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【20-01】外国人博士課程留学生に少ない求職情報 科学技術・学術政策研究所調査で判明

2020年1月9日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 日本の大学の博士課程で学ぶ外国人留学生の過半数が博士課程終了後も日本に滞在することを望んでいる一方、23%が「外国人に対する求職情報が少ない」と感じていることが、文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査で明らかになった。博士課程の在籍者の約2割は外国人で、その多くはアジアからの留学生。留学生を含む外国人材の受け入れ・共生は、日本政府の重要な政策になっている。調査報告書は、研究の継続や高度な専門性を活かした職業を志向する博士課程留学生が日本で活躍する場を広げるためには、一般の留学生対策に加えて博士課程留学生を対象にした情報支援対策が必要だ、としている。

 6日に公表された「博士課程在籍者のキャリアパス意識調査:移転可能スキルへの関心と博士留学生の意識」報告書は、日本国内25の大学の博士課程在籍者(一部修士課程在籍者も含む)6,757人に対し、2016年12月から2017年3月にかけて実施された。499人(回答率7.4%)の回答者に対する全体の調査結果とともに、回答者の中に含まれる外国人留学生110人に限った分析結果も明らかにされている。110人の大半は博士後期課程在籍者だが、博士前期課程と修士課程在籍者も14人含まれている。

日本の博士課程に進学した理由

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(科学技術・学術政策研究所「博士課程在籍者のキャリアパス意識調査」から)

 これら110人に日本の博士課程に進学した(する)理由を聞いたところ、46人(41.8%)が「研究・教育の質の高さ」を挙げた。英語で回答した、つまり日本語が堪能ではない留学生だけをみると49.2%となる。日本語で回答した留学生が32.7%だったことから、英語回答者の方が「研究・教育の質の高さ」を重視して日本の博士課程に進学したことが分かる。「研究環境の良さ」を挙げた留学生も23人(20.9%)いる。

 一方、「日本で就職したい」からと答えたのは4人(3.4%)、「日系企業等で働きたい」も3人(2.7%)にとどまる。「治安の良さ」や「生活のしやすさ」という生活環境を理由に挙げた留学生も3人(2.7%)しかいない。出身国に近いという「地理的条件」を挙げた人は1人もいなかった。科学技術・学術政策研究所は「日本の教育・研究のレベルの高さが海外で一定の評価を受けており、留学生に対する大きな求心力になっている」とみている。

博士課程修了後の進路希望

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(科学技術・学術政策研究所「博士課程在籍者のキャリアパス意識調査」から)

 これらの留学生は、博士課程修了後の進路についてはどのような希望を持っているのだろうか。最も多かったのは「日本で研究を続けたい」で31人(28.2%)。次いで「出身国に戻って研究を続けたい」が24人(21.8%)、「日本で就職したい」が15人(13.6%)となっている。「日本で就職して出身国でのキャリアにつなげたい」9人(8.2%)と「日本で起業したい」1人(0.9%)を合わせると、日本での就職や起業を望む回答は25人(22.7%)になるから、日本に留学するうちに日本での就職や起業を望む人が増えたことがうかがえる。結局、博士課程修了後も「日本滞在」を希望する留学生が過半数の56人(50.9%)を占める結果となった。これに対し、出身国に戻って研究、就職、起業したいという帰国希望者と、他国で研究あるいは就職したいという第3国転出希望者は合わせても48人(43.6%)で、日本滞在希望者を下回る。

 科学技術・学術政策研究所は、2018年2月に「『博士人材追跡調査』第2次報告書」という調査結果を公表している。この中で、2015年度に日本で博士課程を修了した外国人学生の50.3%が半年後も日本に居住していることが明らかにされている。このほか2015年に発表されたライアン優子静岡大学准教授らによる研究でも、静岡大学理工系博士課程に在籍する外国人留学生は、約半数が日本での就職を希望しているという結果が示されている。「今回の調査結果はこうした先行研究結果と合っており、優秀な留学生に国内での活躍の機会を提供することで、日本の研究開発やイノベーション創出への貢献が期待できることを意味している」と今回の科学技術・学術政策研究所の調査報告書は指摘している。

博士課程修了後に日本で活躍するための課題

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(科学技術・学術政策研究所「博士課程在籍者のキャリアパス意識調査」から)

 では、博士課程修了後の外国人留学生に日本で活動してもらうためにどのような課題があるだろうか。同研究所の調査結果から次のような実態が明らかになった。最も多かった答えは「日本語によるコミュニケーションに不安がある」で、56人(25.8%)に上った。次いで多いのは「外国人に対する求職情報が少ない」で50人(23.0%)。「研究費や支援制度への応募の仕方がよく分からない」も41人(18.9%)と次に多い。「博士留学生が引き続き日本で活躍する機会を広げるためには、一般の留学生対策に加えて博士留学生を対象とした情報支援対策が必要であることを意味している」と科学技術・学術政策研究所は指摘している。

 日本政府は内閣官房長官と法務相を議長とする「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」を設け、2018年12月に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を決定している。外国人留学生に対する就職等の支援は対応策の重要な柱だ。36%にとどまっている留学生の国内就職率を5割に高めるという政府目標を達成するため、多くの施策が盛り込まれた。すでに日本貿易振興機構(JETRO)による、留学生をはじめとする外国人材の就職を促進するための情報を提供するポータルサイトの立ち上げ、さらに東京、大阪、名古屋、福岡のJETRO施設に専門相談員「高度外国人材活躍推進コーディネーター」を配置し、就労環境整備から採用後の定着までを継続してサポートする支援活動などが始まっている。

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「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を決定した外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議(2018年12月25日)=首相官邸ホームページから

 2019年12月20日には、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(改訂)」が「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」で決定され、外国人留学生の秋卒業者に対して国内就職を促すため企業等の通年採用を促進するなどの新たな取り組みや、自治体の一元的相談窓口に対する支援の拡大などが盛り込まれた。また、同日の閣議で決まった2020年度予算案の中にも、外国人留学生の日本での就職を支援するさまざまな方策が盛り込まれている。

 一方、大学、大学院を卒業・修了した外国人留学生の国内就職率は2016年度の36%から2017年度には35%に下がっているなど、5割という目標にまだまだ開きがある。こうした現状については「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の中でも「抜本的な対策が必要な状況にある」とされている。

関連サイト

科学技術・学術政策研究所 博士課程在籍者のキャリアパス意識調査:移転可能スキルへの関心と博士留学生の意識[DISCUSSION PAPER No.176]の公表について

外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議 外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(2018年12月25日)

外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議 外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(改訂)(2019年12月20日)

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