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【23-10】タンパク繊維:加工くずがグリーンな高品質生地に華麗なる変身

李 禾(科技日報記者) 2023年02月17日

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画像提供:視覚中国

 タンパク繊維は、バイオベースの化学繊維に分類され、タンパク質と紡績糸の加工くずを混ぜ合わせて作られるか、その他の高分子の紡績糸やコンジュゲート糸とグラフトして作られ、グリーンで無公害、原料源が幅広い、生分解性といったメリットがあるほか、石油ベースの化学繊維の石油系化学品への過度の依存という問題を効果的に解決することができる。タンパク繊維は現在、高級衣類やホーム用品・服飾、ホームテキスタイルといった分野に応用されている。

 中国のタンパク繊維産業は安定した発展を見せており、種類がそろい、新技術の研究開発及び産業化という面でブレイクスルーを次々に実現している。そして、機能化とグリーン化が現在、タンパク繊維の重要な発展の方向性となっている。中国科学院大学材料科学・光電技術学院の研究員・蘇娟娟氏が率いるチームはこのほど、不凍性と低温機械性能の高い不凍タンパク繊維を開発した。従来の繊維と明らかに違うのは、そのタンパク繊維は、マイナス20‐40℃の環境でも、高い剛性と強靭性を維持することができる点だ。

 蘇氏らの研究は、中国のタンパク繊維のイノベーション発展の氷山の一角に過ぎない。タンパク繊維は、グリーンで無公害、原料源が幅広い、生分解性といったメリットがあるほか、石油ベースの化学繊維の石油系化学品への過度の依存という問題を効果的に解決することができるため、中国では近年、急速に発展している。

廃棄物が紡績の原料に変身

 原料源によって、化学繊維は、石油ベースの化学繊維とバイオベースの化学繊維に分類することができる。タンパク繊維は、バイオベースの化学繊維に分類され、タンパク質と紡績糸の加工くずを混ぜ合わせて作られるほか、その他の高分子の紡績糸やコンジュゲート糸とグラフトして作られることもある。現時点では、大豆や牛乳、セミの幼虫、動物の革のコラーゲン、羊毛、カイコの糸などを原料としたタンパク繊維がある。

 中国は、タンパク繊維を幅広い分野に応用している国の一つだ。例えば、大豆や牛乳、羊毛、カイコの糸などを原料としたタンパク繊維は、高級衣類、ホーム用品・服飾、ホームテキスタイルといった分野に応用されている。例えばカイコを原料としたタンパク繊維は、繭から糸を取った後のカイコを原料とし、カイコのタンパク質を抽出し、化学修飾を施して、タンパク質ドープを作るとともに、ビスコースドープと混紡する。また羊毛を原料としたタンパク繊維は、用途がほとんどない革や毛を原料として、含まれるタンパク質の量が約3%のタンパク質水溶液を作り、それにビスコース繊維などの繊維素材料を混ぜて作られる。羊毛を原料としたタンパク繊維を使って生産された生地はソフトな手触りで、シルクのような光沢があり、通気性が良く、静電気の発生を防ぐ性質もある。

 カイコや羊毛を原料としたタンパク繊維の原料はいずれも生産の過程で発生する加工くずだ。再生可能資源の総合利用と近代繊維加工技術を組み合わせて、「廃棄物が宝へと変わる」、タンパク繊維生産が実現しているのだ。

新たな進展を遂げつつあるタンパク繊維の研究開発

 新しい物を原料としたタンパク繊維及びその生産技術が新たな進展を遂げつつある。

 例えば、冒頭で取り上げた蘇氏が率いるチームが研究開発した不凍タンパク繊維は、イカ由来のIII型不凍タンパク質(T3AFP)とユキシリアゲムシに由来するグリシンを豊富に含む不凍タンパク質(SnAFP)を、高度に秩序正しいタンパク構造に埋め込んで作られている。

「凍結防止剤」のように、不凍タンパク質は、小さな氷晶と結合し、さらに大きな氷晶の生長を抑制して、細胞と血液が氷点下でも凍結することなく、正常に代謝が行えるよう保護してくれる。そのため、イカは極地環境で、ユキシリアゲムシは深い雪の下でも生存することができる。新しく研究開発された不凍タンパク繊維では、不凍タンパク質が水分子、氷晶などと結合し、タンパク質繊維に「保護層」を提供し、繊維の不凍性を高めている。測定では、マイナス40℃の低温でも、不凍タンパク繊維中の氷結晶が抑制され、繊維はより光沢を帯び、断面のしわも少なくなった。そのため、高い低温剛性と強靭性、良好な機械安定性を維持することができ、タンパク繊維を使って、南極で使用するロープや北極で着用する衣服、宇宙服といった、不凍性能の高い繊維製品を製造することが可能になった。

 恒天海竜股份有限公司などが研究開発した新型多機能動物タンパクセルロース繊維の原料は動物の毛だ。上海帕蘭朶紡織科技発展有限公司の副社長を務める方国平教授級シニアエンジニアは、「繊維の横断面はC形中空となっており、形状の充填率と円滑度が高いため、繊維の断面は独特の形態となっている。断面がそのような形態となっているため、多機能動物タンパクセルロース繊維は、微細構造上で、セルロースとタンパク質の共存・共融を実現している。この動物タンパクセルロース繊維は、良好な通気性や静電気の発生を防ぐ性質、高い吸湿発熱性といった、他の繊維にはない多機能特性を備えている。その上に、独特な紡績技術や織物製造技術、定型技術などと組み合わせることで、その繊維技術のコストと生産コストを大幅に低下させることができるため、生産した毛糸やニット生地は、他の同類の製品と比べると、コストパフォーマンスがより高くなっている」と説明する。

勢いよく発展するバイオベース化学繊維

 石油資源が日に日に枯渇し、綿花の栽培面積が減少の一途をたどるにつれて、タンパク繊維を含むバイオベース化学繊維が勢いよく発展するようになっている。原料が再生可能で、安価、環境に優しく、資源が豊富などの特性により、バイオベース化学繊維は、発展の持続可能性が極めて高く、綿の繊維やポリエステル、アクリル繊維、ナイロンといった化学繊維の強力な「パートナー」となっている。

 中国国家発展改革委員会・産業協調司の元巡視員である賀燕麗氏は、「バイオベース化学繊維は、人の体に優しく、静菌作用や難燃性、生分解性といった特性を備えており、その発展には重要な意義がある」との見方を示す。

 第13次五カ年計画(2016‐20年)以来、中国のバイオベース化学繊維産業は急速に発展し、キーテクノロジーのブレイクスルーが続々と実現し、産業規模が急速に拡大している。そして、多くの産業の実力と技術開発力の高い企業がバイオベース化学繊維、及び原料の分野へと進出している。中国はバイオベースセルロース繊維やバイオベース合成繊維、海洋バイオベース繊維、タンパク繊維の産業体制をおおよそ確立している。中国工業・情報部(省)と国家発展改革委員会が共同で通達した「化学繊維工業の質の高い発展に関する指導意見」は、「2025年に、中国のバイオベース化学繊維と生分解性繊維材料の生産量の年間平均成長率を20%以上にする」という目標を掲げている。

 賀氏は、「現時点では、バイオベース化学繊維には依然として、大半の種類の生産能力が低く、製品コストが高く、競争力が低いといった問題もある」と指摘する。

 しかし、中国の化学繊維工業協会のチーフエコノミストを務めるバイオベース化学繊維及び原料分会の李增俊事務局長は、「技術が継続的に発展するにつれて、人々のバイオベース化学繊維を使った製品の機能と価値に対する理解が深まり、その低い生産能力、高いコストといった問題は少しずつ解決されるだろう」との見方を示す。

 賀氏は、「第14次五カ年計画(2021‐25年)期間中、中国はバイオベース化学繊維の原料の自給率と多元化の水準を高めるほか、重点的なバイオベース化学繊維の品種の大規模化、製造設備の自動化水準を高めて、生産コストを大幅に低減すべきだ。そして、川下の繊維製品の応用の分野開拓という面でも実質的な成果を挙げる必要がある」と指摘する。


※本稿は、科技日報「蛋白繊維:用辺角料做出緑色好面料」(2022年12月15日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。