、発展し続けるための優位性と条件が揃っている。しかし、中国の発展は、アンバランスで、不十分という問題が依然として際立っており、重点分野のカギとなる部分の改革は困難に満ちた任務となっており、イノベーション能力は質の高い発展の要求に適応できていない。中国共産党中央委員会の重要な方策・計画を実行し、新たな発展構造構築を加速させ、質の高い発展を推進するためには、科学普及がイノベーション発展における基盤としての役割を十分に果たすようにし、テクノロジー普及の「ソフトパワー」戦略の下支えを構築し、経済、社会の発展のためにさらにサービスを提供するようにする必要がある。
テクノロジー発展の動向を見ると、新たなテクノロジー革命と産業変革が一層進み、科学の社会的機能、科学と人・文化の関係に大きな変化が生じており、科学普及がテクノロジーと人、テクノロジーと経済、テクノロジーと社会、テクノロジーと文化の相互融合を大々的に推進し、科学的、理性的、文明的で、調和の取れた社会的雰囲気を作り出し、国家ガバナンスの近代化に寄与し、人間の全面的な発展、社会文明の進歩を促進するようにする必要がある。
記者:社会全体が共にテクノロジー普及事業の発展推進を促進するうえで、「意見」は、「ビッグテクノロジー普及」構造構築のためにどのような計画を制定し、措置を講じているでしょうか?
王部長:テクノロジー普及は、社会全体が共同で実施する事業で、テクノロジー普及事業は、経済建設、テクノロジー、教育・文化、国民の生活といったさまざまな面をカバーしている。そして、関係当局や企業、学校、科学研究機関、テクノロジー従事者、さらには国民一人ひとりと密接な関係があり、社会の各方面が参加し、共に成し遂げなければならない。政府が誘導し、一般社会が参加し、情報化が下支えし、運営が市場化された「ビッグテクノロジー普及」事業の構造を構築するために、「意見」は主に3つの面に重点を置いている。
第一に、テクノロジー普及関連の法律、法規体系を継続的に整備し、テクノロジー普及事業の統一した計画・調整を強化することに重点を置いている。「意見」は、テクノロジー普及関連の法律・法規体系を整備し、「中華人民共和国科学技術普及法」の改正を積極的に推進し、関連政策も整備し、政策の繋がりを強化することを強調している。また、テクノロジー普及事業の統一した計画・調整を強化し、テクノロジー普及連席会議のメカニズムがその役割を十分に果たすようにし、役割分担が明確で、資源を共有でき、優位性を相互補完できる共同推進メカニズム構築を推進し、中央・地方政府と機関の上下が連動し、全国が密接な関係にあって一つにまとまったテクノロジー普及事業体系を構築する。
第二に、カギとなる当局の主体的責任を継続的に強化することに重点を置いている。「意見」は、テクノロジー普及事業において6種類のカギとなる機関に対して、明確な要求を示している。各級党委員会と政府がテクノロジー普及事業を誘導する責任を果たすことを強調し、テクノロジー普及事業を国民経済・社会発展計画、重要な議事日程に組み込み、テクノロジーイノベーションと協同しながら計画・推進するとしている。また、各業界の主管当局に対して、テクノロジー普及をめぐる行政管理責任を果たすよう求め、各級のテクノロジー行政当局に対して、統一した計画・調整、テクノロジー普及計画・監督検査を強化するよう求めている。また、各級のテクノロジー協会に対しては、テクノロジー普及事業における主な社会の力としての役割を果たし、テクノロジー普及事業職能を強化し、テクノロジー普及に関する意思決定コンサルティングサービスを提供するよう求めている。各種学校や科学研究機関に対しては、テクノロジー普及事業に対する責任感を高め、自身の優位性を活用して、テクノロジー普及のための資源供給を強化するよう求めている。企業に対しては、テクノロジー普及に関する責任を果たし、テクノロジー普及事業とテクノロジー研究開発、製品のPR、イノベーション・起業、技能研修を有機的に結び合わせるように求めている。各種メディアに対しては、発信ルートとしての重要な役割を果たすように求め、主流メディアに対しては、モデル・リーダーとしての役割を果たし、テクノロジーのPRを強化し、テクノロジー普及のコンテンツを増やすよう求めている。新興メディアに対しては、責任感を高め、テクノロジー普及に関する作品の理に適った審査を強化するよう求めている。
第三に、テクノロジー従事者と国民が積極性を高めるよう誘導することに重点を置いている。「意見」は、テクノロジー従事者に対して、自身の優位性や特技を活かし、テクノロジー普及事業に積極的に参加し、それをサポートし、テクノロジー普及に対する責任を積極的に果たすよう求めている。また、一般の人々が理解し、受け入れ、参加しやすい方法を採用して、テクノロジー普及を展開する。科学者の精神を大々的に継承し、その発展を図り、科学、道徳の規範を厳守し、全国民の科学的素養を高めるために模範を示すよう求めている。「意見」はまた、一般の人々に対して、テクノロジー普及活動に積極的に参加し、科学的素養を高め、テクノロジーの知識を生涯学習の重要な内容としてマスター・活用し、疑似科学、反科学といった悪いことを拒否するよう呼び掛けている。
記者:「意見」はテクノロジー普及とテクノロジーイノベーションの協同発展促進を強調しています。では、新時代において科学普及とテクノロジーイノベーションの「両翼」がバランス良く羽ばたく良好な局面形成をどのように促進するのでしょうか?
王部長:2020年に行われた中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議では、近代化建設の全体に目が向けられ、テクノロジーイノベーションがこれまでにない高い位置に置かれた。そして、イノベーションが中国の近代化建設の全体における中核的な地位の堅持、テクノロジー自立自強を国家発展の戦略的下支えとすることが強調された。テクノロジー普及は、国のイノベーション体系において重要な位置を占めており、テクノロジー普及の質の高い発展を推進することは、イノベーションによる駆動戦略を全面的に実施するためには必然的な要求となる。「意見」は、科学普及をテクノロジーイノベーションと同じほど重要な位置に置く姿勢を堅持しており、「両翼理論」に対する理解を深め、科学普及とテクノロジーイノベーションの協同発展を促進し、新時代において科学普及とテクノロジーイノベーションという「両翼」がバランス良く羽ばたき」、協同発展する良好な局面形成を推進していく。
第一に、テクノロジー普及発展という方向性において、戦略的使命を強化している。新時代におけるテクノロジー普及事業は、「4つの向け」(世界のテクノロジーの先端に向け、経済の主戦場に向け、国の重要な需要に向け、国民の命の健康に向け)とハイレベルテクノロジー自立自強に焦点を合わせ、全面的にテクノロジー普及の供給側改革を推進し、全国民の科学的素養を高め、イノベーションの肥沃な土壌を多く作り、テクノロジー普及の質の高い発展が、新たな発展構造に溶け込んで、さらによく寄与することを強調している。
第二に、テクノロジーイノベーションがテクノロジー普及事業に対する牽引的役割を発揮する。「意見」は、ハイレベルなテクノロジーの自立自強に焦点を合わせ、テクノロジー資源のテクノロジー普及化を大々的に推進し、条件が整っているテクノロジーインフラとテクノロジーイノベーション拠点の一般向け公開の強化を強調している。国のテクノロジー計画の企画・実施において、テクノロジー普及事業とのマッチングや体系的な計画を強化し、テクノロジー普及のスタイルを積極的に活用し、国のテクノロジー発展の重点的方向性とテクノロジーイノベーション政策をPRし、一般社会がテクノロジーイノベーションを理解し、それを支持するよう正しい方向に導き、科学研究と技術応用のために良い雰囲気づくりを行う。
第三に、テクノロジー普及がテクノロジー成果転化に対する促進的役割を発揮する。基礎研究や先端技術といったテクノロジーイノベーションの重点領域を戦略的方向づけとし、それに的を絞ってテクノロジー普及を実施するほか、テクノロジー普及を活用して、テクノロジー成果を正しく理解・使用するよう誘導し、テクノロジー成果が多くの人に恩恵を及ぼす。また、テクノロジー普及において、率先して新技術を応用するよう奨励し、新技術応用のために良い環境づくりをするほか、テクノロジー成果の移転・転化モデルエリアや、ハイテク産業開発区などを推進し、テクノロジー成果、テクノロジー普及のPR・説明プラットフォームを構築し、テクノロジー成果転化を推進する。
記者:テクノロジー普及が素晴らしい生活を望む国民のニーズを満たすようにするために、「意見」はどのような計画をしているでしょうか?
王部長:「意見」は、国民を中心とし、素晴らしい生活を望む国民の願いを満たすことをテクノロジー普及の出発点、最終目標とし、国民に利益を与え、国民の生活を豊かにし、民生を改善することを科学普及の主な方向性とし、テクノロジー普及事業を全面的に向上させることで、国民の間で日に日に高まる素晴らしい生活に対する願いを着実に満たす。そして、国民が科学を理解するよう推進し、社会の力がテクノロジー普及に参加するよう働きかけ、一般社会がテクノロジーイノベーションを理解し、それを支持するよう正しい方向に導き、十数億人の国民の中に眠っているイノベーションの知恵を十分に引き出し、国民の幸福感、獲得感が高まり続けるようにする。
「意見」は、テクノロジー普及の分野の世論誘導を強化すると明確に指摘しており、正しい政治的立場を堅持し、テクノロジー普及世論の場の建設、監督・管理を強化する。また、テクノロジー普及の分野のリスク管理意識と国家の安全という観念を増強し、テクノロジーイノベーションの分野における世論誘導メカニズムを構築し、テクノロジー解説権を掌握し、盲信思想を打ち破る姿勢を貫き、疑似科学、反科学に反対し、テクノロジー普及を名目にした毀損や中傷を取り締まる。
「意見」は、科学者精神の継承・発展を提唱し、前世代の科学者の優秀な品格を継承し、それを発展させ、優秀なテクノロジー従事者とイノベーションチームのPRを強化し、精神的内包を掘り下げ、テクノロジー従事者が科学者精神を主体的に実行するよう誘導し、より多くの青少年がテクノロジー事業に従事するよう導く。
さらに、「意見」は少数民族が暮らす地域や国境地域、低開発地域のテクノロジー普及事業を強化し、テクノロジーが農村、村の各世帯に届けるテクノロジー普及活動を企画・実施することを求めているほか、テクノロジー普及対外交流協力を促進し、国際テクノロジー普及交流メカニズムを整備するなどを打ち出している。
※本稿は、科技日報「科学普及与科技創新協同発力 為世界科技強国建設提供強勁支撐」(2022年9月5日付1面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。