【22-37】北京は都市発展の最前線―中国都市計画設計研究院・王凱院長に聞く
苑蘇文/『中国新聞週刊』記者 舩山明音/翻訳 2022年12月02日
北京市はこれまでの5年間に、「首都と都市」「保護と利用」「スリム化と質的向上」の関係を結びつけることを繰り返し強調してきた。
北京の住環境は、向上しつつある。青い空、澄んだ雨水、清潔な街路、美しい河水。およそ500カ所のポケットパーク〔小規模な公園〕や森林公園が市街地のあちこちに見られ、かつて胡同(フートン)〔北京の伝統的な町並みの残る路地〕が連なっていた地域には、モダンで芸術的な古都の姿が混在するようになった。
2014年、習近平(シー・ジンピン)総書記は北京視察をおこなった際に、「四つの中心」(全国の政治的中心・文化的中心・国際交流の中心・科学技術イノベーションの中心)というビジョンを打ち出し、北京を国際的にトップレベルの調和の取れた住みよい都市にしようと呼びかけた。さらに、首都中核機能を除く機能の整理・分散化、第三次産業構造の合理化、産業とりわけ工業プロジェクトの選択の最適化、ハイエンド化・サービス化・集積化・融合化・低炭素化の徹底、人口規模の効果的コントロール、人口の区域格差の解消強化、全区域の足並みをそろえた発展を提起した。
その後、北京の整理・分散化は急速に進み、特にこの5年の間に、分散化による質の高い発展が顕著な成果をみせている。
この点をめぐって、中国都市計画設計研究院の王凱(ワン・カイ)院長にインタビューをおこなった。王凱氏は北京市のスリム化と質的向上をともなう発展の成果について振り返るとともに、質の高い発展をいかに持続するかについて提言した。
王凱氏 写真/取材先提供
記者:北京市の「ダイエット」には、どのようなトップダウン設計がおこなわれているのですか?
王凱:質的向上とスリム化をともなう発展について、北京市は政策的な計画体系を拠りどころとしています。我々がよく言う首都の計画体系の「骨組み」となるもので、以下の5つの計画文書からなっています。
2015年4月、中央政治局会議が審議・可決した「京津冀〔北京市・天津市・河北省〕協同発展計画綱要」は、区域レベルの計画です。さらに国務院が2017年9月に批復〔下級機関からの指示伺いに対して上級機関がおこなう回答〕した「北京都市総体計画(2016年-2035年)」、同じく2018年4月に批復した「河北雄安新区計画綱要」、2019年1月に批復した「北京都市副中心控制性詳細計画(2016年-2035年)」、そして2020年8月に批復した最新の「首都機能核心区控制性詳細計画(街区レベル)(2018年-2035年)」があります。
記者:近年、北京のスリム化・質的向上の面ではどのような成果がありますか?
王凱:これまでの5年に、北京市は「北京都市副中心控制性詳細計画(2016年-2035年)」の実施において、全面的・系統的・確実な取り組みをおこない、政治的中心としての機能構築を中核に位置付ける一方で、「首都と都市〔首都としての北京と一都市としての北京を指す〕」「保護と利用」「スリム化と質的向上」の関係を結び付けることを繰り返し強調してきました。
具体的には、以下のような分野にわたります。
第1に、北京の「四つの中心」としての機能がさらに強化されました。北京はこの分野にかなり努力しており、最も典型的な例が政治的中心としての機能構築です。重要な国家行事や中央政務機能の拡充に力を注いできました。例えば2019年の新中国成立70周年や、昨年の中国共産党創立100周年の記念行事です。北京市はこういった重要な国家行事を成功のうちに成し遂げました。
このほか、「整理・分散化による質的向上促進」の具体的行動としては、北京市の「四つの中心」の戦略的位置付けをさらに強固なものとしました。「分散化」面の最もよい例として、通州区の副都心建設が挙げられます。
北京市の「四套班子〔党委員会・人民代表大会・政府・政治協商会議〕」はすでに通州区で業務をおこなっています。文化施設、都市「緑化中心」、居住区、交通中枢を含む通州区の一連の建設事業も全面的に展開されています。最近では東六環路の「地中化」も進行中で、今後はその地上部分と、いま高架になっている部分〔高架下〕が都市の公共空間になる予定です。
第2に、北京の人口規模は比較的よくコントロールされるようになりました。最新の「北京都市総体計画」では、北京市の常住人口規模を2020年までに2300万人以内に収めるとしていましたが、2020年以降も長期にわたってこの水準に落ち着いています。
統計数字からみると、2021年の北京市全体の常住人口は2188.6万人で、前年より0.4万人少なく、2016年から6.8万人減少し、連続5年のマイナス成長となっています。これは全国でも非常に珍しく、特に中心市街区の常住人口は2014年から15%減となり、相当な成果だといえます。
第3に、北京市の建設用地規模の縮小が挙げられます。北京は「ダイエット発展」をした初の都市であり、建設用地規模は次第に小さくなり、建設規模の全体値も割合によくコントロールされています。2017年から2020年までに、北京の都市部・郊外部の建設用地は実質的に110km²減少しました。一方、国内の大部分の都市はいまだ「むやみに拡大中」です。
実はここ数年、それほど大規模な新区・新都市建設を求める動きはなくなっています。党の第19期五中全会〔2021年10月26〜29日〕では、「都市更新行動の実施」という重要な政策的決定が指示されました。つまり、都市発展においては用地の効率向上、発展の品質向上を求めよということで、北京はこの面で最前線にあります。
第4に、北京市は生態環境のボトムラインを厳しく守り、今期の100万ムー造林・緑化義務をすでに達成しています。現在、北京市全域の森林カバー率は44.6%に達しており、低山地区の生態ガバナンス・修復面も含め、山林地区での環境保護と平原地区での造林において大きな成果を収めています。
記者:分散化を引き受けた北京副都心と雄安新区の建設状況はどうでしょうか。
王凱:分散化するからには、その行き先が必要です。最新の「北京都市総体計画」では「一体両翼」という言葉があり、「一体」は北京の中心市街地を、「両翼」は北京副都心と雄安新区を指しています。
北京副都心の目標は「国際的にトップレベルで調和の取れた住みよい都市」の建設であり、副都心は京津冀区域協同発展のモデル地区でもあります。現在、副都心建設の第1期の事業は基本的に完了しており、第2期の建設を推進しているところで、北京市に属する部局や行政機関は通州区に移転を続けています。2016年から2020年の4年間で通州区の人口は38万人増加しており、同時に北京の中心市街区の人口は減少し、落ち着きをみせています。
河北省の雄安新区では、以前は主として計画をおこなっていましたが、最近の何年かで具体的な建設に入りました。起動区の道路網は基本的に完成しており、配管やケーブルも地下に入っています。首都中核機能以外の雄安新区への分散化も、実質的な取り組みが推進されています。分散化リストに挙げられた一部の重大プロジェクトの初歩的な建設、中央直属の高等教育機関や重要な国有企業本部の移転などです。北京市史家胡同小学、北京四中、宣武医院はすでに雄安新区で工事を完了しています。これらは、次の段階の重大プロジェクトの分散化のために好条件を提供するでしょう。
記者:持続的な質の高い発展のために、将来的に北京で他に何ができるのでしょうか?
王凱:このほど閉幕した中国共産党北京市第13回代表大会〔2022年6月27〜30日〕では、以下の点が提起されました。新時代の首都発展とは、本質的に首都機能の発展であること。そして「四つの中心」という機能構築の強化、「四つの奉仕」〔政府の事業・国家の国際交流・科学技術と教育の発展・人民大衆の生活改善への奉仕〕レベルの向上、党と国家の取り組み全体への更なる奉仕、人民大衆の美しい生活に対する需要の更なる充足こそが要諦だということです。
将来的に、北京はさらに多くの新たな発展への課題に直面するかもしれません。例えば低炭素化・エコ・持続的発展や、一般市民の生活改善、歴史文化の保護、都市ガバナンスの面で、首都としての特色ある新たな成果を挙げる必要があります。我々の研究の立場からいえば、新時代の首都発展については、この他にいくつかの面で提言できます。
第1に、習近平生態文明思想を実践することです。北京の経済・産業構造はここ数年様変わりし、鋼鉄のような高汚染産業はもう完全に姿を消しています。今では北京の産業構造は、次第にサービス業・金融貿易・科学技術イノベーションの分野を重視するようになってきています。
北京市は、CO2排出ピークアウトの面で最前線にあります。ただし長期的な発展からみれば、エコ都市建設においてはまだ自己変革が必要です。現在のCO2削減技術を利用しつつインフラの水準を引き上げ、無秩序な都市化を更にコントロールし、生態空間を更に修復し、エコで有機的な都市への転換を更に推進することが挙げられます。
第2に、未来に向けて国際交流都市を作ることです。習近平総書記の言葉によれば、「中国は世界の舞台の中央にますます近づいて」います。昨年、中国のGDPはすでに世界の18%を占めており、2035年まで、世界における中国経済のシェアは拡大し続け、世界の政治・経済・文化・科学技術における中国の影響はさらに際立っていくでしょう。
このような背景のもと、北京は国際交流都市になろうとしているのです。将来的に、国際会議、国際交流、国際組織や国際シンクタンク、教育、医療、行政コンサルティングなどの分野で、さらに多くの発言を行い、国際政治における我が国のはたらきを明らかに示していくこともできるでしょう。
第3に、北京城〔かつて城壁で囲まれていた当時の北京市街を指す〕の古い歴史文化を更に掘り起こすことです。昨年、清華大学では梁思成(リアン・スーチョン)誕生120周年記念展が開催され、1949年の北京解放の年、この著名な建築学者が北京城保全を提起した手稿が展示されました。そこに記されていたのはまず北京城全体の保護であり、紫禁城はその次のことです。梁思成の中で、昔ながらの北京城の姿がどれほど重要であったかが分かります。
近年、北京市の党委員会・政府は古い街並みの保全にかなりの力を注いでいます。四合院の買い取りと居住者への移転先補償、インフラの地中化、さらに雨児胡同や崇雍大街といったシンボリックな改造プロジェクトなどです。市民の生活は確実に大きく改善されていますが、この事業はまだ完了していません。将来的に、古い街並みの姿を完全に再現できれば、歴史文化をよりよく受け継ぐことができるでしょう。
このほか、北京の中軸線〔左右対照な構造をもつ都市の中央を貫く街路〕の世界遺産申請にも期待がかかっています。今年10月1日に施行される「北京中軸線文化遺産保護条例」では、北京の文化遺産の保護がさらに強化されます。歴史的な北京の中軸線は鐘鼓楼から永定門までの7.8kmに及び、元代の大都時代から存在しています。
北京の中軸線は、世界的な範囲でも影響力をもっています。現在、北京では中軸線の南北への延長をおこなっており、北はオリンピック森林公園、南は北京大興国際空港までの全長88.8kmとなり、これは世界的にも稀なものです。
第4に、科学技術イノベーションの成果の実用化を強力に進めることです。北京は北京大学・清華大学・中国科学院といった最先端の科学研究機関を擁し、基礎研究能力は非常に高いものがあります。現在さらに懐柔科学城などのプロジェクトを展開中ですが、「死活にかかわる」技術の追求・革新のみならず、科学技術研究成果の京津冀地方レベルでの実用化にも、引き続き注力が必要です。
北京の夜景を望む。 写真/視覚中国
※本稿は『月刊中国ニュース』2022年12月号(Vol.128)より転載したものである。