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【22-07】計算力ネットワーク建設を推進 データの激増に対応

李 禾(科技日報記者) 2022年05月23日

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 計算力ネットワークとは、中国が率先して提起したオリジルの技術理念で、高速、モバイル、安全、ユビキタスなネットワークの連結を通して、ネットワーク、クラウド、データ、AI、エッジ、端末、チェーンといったマルチレベルの計算力資源を集積し、AI、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、エッジコンピューティングといった各種新興のデジタル技術を駆使して、データ検知、伝送、ストレージ、演算などの一体化サービスを提供する新型情報インフラを指す。

 東部地域のデジタルデータを西部地域で演算処理する「東数西算」プロジェクトが正式に始動し、計算力や計算力ネットワーク建設が社会各界で大きな話題となっている。中国国家発展改革委員会の林念修副主任は、国務院新聞弁公室が開催した記者会見で、「中国は今年、5G施設や計算力資源、再生可能エネルギーの統一展開を推進し、さらに多くのデータセンターが再生可能リソースを豊富な西部地域へと移転するようサポートし、計算力供給を強化すると同時に、二酸化炭素排出を次第に減らしていく」と説明した。

 計算力は、情報インフラにおいて非常に重要な位置を占め、デジタル経済の縦方向の発展を下支えする新しい原動力とされている。では、計算力とは一体何なのだろう?中国の計算力産業の発展はどのような現状なのだろう?「東数西算」プロジェクトはどのように計算力資源の配置の最適化をバックアップするのだろう?

デジタル経済の発展は計算力と密接な関係

 中国国家発展改革委員会ハイテク司の孫偉副司長は、「計算力とは、農業時代の利水・治水、工業時代の電力のようなもので、現在のデジタル経済発展の中心的な生産力となっている」と説明する。

 全国政治協商会議の委員を務める雲南省の聯通(チャイナ・ユニコム)の張雲勇社長は、「分かりやすく言えば、計算力を電気に、計算力ネットワークを電力網に例えることができる。AIoT時代において、計算力ネットワークは、自動運転、クラウドゲーム、顔認証システム、VR/ARといった新興応用のリアルタイムコンピューターニーズを満たすことができる」との見方を示す。

 計算力ネットワークとは、中国が率先して提起したオリジナルの技術理念で、高速、モバイル、安全、ユビキタスなネットワークの連結を通して、ネットワーク、クラウド、データ、AI、エッジ、端末、チェーンといったマルチレベルの計算力資源を集積し、AI、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、エッジコンピューティングといった各種新興のデジタル技術を駆使して、データ検知、伝送、ストレージ、演算などの一体化サービスを提供する新型情報インフラを指す。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)というニーズを前に、計算力ネットワークをはじめとする次世代ネットワークが少しずつ産業の各方面が注目する分野となっている。電気通信企業にとって、現有の通信ネットワークから、全く新しい計算力ネットワークへと移行し、計算力運営を実現し、計算力エコロジカルを構築し、計算力サービスを提供するためには、技術イノベーションのほか、体制・メカニズムの面でさらなる模索を行う必要がある。張社長は、「従来の通信ネットワークは、伝送網、基幹ネットワーク、業務管理システムで構成されている。一方、将来的には調整システムを導入する必要があるかもしれない。その主な機能はネットワーク全体で計算力のバランスの良い配置を実現することだ。計算力ネットワークは、新たなブルーオーシャンを切り開き、電気通信企業に新たなチャンスをもたらした」との見方を示す。

計算力ニーズが毎年20%以上のペースで増加へ

 近年、中国のデータの爆発的な増加により、社会全体で計算力向上のニーズがさらに高まり、今後は毎年20%以上のペースで増加すると予測されている。

 中国工程院の院士で中国科学院コンピューティング技術研究所の孫凝暉学術所長は、「デジタル経済時代の新たな生産力としての計算力は、インフラ化することで、中国のデジタル社会のモデル転換に関係する各分野に幅広くサービスを提供する必要があり、中国のデジタル経済の国民経済に占める割合を加速的に高めなければならない」と指摘する。

「世界計算力指数評価報告2020」によると、平均計算力指数が1ポイント高まるごとに、デジタル経済が3.3‰、GDPが1.8‰上昇する。

 孫所長は、「1つの国の計算力指数が40点以上に達すると、指数が1点高まるごとに、GDP成長を引き上げる力が1.5倍高まる。そして、計算力指数が60点以上に達すると、それが2.9倍高まる。計算力は現在、中国が新たな発展構造の下で、経済状況を見極めるバロメーターとなっている」との見方を示す。

 長期にわたり、中国の計算力は、データ量の激増がもたらす巨大な計算のニーズを満たすことが難しい状態だった。その主な原因の1つは、計算力を担うデータセンターに、供給とバランスが悪いという問題が存在していることだった。中国情報通信研究院が発表している「データセンター産業発展指数」によると、現時点で、中国のデータセンター産業の規模は約2000億元(1元は約19.2円)近くで、北京、上海、広州、深センといった注目エリアやその周辺のデータセンターの規模指数が高くなっている。東部地域はイノベーション能力が高く、デジタル経済が急速に発展しているため、計算力に対するニーズが高いものの、土地資源やエネルギー消費量、電力供給といった指標が不足し、カーボンニュートラルと二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトをめぐる目標達成を目指すためには、東部でデータセンターを大規模に発展させ続けることはできない情勢だ。一方、西部地域は、再生可能リソースや土地資源が豊富で、気候も良く、電力も十分あり、料金も比較的安いため、データセンター建設に非常に適している。しかし、全国的に見ると、西部地域にあるデータセンターの割合は20%にも満たない。

 孫副司長は、「『東数西算』は、データセンターやクラウドコンピューティング、ビッグデータを一体化させた新型計算力ネットワーク体制を構築し、東部の計算力のニーズを、西部の成長の力に転換し、データセンターの建設展開を最適化し、東部と西部の協同・連動を促進することで、エネルギーと計算力の全国統一化を実現することを目指す。簡単に言えば、西部の計算力資源が、東部のデータの演算をさらに良い形で下支えするようにし、デジタル化発展にさらにエンパワーメントすることを目指すということだ」と説明する。

データセンター建設で一歩先を行く

 中国国家発展改革委員会を含む4当局が共同で通達した通知によると、「東数西算」プロジェクトは、北京・天津・河北、長江デルタ、粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)、四川省成都市・重慶市、内蒙古(内モンゴル)自治区、貴州省、甘粛省、寧夏回族自治区といった8地域で、国家計算力ターミナル・ポイント建設をスタートさせているほか、国家データセンタークラスター10ヶ所の構築を計画している。

 実際には、貴州省や内モンゴル自治区といった地域は、データセンター建設という道において先頭を走っている。貴州省は近年、世界のビッグデータセンターへと成長するよう取り組んでいる。貴安華為(ファーウェイ)クラウドデータセンタープロジェクトは、貴安新区で重点的に建設されている12の大型データセンターの1つで、全て完成すると、ファーウェイ最大のクラウドデータセンターとなる。貴安ファーウェイクラウドデータセンターは現在、貴州省の企業800社以上のデジタルトランスフォーメーションにサービスを提供し、貴州クラウドビッグデータと共同で貴州省のために「1クラウド・1ネットワーク・1プラットフォーム」を構築し、貴州省の省直属の62機関の1438のデータ源がクラウドマイグレーションされ、最も一般的な政務、民生サービス546件がリリースされ、省・市・県の三級政府が担当するすべての審査業務をカバーしているほか、重慶や広西チワン族自治区、広東省、雲南省、四川省といった周辺地域にも恩恵が波及し、計算力が一歩踏み込んで発揮されて、さらに多くの企業がデジタル化へのモデル転換を実現できるようサポートしている。

 内モンゴル自治区烏蘭察布(ウランチャブ)市の年間平均気温は4.3度、北京からの直線距離は300キロメートル強で、「首都から1時間」経済圈内にあり、阿里巴巴(アリババ)やファーウェイなどがデータセンターを建設している。そして、屋外の自然空冷や風力発電、太陽光発電といったクリーンエネルギーを活用して、華北地域の計算力、ストレージといった業務にサービスを提供している。

 中国政府が「カーボンニュートラル」と「CO2排出量ピークアウト」をめぐる戦略を実施している中、さらに、他にどんな角度から計算力向上を促進することができるのだろう?全国政治協商会議の委員を務める「百度」の李彦宏会長兼最高経営責任者(CEO)は、今年の全国両会(全国人民代表大会・中国人民政治協商会議)で、計算力・アルゴリズムの低炭素な発展を導くように、「グリーンAI」を初めて提案した。

 李氏は、「環境にさらにやさしい発展につながる『グリーンAI』には2つのカギとなる要素がある。1つは、グリーン計算力を発展させ、グリーン電力を使用し、技術最適化のプロセスを活用して、データセンターのエネルギー消費量を削減することだ。例えば、百度の陽泉センターは初めて、人工知能技術をデータセンターに導入して、データセンターのディープラーニングモデルを構築し、システムの冷却部分のAIチューニングを実現、エネルギー効率が最高のデータセンターの年間平均エネルギー効率(PUE)を1.08まで低減させ、国が設定した2023年末までに、新規大型データセンターのPUEを1.3以下にするという目標を前倒しで達成した。2つ目は、さらにグリーンなアルゴリズムを発展させ、計画制定やパラメーター設置を最適化し、超大規模のプレトレーニングモデルのエネルギー消費量を削減することで、グリーンが集積したビッグモデルを構築し、インフラのエネルギー消費効率を向上させることだ」と説明する。

 中訊郵電咨詢設計院有限公司の張涌社長は、「計算力の調整はネットワークスマート化能力に依存しており、基礎となる電気通信事業者は、超低遅延、高度自立の基幹ネットワーク構築を加速して、『東数西算』の後ろ盾とならなければならない。計算力の供給、伝送、管理は、ネットワークのスマート検知能力、クラウドネットワークの一体化引き渡し能力、コンピューターネットワークのスマート管理といったコアテクノロジーのブレイクスルーに依存している」との見方を示す。

 そして、「『東数西算』プロジェクトが実施され、キーテクノロジーのブレイクスルーが実現するようになるにつれて、中国は、計算力建設や応用の分野で新たな成果を上げると確信している」と語った。


※本稿は、科技日報「推進算力網絡建設 譲我国面対数据増量暴漲行有余力」(2022年3月21日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。