【20-018】中国における民法典の制定―保証制度の修正「その2」―
2020年10月08日 中倫律師事務所東京オフィス
保証は、クロスボーダーの取引や中国国内の取引でよく利用されています。特に、日本企業又はその中国現地法人は、新規取引相手に対し、物的担保の他に、相手側の親会社や関連会社等による保証を求めるケースが多々見受けられます。
中国現行法上における保証制度に関する主な法律規定には、「担保法」(1995年10月1日施行)及び「『担保法』適用の若干問題に関する解釈」(以下「司法解釈」という。2000年12月13日施行)があります(注:「担保法」、「司法解釈」は、民法典の施行と共に廃止)。
本稿では、保証制度について以下9項目に分類し、「民法典」と現行の「担保法」及び「司法解釈」とを比較しながら、民法典における保証制度の主な改正点を3回に分けて紹介します。
※本稿では、下記項目の4.~6.を紹介します。
1.保証の定義及び分類
2.保証の従属性
3.共同保証責任
4.保証期間
5.保証人の制限
6.保証責任の範囲
7.先訴の抗弁権
8.主契約の譲渡及び変更
9.最高額保証
4.保証期間
<ポイント>
当事者は保証期間を自由に約定できますが、約定していない、又は約定が不明確な場合、法定の保証期間が適用されることになります。
<注意点>
司法解釈は、保証期間の約定のない、又は約定が不明確である場合について、主たる債務の履行期間満了日から6か月又は2年と規定していましたが、民法典はこれを6か月に統一しました。
尚、保証期間の「中止、中断及び延長は生じない」ことは、民法典にも司法解釈と同様の内容で明記されました。
<関連条文の比較>
担保法 25条 |
一般保証における保証人が、保証の期間を債権者と約定していない場合、保証期間は主債務の履行期限満了日から6か月とする。 契約で約定した保証の期間内及び前項が規定する保証の期間内において、債権者が債務者に対して訴訟の提起も仲裁の申請もしなかった場合には保証人は保証の責任を免れ、債権者が訴訟を提起又は仲裁を申請した場合には保証の期間について訴訟時効中断の規定を適用する。 |
司法解釈 31条 32条 |
保証期間については、いかなる事由によっても中断、停止、延長の法律効果は生じない。 |
保証契約に約定する保証期間が、主たる債務の履行期限より早い、又は同じである場合、約定していないものとみなし、保証期間は主たる債務の履行期間満了日から6か月間とする。 保証契約において、保証人が負担する保証責任が主たる債務の元利の全額弁済時までである、又はそれと類似する内容が約定されている場合、約定は不明確とみなし、保証期間は主たる債務の履行期間満了日から2年間とする。 |
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民法典 692条 |
保証期間とは、保証人が保証責任を負う期間を確定するものであり、中止、中断及び延長は生じない。 債権者と保証人は保証期間を約定することができる。但し、約定する保証期間が、主たる債務の履行期限より早い、又は主たる債務の履行期間と同じである場合、約定していないものとみなす。約定していない、又は約定が不明確な場合、保証期間は主たる債務の履行期間満了日から6 か月とする。 |
5.保証人の制限
<ポイント>
民法典には、保証人となれるものの資格についての明記はなく(担保法7条を削除)、保証人となれないものだけが列挙されています。なお、保証人となれない者についての規定は、民法典と担保法で概ね同じですが、民法典の規定はより厳格であると言えます。
<注意点>
実務上で、地方政府が現地への投資を誘致するために、政府名義の保証レターを出すことが少なからず見受けられます。しかし、政府機関は保証人はなれないため、そのような保証レターは法的拘束力のないコンフォートレターに過ぎないことに留意が必要です。
<関連条文の比較>
担保法 7条~10条 |
債務を代位弁済する能力のある法人、その他の組織又は公民は、保証人となることができる。 |
国務院の認可を得たうえで外国政府又は国際経済組織の貸付を利用して再貸付を行う場合を除き、国家機関は保証人となることができない。 | |
学校、幼稚園、病院等の公益を目的とする事業単位及び社会団体は保証人となってはならない。 | |
企業法人の支店等(原文は「分支機構」)及び職能部門は保証人となってはならない。企業法人の支店が当該法人からの権限授与書を有するときは、授権の範囲内で保証をすることができる。 | |
民法典 683条 |
機関法人は保証人となることができない。但し、国務院の承認を経て外国政府又は国際経済組織からの借入を使用し転貸する場合は除く。 公益目的の非営利法人、保証人組織は保証人となることができない。 |
6.保証責任の範囲
<ポイント>
担保法21 条2 項は、当事者が保証の範囲を約定していない又は約定が不明確な場合の保証の範囲を、「債務の全て」としていました。そのため、「債務の全て」にはどこまで含まれるのかにつき、理解の相違が生じていました。
民法典は当該条項を削除し、同場合における保証の範囲を「主たる債権並びにその利子、違約金、損害賠償金及び債権を実現する費用」とすると定めました。
<注意点>
民法典施行後は、契約に保証範囲を明記していない場合、保証の範囲は民法典に定める範囲のみになります。そのため、それ以上の保証を求める場合は、これまで以上に契約で明確に定めておく必要があります。
<関連条文の比較>
担保法 21条 |
保証が担保する範囲は、主債権並びに利子、違約金、損害賠償金及び債権を実現する費用を含む。保証契約に別段の約定がある場合は約定に従う。 保証が担保する範囲について当事者が約定せず又は約定が不明碓な場合、保証人は全部の債務について責任を負わねばならない。 |
民法典 682条1項 |
保証の範囲は、主債権並びにその利子、違約金、損害賠償金及び債権を実現する費用を含む。但し、当事者に別段の約定がある場合は、その約定に従う。 |
中倫律師事務所 東京オフィス
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パートナー弁護士:孫彦 E-mail:
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※本稿は、中倫律師事務所東京オフィス発行の「中倫東京事務所ニュースレター『中国における民法典の制定―保証制度の修正「その2」―』」を中倫律師事務所東京オフィスの許諾を得て転載したものである。