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【22-36】テクノロジー近代化の実現加速が社会主義近代化強国建設のカギ

孫福全(中国テクノロジー発展戦略研究院副院長、研究員) 2022年09月02日

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画像提供:視覚中国

 歴史的なプロセスと現実的な実践から見ると、テクノロジーイノベーションは近代化プロセスを進めるうえで「エンジン」のような存在で、テクノロジーイノベーションの面で先頭に立ち、優位性を確保すれば、近代化発展の面で前列に立つことができる。テクノロジー近代化の実現を加速させることは、社会主義近代化強国の建設に不可欠でありカギでもある。

 習近平総書記は2020年9月に開催された科学者座談会で、「テクノロジーイノベーションの加速は、社会主義近代化国家の全面的建設に向けた新たな道のりをスムーズに歩み始めるために必要なことだ。最初に提起した『四つの近代化(工業、農業、国防、テクノロジーの4つの分野で近代化を達成するという目標)』から今の『社会主義近代化強国の全面的な建設』に至るまで、テクノロジー近代化は常に中国が近代化を実現するうえで重要な内容となってきた。歴史的なプロセスと現実的な実践から見ると、テクノロジーイノベーションは近代化を進めるうえで『エンジン』のような存在で、テクノロジーイノベーションの面で先頭に立ち、優位性を確保すれば、近代化発展の面で前列に立つことができる。テクノロジー近代化の実現を加速させることは、社会主義近代化強国を建設するために不可欠でもありカギでもある」と述べた。

テクノロジー近代化は世界テクノロジー強国の特徴

 1つの国が世界的なテクノロジー強国であるかは、主にその国のテクノロジーが近代化しているかにかかっている。近代化にも、時代によってその意味が変わるものだ。1980年代、中国は「四つの近代化」という戦略目標を掲げた。それは、1度目の近代化で、農業経済から工業経済、農業社会から工業社会、農業文明から工業文明へのモデル転換を指していた。そして、現在は2度目の近代化で、デジタル化、スマート化、知識化を主な特徴とし、工業経済から知識経済、工業社会から知識社会、工業文明から知識文明へのモデル転換を指すようになっている。テクノロジー近代化は、そのような転換の過程でカギとなる役割を果たす。1963年1月、周恩来氏は上海市テクノロジー活動会議で行った重要談話の中で、「祖国を社会主義強国へと成長させるカギは、テクノロジー近代化の実現だ」と明言した。

 テクノロジー近代化は、以下の5つの意味が含まれる。第1に、テクノロジーレベルが世界の主要テクノロジー強国と肩を並べ、一部の重要な学科の方向性、先端技術の分野で世界トップ水準にある。第2に、テクノロジー活動に従事する主体が、ハイレベルのイノベーション能力を備え、世界一流の大学、科学研究機関、企業を形成することだ。第3に、戦略的科学者、テクノロジー分野のリーダー的人材、大国の職人を含む世界一流の科学研究チームを有していることだ。第4に、テクノロジーが経済社会発展における重要な課題解決に向け、近代化経済体制や近代化社会体制が構築されていることだ。第5に、テクノロジーガバナンスが世界一流レベルに達し、テクノロジーガバナンス体制・ガバナンス能力の近代化が実現していることだ。

国情に合った中国式テクノロジー近代化実現へ

 中国が「中国式近代化」を実現するうえで、テクノロジー近代化が重要な位置を占めている。そして、先進国と共通の特徴を備えながらも、中国の発展の段階や制度の優位性、文化的特色といった国情に相応な個性・特徴も備えているべきだ。

 第1に、国民全体の「共同富裕」(皆が共に豊かになる)を促進することを、テクノロジー近代化の根本的な目的とする。習総書記は、「経済・社会の発展を推進する根本的目的は、国民全体の『共同富裕』実現のためだ」との見方を示す。中国では近年、所得格差が縮小傾向にあるものの、「共同富裕」という目標達成は、依然として難しい任務だ。テクノロジー近代化を推進するには、効率優先を堅持しながら、公平という原則にも沿わなければならず、主なテクノロジーリソースを、最も効率的な地域に配置し、テクノロジーイノベーション成長極を育成し、沿海部の発展した地域が率先してテクノロジー近代化を実現するよう取り組むほか、中心都市は波及効果を生むようリード的役割を果たし、テクノロジーリソースを適度に、中・西部地域に割き、エリア、都市、農村が足並みを揃えた発展を促進する必要がある。

 第2に、人材をテクノロジー近代化の最も重要なリソースとする。人材は最も重要なリソースで、テクノロジー近代化を実現するためにカギとなる要素だ。中国のテクノロジーヒューマンリソース総数や研究開発者総数は世界最多で、人口ボーナスから人材ボーナスへの転換が既に実現している。国と地方の各級政府は人材を非常に重視しており、人材をサポートする一連の政策と計画を打ち出し、人材の発展環境が大幅に改善し、人材の活力が発揮されるようになっている。人材陣の近代化をテクノロジー近代化実現のうえで最も重要な任務とするためには、社会全体で、労働、知識、人材、創造を尊重・重視する環境づくりを一層重視し、科学研究者が一心不乱に科学研究を展開できるようにするほか、世界の優秀な人材が集まる科学研究イノベーションの先進地を構築し、世界人材センターを作り上げる必要がある。

 第3に、体制、メカニズムの改革をテクノロジー近代化の原動力源とする。社会主義制度と共産党による指導は、中国がテクノロジー近代化を実現するうえで、最大の制度的優位性となる。この種の制度の優位性は、中国が国の安全とコア競争力に関わる重要テクノロジーの分野において新型の「挙国体制」を採用し、限りあるリソースを集めて、重要テクノロジーの研究開発を展開し、テクノロジー発展の短所を速やかに補強することができるという点に現れている。また、競争的な分野では、市場がテクノロジーリソースの配置における決定的な役割を果たし、テクノロジーをめぐる投入と産出の効率を向上させる。市場メカニズムと新型の「挙国体制」を有機的に組み合わせる構造を堅持し、テクノロジーガバナンス体制やガバナンス能力の近代化を継続的に推進するというのが、中国のテクノロジー体制メカニズムイノベーションの主な目標だ。

 第4に、経済・社会の発展をめぐる重要ニーズを満たすということをテクノロジー近代化の重要な方向性とする。中国の経済・社会の発展は依然として、バランスが悪く、不十分で、発展の質も低く、二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標を達成する任務が難しい。テクノロジー近代化のためには、経済・社会発展の分野における重要な課題解決を主な方向性とし、テクノロジーと経済・社会発展の緊密な融合を実現し、発展のバランスが悪く、不十分であるという問題解決を推進し、質の高い生活を望む国民のニーズを満たさせるよう取り組み続けなければならない。一部の先進国は当面、テクノロジーの分野では先頭に立っているが、経済の発展は停滞している。いわゆる「イノベーション・パラドックス」が起きている状態だ。そのような国では、テクノロジーと経済・社会の発展がうまくかみ合っていないのがその大きな原因で、そのような現象に大いに注目するべきだ。

全面的なテクノロジー近代化推進に必要な5つの取り組み

 改革開放(1978年)以来、特に2012年に中国共産党第18回全国代表大会が開催されて以来、中国のテクノロジー事業全体において、歴史的な構造的変化が起き、テクノロジーの近代化は重要な進展を遂げ、イノベーション型国家に順調に名を連ねるようになった。世界知的所有権機関(WIPO)が発表したグローバルイノベーション指数ランキングの順位を見ると、中国は2012年の34位から2021年は12位まで上昇している。しかし、先進国と比べると、中国のテクノロジー近代化水準はまだ一定の開きがあることは認識しておかなければならず、新たなテクノロジー革命と産業変革がもたらす大きなチャンスを逃すことなく、各種リスク、課題に積極的に対応し、短所を補強し、長所を強化し、テクノロジー近代化を全面的に推進しなければならない。具体的には、以下の5つの点に注力すべきだ。

 第1に、研究開発体制を再編し、研究開発体制の近代化を推進する。戦略的テクノロジー力強化は、研究開発体制の近代化を推進するうえで最も重要な任務となる。重要な先端テクノロジー分野で国家実験室の展開を加速させ、国家実験室がリードし、安定型、機動型の戦略的テクノロジー力から構成される戦略的テクノロジー力体制を構築する。また、基礎研究やオリジナルイノベーションをさらに際立たせ、総合的国家科学センター建設と重要テクノロジーインフラ整備を加速させ、重要な科学的ブレイクスルーの発展の地になるよう取り組む。また、キーテクノロジー、特に戦略のボトルネックとなっている技術をめぐるブレイクスルーを最重要視し、一部の重要分野で世界において技術的にリードする存在となれるように努力する。世界レベルの特色ある産業イノベーションクラスターを育成し、複数の世界のイノベーション成長極とイノベーション先進地を構築する。基礎研究や技術開発、成果移転応用チェーンを打開し、一体化されたオールチェーンの研究開発体制を構築する。

 第2に、体制メカニズムを革新し、テクノロジーガバナンスの近代化を推進する。政府の機能転換加速は、テクノロジーガバナンス近代化を推進するカギとなる。習総書記がテクノロジー事業に関して提起した「戦略、改革、計画、サービスに取り組む」という指示に基づき、政府のテクノロジー管理当局の機能を、できるだけ早く戦略計画制定へと移行し、イノベーション政策を整備し、イノベーションの主体にサービスを提供するようにする。また、政府の重要テクノロジーイノベーション組織者としての役割、市場のテクノロジーリソース配置における決定的役割を十分に発揮させ、有効な市場と有能な政府のさらなる融合を推進する。このほか、テクノロジー評価制度を改革・整備し、評価対象のタイプと特徴に基づいて分類し、第三者が評価するという体制を堅持する。「掲榜掛帥」(イノベーションプロジェクトのリーダーの年齢・職位にとらわれない自薦による公募)や「競馬(競争)」といったテクノロジープロジェクトの立ち上げと組織管理を整備し、重要プロジェクトのオールライフサイクル管理を強化する。

 第3に、微視的主体を改革し、イノベーション主体の近代化を推進する。企業、特に国有企業が制度イノベーションと管理改革を実施するよう奨励・誘導し、近代的な企業制度を構築・整備する。さらにより多くの企業家が、国と地方の重要テクノロジーの意思決定への参加を受け入れ、企業が率先して産業化の見通しが明るい重要テクノロジープロジェクトを担当するよう支援する。産学研が戦略的レベルで一歩踏み込んで連携するよう奨励し、イノベーション連合体を構築する。小・中・大企業と各主体の融合イノベーションを支援し、イノベーションエコロジカルチェーンを形成する。また、近代的な大学制度構築を加速させ、大学研究者が理論イノベーションを強化するよう支援し、世界的に影響力ある中国学派の形成を模索する。科学研究院(所)の改革を深化させ、業界のモデル転換された科学研究機関が、ジェネリックテクノロジー、キーテクノロジーの研究開発における中核的役割を発揮し続ける。社会公益性科学研究機関は、公益テクノロジーサービス能力を大々的に増強し、近代的な科学研究院(所)制度を構築する。

 第4に、人材開発を強化し、人材陣の近代化を推進する。自国の人材育成に立脚し、研究者を中心とした研究環境づくりに力を入れる。若手テクノロジー従事者が重要テクノロジープロジェクトを担当するよう支援し、国際的な競争力を持つ若手テクノロジー人材予備軍を育成する。世界一流の戦略的テクノロジー人材やテクノロジー分野のリーダー的人材、イノベーションチーム、「大国の職人」をより多く育成する。さらに開放的な人材政策を実施し、外国人ハイレベル人材や専門人材が活動し、科学研究を行い、交流するために中国に滞在・居住できる政策を整備し、技術移民制度導入を模索する。報酬・福利厚生、子供の教育、社会保障、税収優待策などの制度を制定し、海外の科学者が中国で活動するために、世界的に競争力を有し、魅力ある環境を作り出す。

 第5に、イノベーションエコロジカルを最適化し、イノベーションエコロジカルの近代化を推進する。新時代の科学者の精神の継承と発展を図り、科学研究の信頼構築を強化し、テクノロジー論理体制を整備する。企業家精神の継承と発展を図り、企業家の財産権とイノベーションの収益を法的に保護し、企業家がイノベーションの方向性を定め、人材を集め、資金を調達する面で、重要な役割を果たせるようにする。科学の精神や匠の精神の継承と発展を図り、科学教育活動を幅広く展開し、青少年が科学に興味を持つよう導き、育てる取り組みを強化し、科学を愛し、イノベーションを尊ぶ社会的雰囲気を作り出し、全国民が科学素養を向上できるようにする。中華民族の優秀な伝統文化がイノベーションを奨励する根本的精神の継承と発展を図り、試行錯誤および間違いを是正できるメカニズムを整備し、献身的で、磨きに磨きをかけ、集中して、失敗に寛容なイノベーション・企業文化を提唱する。


※本稿は、科技日報「加快実現科学技術現代化 是建設社会主義現代化強国的関鍵」(2022年8月1日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。