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【23-28】人材誘致、企業強化、生態圏構築が進む広東省汕頭市

葉 青(科技日報記者) 2023年05月10日

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製造工程の最適化について検討する汕頭実験室の研究者(画像提供:汕頭市科学技術局)

 中国広東省汕頭(スワトウ)市はここ数年、製造業を市の基幹産業とする方針を堅持し、「工業立市、産業強市」の道を揺るぎなく歩み、イノベーション主導の発展戦略を実施している。新たな原動力の育成に力を入れ、新たなポテンシャル・エネルギーを高め、「三新・両特・一大(新エネルギー、新材料、次世代電子情報、繊維・アパレル、玩具・クリエイティブ、総合健康)」の産業発展構造の構築に尽力している。科学技術イノベーションが推進する質の高い発展能力を絶えず高め、各種の主要科学技術イノベーション指標はいずれも広東省東・西・北部で上位を占めている。

 広東省は質の高い発展に照準を当て、イノベーションを加速させている。科学技術イノベーションによって質の高い発展を持続的に推進するにはどうすればよいか。汕頭市はその答えを模索しながら前進している。

 2月8日、同市南澳島に院士(アカデミー会員)約20人を含む専門家・学者ら60人余りが集まり、広東省科学技術庁と汕頭市人民政府が主催する南澳科学会議の発足式に参加した。中国科学院院士で広東イスラエル理工学院校長の龔新高氏は「粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深圳、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、マカオ両特別行政区で構成される都市圏)に軸足を置き、国際科学界の最先端に狙いを定め、国と地方の発展の重要な戦略的ニーズに焦点を当てる。南澳科学会議は国際的影響力を持つ基礎研究学術交流の重要なプラットフォームになることを目指し、中国の科学理論とオリジナルイノベーションの重要な発展の場になるよう努める」と述べた。

 2022年、科学技術部(省)は新たに25都市に対し、イノベーション型都市建設を支援した。汕頭市は広東省で5番目に建設を承認された都市となった。

プラットフォーム建設でハイレベル人材を誘致

 龔氏は南澳門科学会議設立の狙いについて「基礎研究やイノベーション・起業の面で、汕頭はこれまでずっと低開発地域だった。われわれがプラットフォームを構築することで、より多くのハイレベルな科学者が汕頭に集まり、汕頭を理解することを願うとともに、汕頭がよりよいイノベーション環境を構築し、地域の質の高い発展に対して、人材と知力の面でのサポートを提供していきたい」と説明した。

 同会議はすでに効果を上げている。松山湖材料実験室室長で中国科学院院士の汪衛華氏は「当実験室は広東イスラエル理工学院との意思疎通を強化し、人材育成や科学研究協力などで合意に達しており、今後は同学院の学生が当実験室で実習するようになり、双方で共同研究を実施していく」と述べた。

 人材はイノベーションの根幹だ。人材発展のボトルネックを解消するために、汕頭市はさまざまなイノベーションプラットフォームを構築し、科学技術人材が集まる「強力な磁場」の形成に注力してきた。第1回「汕頭人材ウィーク」を開催し、人材の生態圏創出に努めている。イノベーション・起業人材の誘致・育成にさらに力を入れ、精密化学工業企業8社が科学技術リーダー8チームを誘致するのを支援した。南澳科学会議の創設により、中国内外の基礎研究と管理科学分野のハイレベル人材が自由に研究・議論できる場を作り出した。

 22年から化学・精密化学工業広東省実験室(以下、「汕頭実験室」)に所属する研究者の劉博氏は「現在、実験室の基礎科学研究プラットフォームと、初期から参加している一部のチームは、すでに一定の規模になっている。政府は実験室の建設を重視し、配偶者の仕事や子どもの学校などの問題を積極的に調整・解決し、研究者がより安心して研究に専念できるようにしている」と述べた。

 広東省唯一の化学・工業類の中核実験室である汕頭実験室は現在、トップレベルの科学者10人を擁し(うち院士2人)、ハイレベルの研究チーム18チームを立ち上げている。博士と修士の割合が80%を超えるハイレベル人材チームを呼び込み、香港大学をはじめとする高等教育機関と連携して複数の博士や修士を育成している。

 汕頭市は今年、人材誘致・育成システムを整備し、複数の科学技術イノベーションチームの誘致と育成を加速させ、若手人材の奨励・育成を強化していく。

マッチングで企業のイノベーション力を向上

 昨年末、第11回中国イノベーション・起業コンテストのナノ産業技術イノベーション専門コンテスト全国大会決勝が行われ、墨格微流科技(汕頭)有限公司がスタートアップ企業部門の1位になった。同社は汕頭実験室がインキュベートして設立した初の産業化企業で、イノベーションの力により、会社設立から1年足らずで、超音波微量反応用装置「兼愛1号」を独自開発した。その超音波微量反応技術は世界のトップ水準に達している。

 墨格公司のイノベーション発展は、汕頭市がハイレベルのイノベーション主体育成に力を入れ、質の高い発展の「新戦力」拡大に力を入れていることを反映している。22年以降、同市は科学技術型企業の育成を的確に進め、科学技術型企業に向けた「3+N」サービスを58回実施し、企業158社による科学技術サービスの展開を深化させた。ハイテク企業の総数は前年同期比10%近く増え、697社に達する見込みとなっている。

 企業に科学技術研究や成果応用の強いニーズがある現状を踏まえ、汕頭市は22年、「三新・両特・一大」の重要発展産業のイノベーションニーズに焦点を当て、産学研の対面型テーママッチングイベントを10回で開催した。

 昨年1月、中山大学生命科学学院の蘇薇薇教授はこのイベントに参加し、地元企業と協力することになった。共同開発した最初の製品「橘逗爆珠(グミ菓子)」は特許を申請し、市販される予定となっている。蘇氏は「これまで大学の研究が企業のニーズと完全に一致しておらず、必ずしも企業向けとはいえなかった。対面型のマッチングによって、中間プロセスがなくなり、ニーズを直接知ることができ、協力もすぐに始めることができた」と振り返った。

 統計によると、このイベントに参加した科学研究チームと汕頭市の企業が合意した協力事業は79件に上り、9千万元(1元=約20円)以上の資金が投入される。同市科学技術局の関係者は「マッチングイベントを通じて、大学と汕頭市の企業のより親密な協力関係構築が促され、より多くの産学研の成果が実用化され、汕頭の『三新・両特・一大』産業の発展構造の加速度的構築に新たな原動力をもたらしている」と述べた。

 汕頭市はさらに「国家企業技術センター、省レベル新型研究開発機関・重点実験室・工学技術研究センター、市レベル工学技術研究センター」で構成される多層的な科学技術イノベーションプラットフォームシステムの構築を通じ、企業の技術開発を後押ししようとしている。また「三新・両特・一大」重点発展産業のイノベーションニーズに焦点を当て、企業、大学、科学研究機関の基礎・応用基礎研究と重要コア技術の研究開発を支援し、産業の要となる複数の技術でブレークスルーを実現させようとしている。

複数の措置で高効率のイノベーション生態圏を構築

 広東竜驊新材料有限公司が開発した新製品は、被覆層の表面が滑らかかどうかを確認するために電子顕微鏡が必要だったが、同社の設備ではこの作業ができず、非常に困っていた。

 汕頭市大型科学機器共有サービスプラットフォームが稼働し、計3億元相当の科学機器・設備120台(セット)が開放されて使えるようになったというニュースを知り、同社の劉挺総経理は安堵のため息をついた。「私たちは生産開始前に広東イスラエル理工学院の電子顕微鏡センターで何度もテストを行い、差し迫った問題を解決した。電子顕微鏡は非常に高額で、専門家による操作やメンテナンスが必要だが、こうした設備が開放されて汕頭の企業が使えるようになったことで、企業の研究開発にとって極めて便利になった」と述べた。

 地域の科学技術資源の利用効率を高め、国家イノベーション型都市の建設を支援するため、汕頭市は「汕頭大型科学機器資源共有プラットフォーム構築案」を制定。汕頭大学、広東イスラエル理工学院、汕頭実験室の既存の科学研究資源を統合し、大型科学機器設備の共有プラットフォームを構築することで、化学・化学工業、医薬品、高分子などの応用分野に寄与している。

 汕頭市はここ数年、高効率のイノベーション生態圏の構築や、科学技術イノベーションの発展強化で大きな努力を重ねてきた。「一つの指導機関、一つの実施意見、一つの条例、一連の政策措置、一連の管理制度、一連のハイレベルプラットフォーム実行主体」という「6つの1」国家イノベーション型都市建設システムの加速度的構築を打ち出し、「汕頭市人民政府のイノベーション推進発展戦略の踏み込んだ実施と国家イノベーション型都市の全面的建設に関する実施意見」「汕頭経済特区科学技術イノベーション条例」「汕頭市の国家イノベーション型都市建設加速に関する若干の政策措置」などを相次いで打ち出した。

 汕頭市は今年、プラットフォーム構築、主体の育成、協同促進、生態圏の最適化に重点を置きブレークスルーを目指す。うち、ハイレベルのイノベーションプラットフォーム構築では、汕頭サイエンスシティを建設し、先端科学技術成果の実用化と新興産業育成拠点の構築を計画している。

 汕頭市科学技術局の関係者は、「汕頭市は国家イノベーション型都市の建設、地域イノベーション中心地の構築という重要なチャンスをしっかりとつかみ、全プロセスをカバーするイノベーション生態チェーンの構築を加速させ、科学技術型企業『3+N』サービス行動を踏み込んで実施し、ハイレベルのイノベーション主体を持続的に育成し、科学技術イノベーションによって汕頭の質の高い発展を後押しし、新時代の経済特区建設において、強い科学技術で貢献していきたい」と述べた。


※本稿は、科技日報「広東汕頭多維発力激活新動能」(2023年2月24日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。