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【12-014】中国刑事法の概要(Ⅱ)刑事訴訟法

屠 錦寧(中国律師)  2012年 9月 21日

 中国の刑事訴訟法は、1979年7月7日に公布、1980年1月1日に施行され、1996年3月17日および2012年3月14日に、それぞれ改正が実施されたものである。直近の改正法は、2013年1月1日に施行される。本稿では、2012年改正の条文に基づいて、中国の刑事手続の仕組みや進め方を大まかに紹介するとともに、2012年改正のポイントを平易に解説したい。

1.刑事手続の流れ

 刑事訴訟法は、主に以下の手続を定めている。

(1)捜査

 捜査とは、警察(中国語原文:公安機関)と検察(原文:人民検察院)が捜査機関として、被疑者の有罪または無罪、罪の軽重を証明する資料を収集し、取り調べ、係る強制的な措置をとる手続である(106条1号、113条)。

 捜査の端緒には,主に第三者による届出・告発、被害者による届出・告訴、犯人による自首がある(108条)。警察・検察は、これらをきっかけとして犯罪事実または被疑者を認知し、刑事訴追の必要があると認めた場合、それぞれの管轄[1]に応じて刑事立件を行い、捜査をはじめる(110条)。

 警察(検察による直接捜査の事件は検察)は捜査中、下表の通り被疑者に刑事訴追を行うべきでないことが判明した場合、事件を取り消し、そうでない場合、警察は、捜査の結果について起訴意見書を作成し、案件の書類や証拠とともに検察に送致する(160条、161条)。

表 刑法に定める刑事訴追を行うべきでない事由(15条)
情状が著しく軽微であり、危害が大きくなく、犯罪と認められない場合
すでに訴追の時効を過ぎている場合
特赦令によって刑罰が免除された場合
親告罪について告訴がなくまたは取り消された場合
被疑者・被告人が死亡した場合
法律の規定により刑事責任を免除されるその他の場合

(2)公訴提起

 検察が公訴提起の権限を与えられている。検察は、自ら直接捜査をしている事件または警察から送致された事件の書類・証拠などを審査し、被疑者に対して取調べを行った結果、①犯罪事実が明らかであり、②証拠が確実で十分であり、かつ③法により刑事訴追を行うべきであると判断した場合、起訴処分を決定する(172条)。起訴の場合、事件について管轄権のある裁判所(原文:人民法院)に公訴を提起するとともに、案件の資料および証拠を送付する(172条)。

 これに対して、検察は、証拠が十分でなく、犯罪事実が存在せず、または上記法により刑事訴追を行うべきでない事由に該当すると判断した場合、不起訴の処分を決定しなければならない(171条、173条1項)。また、犯罪の情状が軽微であり、実体法(刑法)に基づいて刑罰を科す必要がなく、または免除できる場合は、不起訴の処分を決定することができる(173条2項)。

 不起訴の処分をしたときは、処分決定を公布し、決定書を被疑者およびその所属単位に送達し、警察から送致された事件は警察に、被害者がいる事件は被害者に、それぞれ送達しなければならない(174条、175条、176条)。警察は、当該処分が不当であると判断した場合は検察に再審議を求めることができ、検察に意見を受け入れてもらえない場合、上級の検察に再審査を申し立てることができる(175条)。被害者は、不起訴の処分について不服があった場合、上級の検察に不服申立を行うこともできれば、不服申立を経ずに裁判所に直接に起訴することもできる[2](176条)。

(3)第1審公訴事件[3]

 公訴が提起されたときは、裁判所は公判期日の10日前に、起訴状の謄本を被告人およびその弁護人に送達しなければならない(182条1項)。公判期日の日時、場所は3日前に公訴人、被告人、弁護人、被害者とその訴訟代理人、証人、鑑定人および通訳に通知する(182条3項)。公判手続は、期日において裁判長の主宰の下で次の流れで行われる。

図

 冒頭手続では、裁判長は、当事者(被告人・被害者等)が出廷しているかを確認したうえ、案件の由来、訴因および審理の公開・不公開を言い渡し、裁判官の合議体(原文:合議廷)メンバー、書記官、公訴人、弁護人、訴訟代理人、鑑定人および通訳の名簿を読み上げる。また、当事者とその法定代理人に訴訟権利を告知し、回避を申し立てるかどうかを確認する(185条)。

 これに引き続き、法廷調査手続のはじめには、公訴人が起訴状を朗読する。その後、被告人および被害者は、起訴状に記載されている犯罪事実について、それぞれ意見陳述を行うことができる。公訴人や裁判官は被告人を訊問でき、被害者、弁護人、訴訟代理人も、裁判長の許可を得れば被告人に質問することができる(186条)。

 検察側・弁護側は、裁判長の許可を得て、証人、鑑定人等を召喚し証言させ、もしくは法廷で証拠物を提出し、証拠書類(書面による証言・鑑定意見、検証結果その他証拠としての文書)を読み上げることができる(187条、190条)。証人や鑑定人に対して検察側・弁護側が質問でき、裁判官も質問することができる(189条)。証拠物、証拠書類について検察側・弁護側が弁論することができる。裁判官は上記証拠について疑問があるときは、休廷して証拠調べ・検証を行うことができる(191条)。

 法廷調査を経て、裁判長は、事実、証拠および法律適用等の問題をめぐる法廷弁論の開始を宣告する。弁論の順序は、公訴人が発言した後、被害者およびその訴訟代理人が発言し、引き続き被告人およびその弁護人が弁護し、公訴側・弁護側が相互弁論を行うのが原則である。

 法廷弁論が終了した後、被告人は最終陳述を行う権利を有する。最終陳述の中で新しい事実、証拠が提起された場合は法廷調査が再開され、新しい弁解理由が提起された場合は法廷弁論が再開されることもある。

 被告人の最終陳述が終わると、裁判長は休廷を宣告する。裁判官の合議体が評議を行い、有罪または無罪の判決を行い、判決は公判期日または別の期日に宣告される。判決書は公判廷で宣告される場合は5日以内に、別の期日に宣告される場合は宣告後直ちに当事者および公訴を提起した検察に対して送達される。判決書の送達日から10日以内に上訴の申立てがなければ、第1審判決は確定する。

(4)上訴審

 第1審の判決・決定に不服あれば、被告人およびその法定代理人は、上級の裁判所に対して上訴を申し立てることができる。また、被告人の弁護人および親族(配偶者・父母・子女・兄弟姉妹)も、被告人の同意を得れば上訴の申立てができるとされている(216条1項、以下「被告人側による上訴」という。)。被告人側による上訴の場合には、被告人に第1審判決より刑を重くしてはならず、差戻し審でも、新たな犯罪事実の判明で検察が追加起訴した場合を除き、原裁判所は被告人の刑を重くしてはならない(226条1項)。

 公訴人も、自らまたは被害者の申立てで第1審判決に誤りがあったと判断した場合、上級の裁判所に上訴(原文:抗訴)することができる。

 上訴審の裁判所は、上訴申立ての範囲に限らず、第1審判決が認定した事実および法律の適用を全面的に審査し(222条1項)、下表のとおり裁判を行う。中国の刑事訴訟は二審制を採用しているため、上訴審の判決または決定があったときに裁判が確定することになる[4]

表 上訴審における裁判(225条、227条)
第1審判決に対する審理結果 上訴審の裁判
事実認定 法令適用 量刑の
妥当性
手続の
適切性
決定で上訴を棄却し、原判決を維持する。
× 事実を調査した後に自ら新たに判決するか、原判決を破棄し、事件を原裁判所に差し戻す。
× 原判決を破棄し、自ら新たに判決する。
× 原判決を破棄し、自ら新たに判決する。
× 原判決を破棄し、事件を原裁判所に差し戻す。

(5)再審

 事実の認定、法令の適用、手続の妥当性または審判の公平性等に問題がある裁判について、再審という確定後の救済手続が設けられている。再審は、被害者、被告人およびその法定代理人・親族による申立てができるほか、検察からの請求や上級裁判所からの指令によって開始することもある。また、裁判所が誤りを自ら発見した後に再審を行う場合もある。

 再審手続の申し立て期間中、判決内容に関する執行停止の効果は認められていないが、事件が再審に係属している間は、原判決・決定の執行を中止することができる(241条、246条2項)。

2.法改正のポイント

 今回の法改正では、「人権の尊重と保障」という原則が明文で刑事訴訟法の総則に盛り込まれた。その他ポイントは主に以下のとおりである。

(1)捜査手続

 捜査の方法は大きく分けて2つある。対人的捜査としては、①被疑者訊問、②証人尋問、③被害者尋問がある。対物的捜査としては、①犯罪に係る場所、物品、人の身体、死体に対する検視・検査、②証拠の収集や被疑者の発見・身柄確保を目的とする人の身体、物品、住居その他の関連場所に対する捜索、③証拠の保全のための証拠物・書類に対する閉鎖・差押え、④捜査機関の知識不足を補うための専門知識を有する者に対する鑑定嘱託がある。今回の改正は、科学的捜査を追加し、その適用の範囲・期限などについて定めた。

 また、被疑者が弁護人を選任できるタイミングは従来、事件が検察に送致される日(以下「送致日」という。)からだったが、捜査段階における被疑者の権利その他正当な利益を保護するため、今回の改正では、被疑者が捜査機関より第一回の訊問または強制的な措置を受ける日に変更した。弁護人は、捜査期間中には弁護士の中から選任しなければならない(33条)。弁護人として選任された弁護士は、捜査段階において、被疑者に対して法律的な援助を提供し、不服申立および告訴を代理し、強制的な措置の変更を申請し、捜査機関から被疑事件の罪名および案件をめぐる情況を聴取し、意見を提出することができる(36条)。また、被疑者に法律を説明し、案件をめぐる事情を聞くために、身体を拘束された被疑者・被告人と面会および通信を行うことができる(37条1項)。

(2)証拠制度

 今回の改正は、違法収集した証拠の排除を明文で定めた。違法な方法によって収集した被疑者・被告人の供述、証人の証言および被害者の陳述を証拠から排除するほか、証拠物、証拠書類の収集手続が違法であって、司法の公正に重大な影響を及ぼす恐れがある場合、補正や合理的な説明ができない限り、証拠から排除する(54条)。法定調査の中で証拠収集の合法性が争われるときは、挙証責任は検察が負担することとなる(57条1項)。

 また、今回の改正では、証人の保護措置についても定めた。訴訟の中で証言することによって証人、鑑定人または被害者本人またはその親族の人身に危険が及ぶ可能性がある場合、裁判所・検察・警察は、身元情報の非公開や接触禁止等の措置をとらなければならないとされている(62条)。

(3)強制措置

 捜査・公訴提起・裁判では、手続の順調な進行への妨害、社会への危害、事件の再発を防止するため、警察・検察・裁判所が案件の状況に応じて、被疑者・被告人に対し強制的な措置をとることができる。強制措置には、具体的に、勾引(被疑者を指定する場所で一定の時間内、訊問を受けるよう強制する措置。原文:拘伝)、保釈(原文:取保候審)、居住監視(原文:監視居住)、勾留(原文:拘留)、逮捕がある。

 今回の改正は、逮捕の条件をより具体的に定めるほか、検察が逮捕状の発付の可否を審査するときの取調べ手続も整備した。また、改正前は、勾留・逮捕後、原則24時間以内に被疑者の家族に知らせるが、捜査に影響を及ぼす恐れがあり、又は通知不能な場合はこの限りでないとされていた。これに対して今回の改正では、家族に対する通知の例外として、勾留については、通知不能又は国家安全危害・テロ犯罪により通知が捜査に影響を及ぼす恐れがある場合、逮捕については、通知不能な場合のみに限定した。

(4)裁判手続

 今回の改正は、次のとおり裁判所の審理期間を延長した。

  改正前 改正後
第1審判決 原則として事件受理後1カ月以内、遅くても1カ月半以内。
重大・複雑な事件は、省(日本の都道府県に相当)ごとに設置される裁判所(高級人民法院)の許可を得れば、さらに1カ月延長可。
原則として事件受理後2カ月以内、遅くても3カ月以内。
重大・複雑な事件、死刑になる可能性がある事件、付帯私訴事件は、上級裁判所の許可を得れば、さらに3カ月延長可。
最高裁(原文:最高人民法院)の許可を得れば、さらに延長可。
第2審結審 原則として事件受理後1カ月以内、遅くても1カ月半以内。
重大・複雑な事件は、高級人民法院の許可を得れば、さらに1カ月延長可。
原則として事件受理後2カ月以内。
重大・複雑な事件、死刑になる可能性がある事件、付帯私訴事件は、高級人民法院の許可を得れば、さらに2カ月延長可。
最高人民法院の許可を得れば、さらに延長可。

(5)執行手続

 有罪の判決が確定した後、犯罪者は、刑罰の種類によってそれぞれの執行機関に交付され、刑罰を執行される。

刑罰の種類 執行機関
死刑(即時執行) 裁判所
執行猶予付き死刑、無期懲役、余剰期間が3カ月以上の有期懲役 刑務所
余剰期間が3カ月以下の有期懲役 拘置所
拘役、政治的権利の剥奪 警察
罰金、財産没収の強制執行 裁判所

 改正前は、管制刑は警察が執行し、懲役の執行猶予は犯罪者の所属組織または住民が監視し、仮釈放は、警察が監督するとされていた。

また、懲役の場合、患者や妊婦等一定の条件を満たす犯罪者に対して、刑務所外の生活(原文:監外執行)も認められている。この処分を受ける犯罪者は、警察の執行機関としての監督や、所属組織または住民による補充監督を受けるとされていた。

今回の改正は、社区矯正という執行方法を新たに設け、①管制刑、②懲役の執行猶予、③仮釈放、④監外執行に対して適用し、社区矯正機構が執行する、としている(258条)。

(6)特別手続

 今回の改正は、特別手続編を設けて、未成年者事件、当事者が和解する公訴事件、被疑者・被告人が逃走・死亡した場合の違法所得の没収、および法により刑事責任を負わない精神病患者の強制医療について定めた。犯行の時18歳以下の被疑者については、手続条件付き不起訴(起訴猶予)処分や犯罪記録の封印などの規定が新設された。


[1] 通常の刑事事件は、警察が捜査を行うのに対して、公務員による汚職賄賂犯罪、職権濫用犯罪事件は、検察が直接に捜査を行う(18条)。

[2] このように被害者が自ら人民法院に起訴することは、検察が起訴した公訴事件と区別して「自訴事件」と呼ばれる。ほかにも、親告罪の事件および被害者が証拠をもって証明できる軽微の刑事事件は自訴事件となる。

[3] 公判手続のほかに、次の要件が満たされた場合、略式手続の適用も認められている(208条、209条)。①事実が明らかで証拠が十分であること、②被告人が犯罪を認めており、起訴される犯罪事実に異議を有しないこと、③被告人が略式手続の適用に反対しないこと、④法に定める略式手続の適用が禁止される事由(被告人が視覚・聴覚・言語・精神障害者である場合、事件が重大な社会的影響を有する場合等)に該当しないこと。略式手続は、公判の流れに制限されないが、判決宣告の前に被告人の最終陳述意見を聞かなければならない(213条)。

[4] その例外として、死刑判決は、即時執行のものは最高人民法院、執行猶予付きのものは高級人民法院の確認決定を経てはじめて確定する(248条2項3号)。

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屠 錦寧

屠 錦寧(Tu Jinning)

1978年生まれ。中国律師(中国弁護士)。アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。京都大学大学院法学研究科法政理論専攻博士課程修了(法学博士)。一般企業法務のほか、外国企業の対中直接投資、M&A(企業の合併・買収)、知的財産、中国国内企業の海外での株式上場など中国業務全般を扱う。中国ビジネスに関する著述・講演も。

 

 


【付記】

 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。