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【24-31】一枚の膜でがんの分子診断が可能に(その1)

張 曄(科技日報記者) 呉 奕(科技日報通信員) 2024年04月05日

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多機能バイオニック柔軟膜を持つ研究者。(画像提供:江蘇大学宣伝部)

 血中循環がん細胞(CTC)は、臨床において重要なリキッドバイオプシーのマーカーとして機能し、初期段階のがん診断に用いることができる。しかし、体内ではその数が非常に少なく、正常な血球数の10億分の1しかない。それを見つけるのは、干し草の山から針を探すようなものだ。

 中国を含む世界の科学者は近年、血液の中からCTCを高い精度で見つけるよう工夫してきた。そんな中、江蘇大学材料科学・工程学院、新材料研究院の研究員である劉磊氏率いる研究チームが最近、多機能バイオニック柔軟膜を開発した。この膜は、CTCを見つけ出す「鋭い目」と「優れた脳」を持ち、それを高精度で「捕捉」できる上に、人体の環境に匹敵するバイオニックメカニズムを備えており、CTCを無傷で捕捉し、実験室で回収してさらなる検査に用いることができる。

 これまで行われた乳がん患者の血液検査では、この膜を使った検査データと、術後の免疫組織化学染色(IHC)検査の結果が高度に一致しており、精度は100%に達している。また、この膜を使うことで、CTCを分類によって捕捉し、選択的に分離して、がんの分子診断を行うことができる。関連研究成果は学術誌「Advanced Materials」にオンライン掲載された。

漏れ出したがん細胞を捕捉

 がん細胞は突然変異した細胞で、転移、拡散しやすい特性があり、体内の循環系やリンパ管を通じて、体内の他部位に転移する。その過程でCTCは腫瘍組織から血液中に遊離する。高精度でCTCを捕捉することができれば、通常の健康診断の腫瘍マーカー検査よりも早くリスクを発見し、腫瘍が悪性に変化する可能性を知ることができる。

 劉氏は「CTCは数が少ないだけではなく、とても『ずる賢い』。異なる表面マーカーを持ち、『変装』が得意で、『ベストを着ていたり』『コートを着ていたり』することがあり、識別がとても難しい。CTCには希少性と表面の不均一性という特徴があるため、CTCの検出は大きな課題に直面している」と説明した。

 この「ずる賢い」CTCをどう捕捉するのかが、腫瘍の検出、識別の第一歩となる。世界を見ると、現時点では「ナノ磁性ビーズ」という、磁場回復を利用してCTCを捕捉する技術がある。この技術は、無数の磁性ビーズで構成された「網」でCTCを捕捉するものだが、細胞が直径わずか100ナノメートルの磁性ビーズを『誤食』してしまい、CTCが死滅してしまう可能性があるという重大な欠陥がある。そうなってしまうと、医師は細胞の中にある貴重な生物学的情報を分析することができなくなってしまう。

 劉氏は2018年から「CTCの捕捉」に的を絞って研究を行うようになった。そして、スマートバイオマテリアル界面をデザインし、標的識別機能の集積設計を計画した。劉氏は「これらの材料の界面は『有能な探偵』のようで、高精度でCTCを識別し、『大きな手を伸ばし』それを捕捉することができる。また、必要に応じてそれを『放出』し、CTCを界面から取り出し『川下』の分析のために土台を提供することができる」と語った。

丈夫でソフトなバイオニック膜を作成

 CTCの捕捉と分離を実現すべく、劉氏率いるチームは動的生物学的活性を持つスマートバイオ界面材料体系を構築した。論文の筆頭著者で江蘇大学博士課程生の白蒙起氏は「まず初めにガラス板に似た石英板の界面でテストしてみた。ただ、石英板は大きく、硬くてもろいためカットできず、使い勝手が極めて悪かった。われわれは以前、歯のエナメル質の修復に使う多機能膜を開発したことがある。それで、バイオニックエナメル質の構造にヒントを得て、二酸化チタンナノチューブ層とシルクタンパク層を重ねて1枚にした柔軟膜を開発した」と説明した。

 その柔軟膜は構造が強固で、性能が安定し、展延性が高く、引張強さは80%近くで、伸張強度は十数Paに達する。そのため、必要な大きさに自由にカットして使うことができる。単一の硬い基質の材料と違い、この柔軟膜上に各種機能性タンパク質を添加できるため、捕捉する能力を高めるためのベースを築くことができる。また、人体の生理メカニズムを模倣してCTCの生存に適した微小環境を作り出すこともできる。

 研究者は実験で、柔軟膜上に標的ペプチドとウシ血清アルブミンを添加した。前者は高精度でCTCを捕捉、識別することができる。また、後者は汚れにくいという特徴があり、標的ペプチドの正常な働きを確保することができる。柔軟膜の捕捉力を高めるべく、チームはマルチターゲットの界面を設計した。ターゲットが単一の界面と比べると、マルチターゲットの界面は、溶液の中のCTCを捕捉する能力が2倍以上高くなった。

 白氏は「この種の膜は分子間力を活用して、CTCを界面にしっかりと捕捉する。その後、もし放出する必要がある場合は、糖やポリペプチドなどの刺激によって分子間力を遮断することでCTCを放出する」と説明した。

その2へつづく)


※本稿は、科技日報「仅靠一张膜就能实现癌症分子分型诊断」(2024年2月20日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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江蘇大学

 

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