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【20-002】「爆買い」後、日本メディアが求める「中国人の傾向」

2020年1月23日

中島恵

中島 恵: フリージャーナリスト

略歴

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経てフリージャーナリスト。
中国、香港、台湾など東アジアの社会事情、ビジネス事情などを取材し、新聞・雑誌・ネットメディアなどに掲載している。

主な著書

『中国人エリートは日本人をこう見る』(日本経済新聞出版社、2012年)
『中国人の誤解 日本人の誤解』(同、2013年)
『中国人エリートは日本をめざす』(中央公論新社、2015年)
『「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社、2015年)
『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社、2017年)
『日本の「中国人」社会』(同、2018年)
『中国人は見ている。』(同、2019年)

 今年(2020年)も春節がやってきた。今年は比較的早く1月25日が春節だ。中国政府が定めた春節休暇は24日~30日の7日間。この前後の約1か月程度、中国はお正月の華やかな雰囲気に包まれる。

 ここ数年、日本でも「春節」という言葉が定着し、多くの日本人が春節に注目するようになった。2015年に巻き起こった爆買いブームにより、昨年は年間900万人以上の中国人が来日。中国人観光客の存在がとても身近になり、日本社会のあらゆる面に影響を及ぼすようになったからだ。

 百貨店やショッピングセンター、ドラッグストアなどでも、中国の春節に合わせて真っ赤な飾りつけを施し、中国人観光客を呼び込むことが当たり前になってきた。中国語のPOPをつけたり、中国語による店内放送まで行われたりする。

 テレビなどでも、春節に合わせて特集が組まれるようになった。中国人観光客は日本のどこに行き、何を食べているのか、といった内容を、VTRや識者のコメントなどを交えながら放送するのだ。

各メディアからの質問とは?

 私は長年、中国の社会事情やビジネス事情、日中比較文化などをテーマに取材を続け、書籍を執筆してきた。中国各地に取材に出かけるが、その一環として、日本にやってくるエリート層の傾向や分析も行うようになった。インバウンドが専門なのではなく、あくまでも中国人の側から見て、彼らの心理や行動様式などを取材することが中心だ。

 その延長線上に、海外旅行への興味や関心といったものも含まれるのだが、ここ数年、私のもとには日本のメディアからの問い合わせが多数、舞い込むようになった。

 問い合わせとは主に次のような質問だ。。

「爆買いはもう終わったのですか?」

「今年の中国人観光客の特徴はありますか?」

 中国人の興味が「モノ」から「コト」へと移行していく過程が、専門家以外の人にはわかりにくいので、ついこのような質問をしてしまうということは、ある程度理解できる。

 だが、ほとんどすべてのメディアが同じような質問をする上、「今年の特徴」を聞き出そうとすることに、私は驚かされた。

日本人には捉えにくい巨大な中国

 そもそも「中国人」を一括りにして語ることはできない。中国の人口は約14億人に上り、沿海部の大都市に住む中国人と、内陸部や農村に住む中国人では、まったく違う生活を送っている。

 家庭環境や学歴、職業、年齢、出身地などによっても異なる。日本旅行に来られるだけの経済的な余裕がある人だけを取ってみても、団体旅行と個人旅行があり、彼らの行動や興味は相当異なっているといっていい。

 私はそれらを説明しつつ「彼らの特徴は"いろいろ"です」と答えるのだが、相手はなかなか納得しない。

 何か今年ならではの新しい特徴を紹介しないと、番組づくりがしにくいからだ。

 中国だけに限らないが、物事のある現象が表面に表れてくるとき、突然、表面に出てくるわけではない。そこに至るまで、水面下でじわじわとした変化がある。しかし、それは普段からその国や物事をウォッチしている人でなければ、なかなか気がつかない。

「爆買い」に関していえば、中国人の所得の上昇やビザ発給要件の緩和、ウィーチャットの普及による情報量の拡大、為替レートの変動、日中関係の改善など、さまざま条件が重なり、その結果、日本にやってくる観光客がここまで急激に増加した。

 何も知らない人は「ある日突然、彼らがやってきた」と感じるかもしれないが、そうではないのだ。

 物事の背景を調べ、分析し、それをわかりやすく、一般の日本人に紹介していくのが私の仕事。春節がやってくるたびに、物事を専門外の人に伝える難しさを痛感している。