【13-06】中国企業の成功は日本企業の成功につながる―中国経済学会・中国経営管理学会に参加―
2013年 7月12日 (中国総合研究交流センターフェロー 趙晋平)
6月22日、23日に京都大学で、中国経済学会、中国経営管理学会の2013年度大会が同時に開催された。全国から多くの中国経済研究者、企業関係者、大学院生が集まり、日 中関係が冷え込んでいる時期にもかかわらず、中国経済に対する高い関心が裏付けられた。JST中国総合研究交流センターから橋本俊幸参事役と筆者が参加した。
2日間にわたり、特別講演、分科会報告や共通論題報告など、様々なプログラムが実施された。地域経済発展と地域間所得格差問題、環境・エネルギー問題、人口移動と賃金問題、環境経済問題、企業・産 業問題などをめぐって、深い議論が交わされた。
2010年に、中国の国民総生産(GDP)は日本を抜き世界第2位の経済大国に成長した。その高成長の中、国内の基盤を固める一方、並行して中国企業が進めてきたのが海外進出である。日本においても、企 業買収などによって進出拠点を設立する中国企業の動きが活発化している。今回の学会には、世界的なグローバル企業に成長した家電メーカーのハイアール社と、中 国の民族ブランド自動車トップであるBYD社から関係者が出席し、「ハイアール・アジア・インターナショナルの役割と技術開発の考え方」、「The strategy of BYD」をテーマに講演を行った。い ずれも興味深い話だったが、三井住友海上火災保険株式会社社長の柄澤康喜氏が講演で触れた中国企業の話がそれら以上に印象に残った。
初日の特別講演「中国企業のさらなる発展に向けて」で、柄澤氏は三井住友海上の中国事業の歴史と発展を紹介しながら、アリババとハイディーラオ(中国語:海底撈)の2つの中国企業を取り上げ、発 展を遂げた秘訣(ひけつ)について分析した。
1999年に創立されたアリババグループは現在、世界190の国にオンライン取引プラットフォーム、決済サービス、クラウド・コンピューティング等のサービスを提供している。創業者の馬雲(ジャック・マ ー)氏と18人の仲間がアパートの一室で立ち上げた小さな会社は、十数年で世界に知られるグローバル企業に成長した。営業収入は2004年の3.59億元から2011年の64.17億元まで急増している。
その成功は、インターネットが中国全土に飛び火し、燎(りょう)原の火のように全土に広がる起業タイミングをつかむ「天の時」、民間企業群が立地し、貿易も活発である馬氏の地元、杭州を本拠地とした「 地の利」、そして志を共にする18人の創業仲間を得た「人の和」を重ねたことでもたらされた、と柄澤氏は指摘する。
中国では古来より、大事業を成し遂げるには、「天の時」「地の利」「人の和」がなければならないと言われている。時代が変わっても普遍的に変わらない成功法ということだろう。
まだ日本でほとんど知られていないハイディーラオは、四川風火鍋のチェーン店を経営している企業だ。1994年に設立され、現在中国全土で80以上の店舗を展開し、19,000人の従業員を擁する。
ハイディーラオの成功は、「NOと言わない究極のお客様サービス」、「従業員を信頼し、権限を委譲する」、「従業員を大切にし、満足度を向上」にある、と柄澤氏は指摘する。究極のお客様サービスは、入 店前にもくつろいでもらえるシステムと入店後の徹底的な接客サービスとに大きく分けられる。入店前の待ち時間には、トランプ、将棋などの提供だけでなく、無料の靴磨き、ネイルサロンまで用意される。入店後は、眼 鏡着用者に眼鏡拭きを提供するなど、こちらも行き届いたサービスぶりだ。
また、日本ではなかなか考えられないやり方として、従業員には大きな権限が付与されている。ランクによって異なるが、年間、役員が3,000万元、地域総括が1,000万元、店長が450万元、一 般従業員が食事無料の個人裁量権がある。これらの裁量権の範囲内で役員、店長、従業員たちは、これぞと思った客に料金割引サービスをして社全体の売り上げ増につなげる、ということだ。
従業員の満足度を上げるため、彼らに宿・食事を無料で提供するほか、奨励金を従業員の両親に直接仕送る工夫などが講じられる。従業員の多くが農村出身のため、メ ンツを重んじる中国独特の文化を考慮した措置だ。
ハイディーラオが成功した理由についてもっと知ろうと、講演の後、ネットで検索し、さらに納得した。
従業員のランクに合わせ、その両親にそれぞれ月400元、1600元、2400元の手当てが支給されるほか、夫婦双方が在職する場合、月800元から6,000元の住居手当も支給される。管 理職はすべて内部からの昇格で、外部から一切雇用しないようにしている。
柄澤氏が紹介した以外にも、従業員のインセンティブを高める数々の手だてが講じられていることに感心した。
「コンプライアンスの徹底、経営の透明性確保、国際会計基準を含む世界標準への対応、リスクマネジメント、社会への貢献と還元が重要」。中国企業のさらなる発展に向けての、柄澤氏の提言である。
「中国企業の成功は、日本企業の成功につながるがる」という氏の言葉が心に響く。
グローバル化が進む時代に、企業も国を越えて相互に依存し合う関係が強まることを実感した2日間だった。