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【22-27】「死の海」にまかれる希望の種-タクラマカン砂漠のゼロカーボン砂漠道路建設

朱 彤(科技日報記者)/受吉相、王成凱(科技日報通信員) 2022年08月04日

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タリム油田砂漠道路ゼロカーボンモデルプロジェクトの一環として砂漠に設置された太陽光発電所(画像提供:タリム油田)

2万トン
 
タリム(塔里木)油田砂漠道路のゼロカーボンモデルプロジェクトの一環である生態防護林は毎年、約2万トンの二酸化炭素を吸収すると試算されている。そうなると、行き来する車両が排気する二酸化炭素もオフセットすることができ、中国の砂漠化対策や砂漠道路の運営・メンテナンスに、「タリムモデル」を提供し、太陽光発電による砂漠化対策の新たな道を歩んでいる。

 6月2日、タリム油田砂漠道路ゼロカーボンモデルプロジェクトが完成し、タクラマカン砂漠の後背地に新設された太陽光発電所86ヶ所の稼働が始まった。太陽光パネル1万枚以上が、太陽光を途切れることなく電気に変え、水をくみ上げ、436キロに及ぶ砂漠道路の生態防護林により「グリーン」な水源を提供している。その水源により、道路全線の二酸化炭素排出ゼロが実現し、中国初のゼロカーボン砂漠道路となっている。

 人気がほとんどなかった広大な砂漠に、近代的なガス・石油施設が続々と誕生。砂漠道路が全線開通して、その周りでは生態防護林が青々と茂る。木々に与える水をくみ上げる機械の電気は、ディーゼル発電から、太陽光発電へと変わり、砂漠を「グリーンの色で染める」など、タリム油田は、科学的に砂漠化対策の新たなチャンネルを切り開き、生態環境回復と、石油・ガス探査・開発が相互補完するグリーン、低炭素な発展の道を歩んでいる。

「死の海」を突き進み砂漠を貫く道路建設

 タリム石油の従業員らにとって、「砂」は非常に身近な存在だ。1989年にタリム石油会戦(石油開発強化政策)が始まり、中国各地からやって来た石油業界従事者は、中国陸上石油工業の「東部を安定させ、西部を発展させる」という戦略的計画に積極的に呼応し、新疆ウイグル(維吾爾)自治区南部に集結し、困難な中で起業し、タクラマカン砂漠を突き進み、「スケールの大きな大規模油田・ガス田を探して、建設する」という夢を追いかけ始めた。

 吉報はすぐに届き、砂漠の後背地にあるタリム油田の一つ目の重要な油・ガス井「塔中1井」を発見した。生産量の高い石油・ガスフローで、巨大な資源のポテンシャルを秘めていた。

 しかし、砂漠の後背地の広範囲で石油・ガスの探査を展開するためには、その前に立ちはだかる砂漠という「壁」を突破し、砂漠の後背地へ繋がる道路を建設する必要がある。

 中国最大の砂漠であるタクラマカン砂漠は33万平方キロという巨大な広さで、世界で2番目に大きな流動砂漠だ。そして、その自然環境は極端に劣悪であるため、現地の人々は「死の海」と呼んでいる。

 砂漠に長い距離の道路を建設するというのは先例がなく、砂漠化による破壊的な災害は深刻で、施工技術、道路建設材など一連の世界的な難題に直面し、タリム油田の関係者は、新疆ウイグル自治区内外の科学研究機関17機関、専門家180人以上と連携して、日夜を問わずに、室内や現場で試験を展開し、難関攻略に挑んだ。

 4年に及ぶ壮絶な努力と奮闘を経て、1995年に、タクラマカン砂漠には、南北の盆地を貫く全長566キロのタリム砂漠道路が全線開通し、流動砂漠を貫く道路としては世界最長の舗装道路となり、国境付近の少数民族が住む地域の経済発展、石油・ガス探査、開発を力強く促進するようになった。

 砂漠に道路を建設するのは至難の業であるが、そのメンテナンスはさらに難易度が高くなる。道路は飛砂の無情な襲来を受け、タリム油田の関係者は再び砂漠に「宣戦布告」。道路の沿線で生態防護林プロジェクトを実施した。そして、暑い日も寒い日も、日夜を問わずに、育苗をめぐる難関攻略に挑み、最終的に道路の両脇に長さ436キロの帯状の造林を行った。そして、帯状の造林に沿って掘られた井戸109ヶ所から日夜を問わず水がくみ上げられてまかれ、乾燥に強く、アルカリ耐性の木々2000万本が根を深くおろし、砂漠の砂をしっかりと固定し、「砂が前進し、人が後退する」という状況から「緑が前進して砂が後退する」という状況への変化を実現し、人類の砂漠化対策史上における重要で大きな画期的試みとなった。

 自然を大切にすれば、自然も必ず人間に親切にしてくれるものだ。タリム砂漠道路は現在、目を見張るほどの「輝き」を放っており、436キロに及ぶタリム砂漠道路生態防護林の保護の下、平坦な大通りがタクラマカン砂漠の南北を貫き、商人が続々と集まり、車両が絶えず行き来している。豊富な石油や天然ガスが湧き出る砂漠の後背地へと繋がっているその道路は、古代シルクロードの輝かしい繁栄を彷彿させる。

「グリーンの長城」が南北を貫き太陽光発電が砂漠化対策に貢献

 17年に及ぶ入念な育成・管理・保護を経て、約3133ヘクタールの防護林の高さは平均2メートルを超え、生存率は85%以上に達している。ヤナギバグミやハロキシロン・アンモデンドロン、ギョリュウといった植生が、砂漠道路の両脇で青々と茂り、100種類以上の鳥がこの「緑の回廊」に飛来し、生息するようになっている。また、野ウサギやスナネズミ、コサックギツネといった動物もそこに住み着いており、生態系ネットワークが少しずつ形成されている。

 タリム油田の関係者らは、「豊かな自然は金銀同様の価値がある」というのは質の高い、持続可能な発展の道であり、タリム油田が石油化学工業企業の先頭を歩むために必ず必要な基礎となる、ということをますますはっきりと認識するようになっている。

「緑の回廊」に守られている砂漠道路は、飛砂の襲来にもしっかりと耐えている。そして、この道路があるおかげで、砂漠の後背地や周辺で、大・中型の油・ガス田32ヶ所が次々と台頭した。そして、2021年、タリム油田の石油・ガス生産量は年間3182万トンにまで急増し、中国の陸上の油・ガス田としては3番目の規模に発展し、中国西部の天然ガスを中国東部沿岸地域に輸送する国家プロジェクト「西気東輸」の主な天然ガス源へと躍進した。

 特に近年は、タクラマカン砂漠の後背地にある深い層から、豊富な石油・ガスが眠る断裂帯70本が見つかった。そして、超深部で発見された横50キロ、縦1キロの大きさの石油・ガスエリアには10億トンと言われる石油が眠っており、そのスケールは極めて大きく、「2021年度中央企業(中央政府直属の国有企業)10大スーパープロジェクト」にも選出された。また、庫車(クチャ)山の前での探査は、全面的なブレイクスルーを実現し、「克拉--克深」、「博孜--大北」からなる2兆立方メートルに達する天然ガスエリアが、中国最大の超深部石油・ガス生産拠点となっている。

 タリム油田の石油従事者にとって、国家のエネルギーの安全保障というのは「使命」で、生態環境保護というのは当然負うべき「責任」だ。

 タリム油田は、中国政府の「砂漠、ゴビ砂漠、荒漠エリアにおける大型風力発電・太陽光発電拠点プロジェクトの計画、建設を加速させよう」という呼びかけに積極的に呼応し、まず、砂漠道路の沿線の水源井11ヶ所を電力網に接続し、試行地12ヶ所に、太陽光発電を導入した灌漑モデルステーションを建設した。そして、それをベースに、ディーゼル発電機が使用されていた残りの水源井86ヶ所を今年、太陽光発電に改造した。それにより、ディーゼル発電機が使われていた時に比べて、排出される二酸化炭素の量が年間3330トン減少した。人気のほとんどない場所にあったこうした生態の「マイナス資産」が今、グリーンな電気が利用できる、活気に満ちた場所へと変化している。

 太陽光発電所86ヶ所の発電規模は合わせて3540kW、発電量は年間362万kWhに達し、生態防護林に灌漑する水をくみ上げるのに必要な日々の電力を供給できる状態となっている。

 生態防護林は毎年、約2万トンの二酸化炭素を吸収すると試算されている。そうなると、行き来する車両が排出する二酸化炭素もオフセットすることができ、中国の砂漠化対策や砂漠道路の運営・メンテナンスに、「タリムモデル」を提供し、太陽光発電による砂漠化対策の新たな道を歩んでいる。

グリーンで低炭素な発展を推進し、シルクロード伝説に新たな歴史を刻む

「二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラル」をめぐる目標を達成するために、タリム油田では、知識が行動へと移され、力強く前進し、安全、グリーンが油田発展戦略に組み込まれている。そして、「12521」事業計画が制定・実行され、「油田で2025年にCO2排出量ピークアウトを、2040年にカーボンニュートラルを実現する」という明確な目標が掲げられ、グリーンで低炭素な発展の道がよりはっきりと描き出されている。

「1ブロックを開発し、1面のオアシスを保護し、1面の青空を守る」という理念が掲げられ、タリム油田の試行地にカーボンニュートラル林モデルエリアが建設され、全ての探査エリアで造林が行われ、緑化面積は累計で483平方キロに達した。サッカーコート6万7000面分の大きさに匹敵する。そして、克拉、哈得といった鉱山5つが国家「グリーン鉱山」リストに組み込まれ、輪南軽烴廠が「グリーンファクトリー」の称号を獲得した。

 油田は、大量のエネルギーを生産すると同時に、大量のエネルギーを消費してもいる。そのため、発展するだけで、二酸化炭素排出を減らさないということがあってはならない一方で、二酸化炭素排出を減らして、発展しないということがあってもならない。タリム油田関係者は、「まずダイエットしてから筋肉をつける」という活動パターンを掴み、6つのタイプのクリーン低炭素生産プロジェクトを実施して、省エネ・排ガス・消費削減を全面的に推進し、グリーン電力・余熱・余圧利用といったクリーンエネルギー利用への転換を大々的に推し進めている。

 油井掘削プロジェクトの電力供給源を電力網へ切り替え、ガスで動く掘削装置を導入するというのが現在、大きな流れとなっており、炭酸ガス攻法技術も石油・ガス開発において存在感を放ちはじめている。石油・ガスの探査から、開発、建設などの各部分に、低炭素の要素が組み込まれるようになっている。そして、エンドオブパイプから、クリーナープロダクションへ代わり、「ブラック」な資源の「グリーン」な開発を実現した。

 新疆ウイグル自治区が誇る無限の風、太陽光を活用し、タリム油田は、低炭素・ゼロカーボンエネルギーの割合を高め、新エネルギーと石油・ガスの協同発展の道を歩み続け、クリーン・低炭素、安全・効率的な近代的なエネルギー体制を積極的に構築し、省エネ・エネルギーの消耗と排出の削減モデルエリア、クリーンエネルギーへの切り替えモデルエリア、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)モデルエリア、二酸化炭素吸収林業モデルエリア、低炭素モデルエリアの建設を大々的に推進し、「死の海」に、グリーンエネルギーの「特別区」を全力でいくつも建設する。そして、第14次五カ年計画(2021‐25年)の終盤までに、二酸化炭素の排出を累計で300万トン以上削減する計画だ。

 タクラマカン砂漠の飛砂は、シルクロード上の文明を次々と吞み込んでしまった。しかし、「死の海」が「希望のオアシス」へと生まれ変わるという夢が今、実現に向かって一歩一歩前進している。

 生態文明と石油・ガスといったエネルギーが肩を並べて発展し、豊かな自然と金山や銀山が肩を並べて成長している。石油・ガス田の開発・建設が進むにつれて、生気のあふれるオアシスが砂漠のあちこちに出現している。タリム油田にまかれた「グリーンの希望」の種が今後も芽を出し、「不毛の地」の空白を一歩ずつ埋めていき、これまでずっと荒れ果てていた砂漠地帯に生気をもたらしてくれるだろう。


※本稿は、科技日報「在"死亡之海"播撒緑色希望」(2022年6月17日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。