【23-12】子より持ち家志向顕著に 中国女性の新たな生活感
小岩井忠道(科学記者) 2023年02月15日
一人の女性が産む子供の数が1.37と日本と同等の低水準となり、さらに昨年末時点の人口が、61年ぶりの減少。こんな中国で、女性の結婚・出産に対する意識の変化が住宅の取得意向にも表れているとする論考を、日本のシンクタンク「ニッセイ基礎研究所」の研究者が公表した。「男性は結婚のために家を買う」が長年の常識とされてきた中国で「女性は独身のために家を買う」と言われる現実が進んでいる、と研究者は指摘している。
9日公表された「子供より家を持ちたい中国女性」と題する胡笳ニッセイ基礎研究所研究員のコラムは、まず中国社会科学院社会学研究所が2021年に公表した「社会藍皮書:2022年中国社会形勢分析と予測」で示された数字を紹介している。18歳~49歳の出産適齢期女性が産む子どもの数は平均1.37人となり、2020年の日本の合計特殊出生率1.33と同等の水準。すでに子どもがいる女性がさらに子どもを産もうとする意欲も低く、「2人目以降の子どもが欲しくない」という意思を明確にしている既婚女性の割合は79.7%(既婚男性は71.0%)に上る、という数字だ。
こうした変化を裏付ける調査結果として紹介している一つが、北京大学が2年ごとに継続的に実施している「中国家庭追跡調査」。中国都市部で持ち家を所有している女性の割合は2010年には5%未満だったのが2016年には14.7%と、大きく変化している実態が不動産取得に絡む調査結果から見て取れる。さらに詳しく紹介しているのが不動産調査会社「貝殻研究院」の「女性居住消費調査報告2022」。一線都市とされる北京、上海、広州、深圳を含む38都市の住宅取引データを詳しく調べた報告書だ。
女性の住宅購入者48.5%に
それによると、賃貸契約者と売買契約者のいずれにおいても、女性の割合が年々増加している。特に売買契約者は2017年時点で45.54%に達し、さらに年々増え続け、2020年には47.62%、2022年はさらに増えて48.65%と売買契約者の約半数となっている。
賃貸契約者および売買契約者における女性の割合の推移
(胡笳ニッセイ基礎研究所研究員提供)
住宅の購入資金はどうしているのか。「自己資金」のみで購入している女性の割合が2020年は16.42%だったのが、2021年には21.10%と1年で約5ポイント急増しているのが目を引く。「親の援助」で購入している女性の割合も36.29%で、こちらも2020年の31.90%から約5ポイント増えた。一方、「夫婦で共同購入」する女性の割合は2020年の37.49%から2021年には35.72%に減っている。
住宅購入資金の調達方法の推移
(胡笳ニッセイ基礎研究所研究員提供)
結婚より家持つ方が安心
こうした変化の理由が、住宅購入の動機を聞いた答えから読み取れる。36.07%の女性が「結婚より家を持つと安心感がある」と答えた。自分の家を持つと「家庭内の発言権が増す」と考えている女性も、29.59%いる。
住宅購入の動機
(胡笳ニッセイ基礎研究所研究員提供)
住宅購入というのは誰もが簡単にできることではない。胡研究員によると、中国では地域によっても異なるが、住宅ローンの借入限度額が住宅価格の70%以下に制限されることが一般的。借入金利も約5%と高い。住宅の価格を抑制するための住宅の取得に対する厳しい規制による。
賃貸の方が割安にもかかわらず、中国女性が持ち家を選ぶ傾向が強まっているのはなぜか。胡氏の見立ては以下のようだ。中国女性の労働参加率はすでに先進国並みであることから、女性の経済的な独立に伴い「結婚は必須でない」という気持ちは今後さらに強まる。中国女性にとって、持ち家の取得は自分の将来への「投資」であることに加え、安心感を求める手段となっている。中国では、「男性は結婚のために家を買う」と言われているが、女性が結婚より持ち家を志向する「女性は独身のために家を買う」状況がしばらく続くのは間違いないだろう。
離婚後考えるのも一因
中国女性の生活感の急激な変化をもたらした背景と今後の見通しについて、胡研究員にさらに聞いてみた。
―「女性は独身のために家を買う」と言われ始めたのはいつごろからですか。
胡氏:いつから言われたのかは明白に回答できませんが、少なくともこの数年はその傾向にあります。その背景は、2011年の中国の婚姻法では、結婚前に男性が買った家は、登記名義が男性のみのため、離婚のときに女性がもらえないということになっていました。2020年の新婚姻法では、住宅ローンの返済分の共同所有が認められていますが、それでも離婚のときのトラブルや裁判になるケースが多く報道されています。そのため、自分の家を持つと心強い、と考える女性が増えていたのではないかと考えます。ただ因果関係のデータはなく、あくまでも推測です。
― 中国女性の労働参加率がすでに先進国並みとなっていることも、女性の意識変化の理由の一つとされています。引用されておられる国際通貨基金(IMF)のグラフは、60数%という中国女性の労働参加率が2010年時点のデータとなっておりちょっと古いようですが、現在はどうでしょう。
胡氏:片山ゆきニッセイ基礎研究所主任研究員の2019年3月のレポートによると、世界銀行の2019年推算値として中国女性の労働参加率60.6%という数字が示され、経済開発協力機構(OECD)諸国と比較しても高い状態にあるとされています。
― 家の売買契約者に占める女性の割合が2017年の時点で既に42.57%というのは驚きです。2017年以前の女性売買契約者比率はどうだったのでしょうか。
胡氏:中国の不動産売買のデータは私も探したいところですが、現在まだ見つかりません。
― いずれにしろ日本の場合、家の売買契約者に占める女性の割合は中国ほど高くはないと思いますが。
胡氏:日本の場合、定義や調査対象が異なり、比較はできないかもしれませんが、総務省統計局の公表データによると、次のようになっています。2014年の単身世帯における持ち家率は男性が51.9%だったのに対し、女性は68.1%と、女性の持ち家率が男性を16.2ポイント上回っています。
― 今後も中国の女性の持ち家志向は変わらないとみてよろしいでしょうか。
胡氏:中国の女性は、専業主婦になる方が少なく、働いて経済的に独立している方が多いのです。ですが、「女は家庭」という考え方はまだ残っています。そのため、結婚すると逆に生活レベルが低下すると考える女性が多く、加えて離婚後に家がもらえないかもしれないということで、自立で家を買う女性が多くなりました。この状況は日本も同じではないかと考えます。さらに、中国で家を買うには、親から援助をもらえることが一般的ですので、女性による持ち家取得もハードルがさらに低くなります。
関連サイト
ニッセイ基礎研究所胡笳研究員コラム 子供より家を持ちたい中国女性
北京大学「中国家庭追跡調査」
貝殻研究院「女性居住消費調査報告2022」贝壳研究院发布报告:居住消费女性占比持续走高
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