【19-06】米メイカーメディア社の破綻再生を尻目に盛り上がるアジアのメイカーフェア
2019年9月25日
高須正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人
略歴
中国深圳をベースに世界の様々なMaker Faireに参加し、パートナーを開拓している。
ほか、インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、JETRO「アジアの起業とスタートアップ」研究員、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師など。
著書「メイカーズのエコシステム」「世界ハッカースペースガイド」訳書「ハードウェアハッカー」ほかWeb連載など多数、詳細は以下:
https://medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac
8月3~4日の2日間、お台場のビックサイトでMaker Faire Tokyo 2019が開催された。今年はオリンピックの影響で会場のビッグサイトに一部改修が行われ、影響で会場サイズは2018年に比べて30%ほど縮小したにもかかわらず、主催者のオライリー・ジャパン田村氏は「来場者については昨年並み」と初日が終わった段階での出展者懇親会で語り、相変わらず好調だ。
メイカーフェア東京2019にて。米Make Community社代表のデール、上海DFRobotのレイチェル、台湾のメイカーたちなど、海外からの参加者も多い。
DIY愛好家の祭典であるメイカーフェアは、2014年にオバマ大統領がホワイトハウスで開催したことで世界の注目を集めはじめた。アメリカの政権がオバマからトランプに移ったことでホワイトハウスでのメイカーフェアは2016年を最後に開かれていない。しかし、アメリカのDIY関連補助の予算はむしろ増えている。技術が高度化するにつれて、専門家同士の距離が遠くなり、違う分野の融合によって起こるイノベーションが難しくなる中で、「自分の手で分野を超えてモノづくりを楽しもう」という人々の集まりであるメイカーフェアには多くの注目が集まり、今も開催国は増え続けている。
大規模な展示が魅力の、ベイエリアのメイカーフェア
世界全体でメイカーフェアの開催都市が増える中で、メイカーフェアの旗振り役であるメイカーメディア社が2019年6月に経営破綻したニュースは世界の愛好家を驚かせた。メイカーフェアをアメリカ西海岸で始め、その後も世界のメイカーフェアに向けてライセンスを発行しているメイカーメディア社は資金難に陥って業務を停止し、つい最近の8月にMake Community社として別会社を立ち上げ、業務を引き継いで再スタートしたニュースが出たばかりだ。アジアでのメイカーフェアは好調なのに対して、大本締めのメイカーメディア社の経営破綻は関係者を驚かせた。
僕は2015年から4年連続でメイカーメディア社の主催するベイエリアのメイカーフェアに参加していた。ベイエリアのメイカーフェアは火を吐くロボット展示など、大規模なものが売りだ。おそらく主催者が招待や輸送費の負担をしているであろうそうした展示が目立つ一方で、2016年からスポンサーが減り始めているのは感じていた。
ハードウェアスタートアップの隆盛や、Google、マイクロソフト等のアメリカを代表するテクノロジー企業が社内にメイカースペースを設け、自社でハッカソン等、外部を巻き込んで新しいものづくりをするイベントを運営するなど、オープンイノベーションの動きはますます盛んだ。部署間の垣根を越える、社内外の垣根を越えてモノづくりを楽しむ、そうしたオープンイノベーションの普及にメイカーフェアは重要な役目を果たしたが、「The Greatest show tell us」を掲げるアメリカのメイカーフェアが、産業のどこに貢献しているのかはちょっと見えなくなっていたのは事実だ。
僕は2019年5月のメイカーフェアベイエリアでメイカーフェアCEOのデールにインタビューしたが、そのとき集まったメディアはわずか3名(アメリカ人は1人)で、アメリカの産業の中で居場所が見つけづらくなっているのを感じていた。デールはそのときに「教育やスタートアップなどが盛り上がっているのはわかるけど、なるべくメイカーフェアにしかないものを目指して活動していきたい」と語っていた。活動を続けられる限りその方針で行くのはリスペクトできる。その後メイカーメディア社財政破綻のニュースがあり、新生Make Community社が始まった。
コミュニティとしての支援をベースに活動するという新生Make Community社には僕自身も寄付をしている。身の丈にあったサステイナブルな活動をして、今後もメイカーフェアが続くと嬉しい。
アジアでは引き続き拡張が続くメイカーフェア。
メイカーメディア社の経営破綻とは無関係に、アジアでのメイカーフェアは好調だ。経産省的な省庁が旗振り役を担う産業振興の側面と、文科省的なところが旗振りを行う教育の側面の両方がある。産業振興ではすでに起業した人を対象にしたビジネスコンテストなども多く、DIYが中心のメイカーフェアはどちらかというとビギナー向けの教育にフォーカスしている国々が多いようだ。日本でも2020年からプログラミング教育が義務化されるが、アジアの多くの国でマイコンボードや電子工作は学校のメニューに入っている。「習ったものでなく、作りたいモノを作る」という教育についても、多くのコンテストが行われるなどの形でポピュラーになりつつある。
メイカーフェアを名乗るにはMake:commityに申請して認可され、ライセンス料の支払いが必要になる。それに対し、メイカーフェアという名前を使わない独自のメイカーイベントは誰でも自主的に開催できる。実際にアジア中でメイカーフェスタやサイエンスフェスタ等の名前でメイカーフェア同様のイベントは増えるばかりだ。メイカーフェアを名乗った方が特に海外からの来訪者を集めやすいメリットがあるのに対し、教育が主目的だとそもそも海外からの来場者をアテにしていないことも多く、認可を受けるメリットが薄れる。
東南アジア最初のメイカーフェアは2013年にシンガポールで始まった。ここ数年はタイやマニラなどのフェアも拡大の一途をたどっている。ここしばらく、少なくとも5年以上は、世界のメイカームーブメントの盛り上がりは、中国含めたアジアから起こり続けていくだろう。