【19-18】留学生に対する積極的な就職支援を 高度外国人材受け入れで総務省が政策評価書
2019年7月1日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
高度な研究能力や専門・技術能力、経営・管理能力を持つ外国人を受け入れるための政府の取り組みを評価し、担当省に対する意見を付記した政策評価書を総務省がまとめ、6月25日閣議に報告するとともに法務省、総務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省に通知した。国・地域別で見るとこれまでに高度外国人と認定されたのは中国が飛び抜けて多く、66.1%を占めている。政策評価書は、取り組みをさらに強化するため2012年に導入された高度人材ポイント制の周知徹底を図るほか、大学・大学院の留学生に対する積極的な就職支援や、企業が外国人材を受け入れやすくする就労環境の整備などを各省に求めている。
外国人材の受け入れは、少子高齢化が進む日本の大きな課題となっている。昨年12月25日には「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」が、受け入れ・共生のための総合的対応策をまとめた。この総合的対応策は、総額224億円の予算を組み、全国100カ所に一元的相談窓口を設置・運営するなどの受け入れ促進策を策定している。同じ日の閣議では、改正入管法に基づく新たな制度に関する基本方針と分野別運用方針を決定している。これは、外国人材を受け入れる業種を指定し、各業種別の受け入れ人数の上限、技能試験の内容、外国人材が従事する業務などを定めたものだ。
総合的対応策まとめた「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」
(2018年12月25日、首相官邸ホームページから)
高度専門職2022年までに2万人目標
外国人材の中でも高度な学術研究、専門・技術、経営・管理に関わる「高度外国人材」の受け入れは最も早くから政府の取り組みが始まっている。2009年には官房長官、経済税制政策担当大臣のほか経済団体、労働団体の代表、有識者からなる「高度人材受入推進会議」が、「外国高度人材受入政策の本格的展開を」と題する報告書をまとめている。「優秀な人材をできる限り多く、できる限り長く受け入れる」という目標が掲げられている。
この報告書に盛り込まれた基本戦略の一つが、ポイント制導入による高度人材優遇制度の創設。「高度専門職」という認定制度が2012年5月から始まり、認定作業に高度人材ポイント制が用いられている。学歴、職歴、年収、年齢、ボーナス加算という項目ごとに細かく点数が設定されており(学歴は最大30点など)、合計70点に達すると高度専門職の申請資格が与えられる制度だ。学歴が高く、職歴が長く、年収が高く、年齢が若いほどポイントは高くなり、加えて研究実績や日本語能力の高さなどによって特別にポイントが加算される仕組みとなっている。2022年までに2万人を認定するという目標が設定され、2018 年 12 月末時点で 既に1 万 5,386 人が高度専門職として認定されている。
最も多い認定者は中国人
今回総務省がまとめた「高度外国人材受入れに関する政策評価書」は、2017年12月末時点で高度専門職として認定されている 1 万 572 人について詳しく調べている。出身国・地域は99に及んでいるが、中国が飛び抜けて多く、66.1%を占めていた。ほかは全て5%に満たず、2位の米国が4.6%で、以下、インド4.3%、韓国3.9%、台湾3.5%、フランス1.9%、ベトナム1.9%、英国1.6%、オーストラリア0.9%、カナダ0.7%、その他10.6%となっている。性別では男性が多かったが、女性も30.3%いる。女性の割合は、中国を除く国・地域の平均値は18.3%。中国出身者の女性割合が 36.5%と高かったため、全体としては3割を超す比率となった。
年齢で比較した場合も、中国出身者が他の国・地域に比べ若い層が多いという違いが見られた。中国出身者では、34歳以下の割合が 85.7%で平均年齢は 31.2 歳と、中国以外の国・地域の出身者(34歳以下 54.6%、平均年齢 35.8 歳)と比べて若い年齢層の割合が高い(全体では34 歳以下が 75.1%で、平均年齢は 32.7 歳)。
分野別では、高度専門・技術を身に着けていると認められた人が最も多く 79.1%。高度学術研究は 17.6%、高度経営・管理は 3.3%となっている。中国出身者では、高度専門・技術の割合は 84.5%となっており、その他の国・地域の 出身者(68.5%)と比べ高い一方、高度学術研究や高度経営・管理の割合は、中国以外の国・地域の出身者の方が高くなっている。
1 万 572 人のうち500人を無作為抽出してさらに詳しく調べた結果も明らかにされている。就労先の業種で最も多かったのは、コンピューター関連サービスで27.4%。続いて製造業23.4%、調査研究8.8%、教育7.6%、金融・保険7.0%、商業5.6%、不動産1.2%、人材派遣1.2%、広告1.0%、運輸1.0%、その他21.0%だった。中国出身者は、コンピューター関連サービスが30.7%、製造業27.0%と中国以外の国、全体平均のいずれも上回る半面、調査研究6.6%、教育5.7%、金融保険4.9%と逆に少ないという結果になっている。
高度外国人材の就労先業種
(無作為抽出した高度外国人材 500人を対象に分析:総務省「高度外国人材受入れに関する政策評価書」から)
平均年収は 757.7 万円で、500 万円台の人が 19.8%と最も多い。1,000万円以上が14.0%いる一方、400万円未満が9.2%、400万円台が17.0%いる。中国出身者は全体と同様に 500 万円台の割合が 25.3%と最も高かったが、1,000 万円以上は6.0%にとどまり、平均年収は 633.9 万円と全体平均、中国以外の国・地域の平均(1,041万円)のいずれよりも下回った。
最終学歴では大学院(博士)24.6%、大学院〈修士)52.8%、大学(学士)21.6%、その他1.0%で、大学院が約8割を占めた。最終学歴の専攻分野は自然科学分野が 64.0%と最も多く、社会科学26.6%、人文科学5.2%、その他5.0%だった。中国出身者は修士の割合は56.6%と大きいものの、博士の割合は20.1%と全体の割合、中国以外の国・地域の割合(34.9%)のいずれよりも小さいという結果だった。最終学歴を得た国・地域は日本、つまり日本で最終学歴を終えた元留学生が全体で54.4%と半数以上を占めているが、中国出身者を見るとこの割合はさらに高く、62.9%が日本で最終学歴を終えた元留学生となっている。
この他、高度外国人材の認定、留学生の就職支援、就労関係の改善、生活環境の改善に関わる政策の取り組み状況を調査した結果に基づき、政策評価書はそれぞれ担当する省に対し、次のような意見を記している。
キャリアパスの明確化や生活環境改善も
法務省:高度外国人材となり得る専門性の高い外国人材の中でも高度人材ポイント制が十分知られていない状況がある。関係業界・大学の所管省庁の協力を得ながら、高度人材ポイント制の一層の周知を図る必要がある。
文部科学省:大学・大学院の留学生の日本語能力をはじめとする就職活動上の課題を踏まえた積極的な就職支援の取り組みをより多くの大学に展開するなど、大学における効果的な就職支援を推進していく必要がある。その際、高度外国人材と認定された多くが日本の大学院を修了していることから、大学院の留学生の就職活動上の課題を踏まえた支援が行われるよう留意する必要がある。
厚生労働省、経済産業省:外国人材や企業は、キャリアパスの明確化などさまざまな就労環境上の課題を認識している。外国人材の就労環境の改善に取り組む企業事例の一層の周知を図るなど、引き続き企業が外国人材を受け入れるための就労環境の整備を促していく必要がある
総務省、法務省:必要に応じて関係省庁の協力を得るなどし、外国人の生活環境の改善のための効果的な取り組みを収集・整理して地方公共団体に提供するなど、地方公共団体の取り組みを支援していく必要がある。
関連サイト
首相官邸ホームページ 「閣議の概要について」〈2019年6月25日)
総務省 「高度外国人材の受入れに関する政策評価<評価結果に基づく意見の通知>」
総務省 「高度外国人材受け入れに関する政策評価書」
首相官邸ホームページ 「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」〈2018年12月25日)
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