【22-20】AI によるデジタル点字生成で視覚障がい者の読書をサポート
洪恒飛 周立超 / 江 耘(科技日報記者) 2022年07月13日
このソフトウェアのコア技術の一つは、点字AIリアルタイム点訳アルゴリズムで、リアルタイムに大量の点字デジタルリソースを生成できることだ。まず、中国語や英語といった文字コードをUnicodeに変換し、その後、点字のタイプを選択、さらに、点字AIリアルタイム点訳アルゴリズムをコールすると、統一中国語点字や現行点字、フルピンイン(ローマ字)の点字、ダブルピンインの点字が出力されるというのがそのメカニズムだ。
----楊文珍 之江実験室類人センシング研究センター研究専門家
「西湖十景は浙江省杭州市西湖区内にある......」。浙江省杭州市で開催された「之江実験室」の特別オープンイベントで、視覚障がい者でボランティアの陸林松さんは、会場に展示されていたスマート点字リーダーを使い、そのような点字の内容を指で正しく読み取っていた。
陸さんが体験した点字リーダーは、之江実験室の科学研究チームが、複数の機関と共同で開発した、視覚、触覚、聴覚といった複数のタイプのセンシングを一体にした点字デジタル化スマートデバイスで、点字教育デバイスや英語デバイスなどと共に展示された。視覚障がい者の学習、読書、公共サービスが、その3大応用シーンだ。
之江実験室類人センシング研究センターの研究専門家・楊文珍氏は、「この3種類の点字デバイスには、当チームが確立した世界初の最密格子EMドライブミリニュートン級高精度触覚再現技術や、中国トップレベルの点字デジタルリソースAIリアルタイム生成技術、視覚、聴覚、触覚のシンクロセンシング技術が駆使されている。当チームは2011年から点字のデジタル化科学研究を始めた。四度の技術の難関攻略や世代交代、モデルチェンジを経て、製品の性能は日々改善されており、中国21省の試行地で普及が進んでいる」と説明する。
デジタルディバイドに悩む視覚障がい者
点字図書の価格は、同じ内容の普通の本よりも数倍も高くなるケースもある。イベント会場では、点字版の小学校の国語教材も展示されていたが、サイズも通常のものより大きく、まるで辞書のように分厚いものだった。
之江実験室類人センシング研究センターの工学スペシャリスト・陶文韜氏は、「点字図書の製作工程は複雑で、出版周期も長く、情報量は少なく、そして傷みやすい。それでも、紙媒体の点字書籍が依然として、中国の視覚障がい者が学習や、情報取得の主要ツールであり、点字デジタル化デバイスの普及率は非常に低い」と現状を説明する。
関連統計によると、中国の視覚障がい者の数は1700万人以上で、うち約800万人が全盲、世界の失明人口の20%を占めている。そして、毎年、約45万人が新たに視覚障がい者となっている。複数の原因により、中国では点字が分からない視覚障がい者が多いほか、点字を教える資格ある教師が不足している。
中国財政部(省)や中国障がい者連合会など複数の当局は、2017年に共同で「視覚障がい者デジタル読書推進プロジェクト」を始動し、視覚障がい者用パソコンや点字電子ディスプレイ1000台を中国全土の視覚障がい者教育機関100ヶ所に配置した。しかし、それでも中国の巨大なニーズを満たすことは到底できない。
楊氏は、「知の爆発が起き、入れ替わりの速い情報時代であるにもかかわらず、点字デジタルリソースの不足は深刻で、視覚障がい者のデジタルディバイドという問題がより際立つようになっている。人工知能技術を点字のアクセシビリティな製品に応用しているケースは現在まだ少ない。中国の視覚障がい者の状況に合わせて、当チームは、独自に編み出したフレキシブルインタフェース触覚計量テスト技術や視触覚融合センシング技術、点字AIリアルタイム点訳アルゴリズムなどを駆使して、それぞれの機能に特徴がある製品3種類を開発した」と説明する。
楊氏によると、チームが開発した視覚、聴覚、触覚が同時に刺激するデジタル化点字学習スタイルは、視覚障がい者の点字学習効率を向上させることができる。また、設計したマルチセンシング情報マッチングAIアルゴリズムは、文字、音声、点字の位置が同じ内容の情報を出力でき、視覚障がい者がバリアフリーで点字を学習できる環境を提供することができる。
スマートシステム導入で点訳の精度が向上
楊氏は、「このソフトウェアのコア技術の一つは、点字AIリアルタイム点訳アルゴリズムで、リアルタイムに大量の点字デジタルリソースを生成できるというものだ。まず、中国語や英語といった文字コードをUnicodeに変換し、その後、点字のタイプを選択、さらに、点字AIリアルタイム点訳アルゴリズムをコールすると、統一中国語点字や現行点字、フルピンインの点字、ダブルピンインの点字が出力されるのがそのメカニズムだ」と説明する。
中国語点訳は、漢字のソーステキストを自動で、対応する点字テキストに変換することだ。ただ、「同形異音語が混在している」や「未登録の単語を増やすことができない」、「点字の単語分け、連続書きの規則にマッチしていない」といった問題が存在している。取材では、同チームが構築した逆方向最大マッチング単語分けアルゴリズムに基づく中国語点訳システムは、比較的上手く同形異音語を識別し、自動で未登録の単語を追加し、正確な単語分け、連続書きの結果を得ることができ、中国語の点訳の精度を効果的に向上させることができることが分かった。英語点訳については、チームは、点字Unicodeコードから点字ASCIIコード、点字構成の変換アルゴリズムを設計した。
楊氏は、「同システムは、スマート単語分けや点訳プログラムを通して、文字の出力を点字の構成とし、最後に出力された文字列の前後の順序に基づいて、点字構成を決め、点字のデジタル化を実現している。さらに、当チームは、指で読み取る視覚障がい者に適した、ヒューマンコンピュータインタラクションプログラムを開発した。点字デバイス上で、目録の識別やしおりの保存、テキスト朗読といった機能を実現したテキスト管理システムを構成し、視覚障がい者が自分で操作できるようになっている」と説明する。
USBメモリーをデバイスに接続すると、簡単なキー操作をするだけで、スピーディーに利用することができる。科学研究者の実演デモを見ると、スマート点字リーダーの各モジュールは、機能分けがはっきりしていることが分かった。例えば、視覚表示モジュールには、普通の文字と点字が表示され、音声モジュールからは普通の文字の音声が流れ、点字表示デバイスには点字が表示されていた。
同チームが開発した3種類の製品は現時点で、全国民読書プロジェクトや農村文化ホール、融合教育、図書館、都市の図書施設といったシーンで応用され、中国視覚障がい者協会、中国点字図書館、北京市視覚障がい者学校といった機関、個人の間で好評を博している。
楊氏は、「デジタル時代の今、文字情報のほか、画像情報も視覚障がい者にとって理解しにくい情報となっている。当チームは今後、デジタル画像触覚2D画像触覚スマートセンシングデバイスを開発する計画だ。人工知能技術を駆使して、スピーディー、かつ正確にドットマトリックス触覚画像を生成できるようにし、画像情報を触覚により、視覚障がい者に伝え、視覚障がい者とデジタル空間の触覚のチャンネルを構築し、デジタルディバイドという問題の解決を促進したい」と語った。
※本稿は、科技日報「実時生成海量数字盲文,AI幫視障人士無障碍閲読」(2022年6月14日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。