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【23-08】超撥水「乳液」で、未舗装道路のぬかるみを防ぐ

洪恒飛 江 耘(科技日報記者) 2023年02月13日

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超撥水性土の表面にできた水滴のイメージ図 画像提供:取材先

 この成果を活用すると、工事業者は現場の土をならし、「乳液」を吹き付け、固めて平に整地し、自然に乾かすなどするだけで、エコ超撥水道路を建設することができる。実測によると、現段階でこの方法を使うと、コンクリート道路と比べてコストが約30%削減できることが分かっている。同成果は現在、中国の複数の地域の複数のテストプロジェクトと商業プロジェクトに採用されてきた。

 お馴染みのハスの葉が「泥より出でて泥に染まらない」のは、葉の表面に超撥水性があるからだ。疏科納米撥水性科技(嘉興)有限公司の宋永生会長は「ハスの葉の原理を応用して、当社は環境保護型ナノ超撥水『乳液』を研究開発した。この『乳液』を活用すると、ハスの葉の特性である撥水性を土壌に『移植』でき、雨が降ると未舗装路がぬかるんでしまう問題を解決することができるだけでなく、道路を再整備して、農地に戻すこともできる」と説明する。

 この成果は浙江省嘉興市の「平湖人材の家」でこのほど、浙江大学の童菊児研究員が専門家委員会の会長を担当し、中国交通運輸部(省)公路科学研究院、浙江省生態・環境修復技術協会、北京林業大学といった機関の専門家で構成される鑑定委員会の鑑定をクリアした。

 参加した専門家一同は、同成果は中国の国土空間総合整備や生態修復、現代農業開発、土壌改良、表土保持といった幅広い分野に応用する価値があるとの見方を示した。

土壌に「ロータス効果」を生む「乳液」

 化学系薬学が専門の宋会長は早くも1990年代に、東南アジア諸国へ度々足を運び、パーム油の派生物の精錬に関する課題研究に参加していた。そして、その時に、ヤシの木栽培園の未舗装路に興味を持つようになった。栽培園のオーナーを通して、アスファルトやコンクリートで道路を舗装すると、コストが高いだけでなく、耕地の構造を破壊してしまう可能性があることを知った。しかし、未舗装路にも弊害があり、雨季ではない時期に、車が通ると、土ぼこりが問題となる一方で、雨季になると、雨が降って未舗装路がぬかるんでしまうのだ。それを見て、中国の道路施工及び生態環境保護などのニーズとも結びつけ、宋会長は、道路舗装の新しい方法を考えることにしたという。

 ここ20年近く、世界では土壌結合剤や有機シリコン殺菌剤、土壌硬化剤といった製品が道路の舗装に応用され、路面の防塵、硬化という面である程度役立ってきた。しかし、宋会長は、「一部の材料は工事に採用しても、アスファルトで覆ったり、コンクリートを使ったりしなければならない。それ以外にも、耐水性が低く、効果があまり長続きせず、土壌汚染につながり、農地に戻すのが難しいといった問題も存在している」と指摘した。そこで、そうした弊害が存在せず、道路の建設に使うことのできる新材料を研究開発することを決意したという。

 公開されている研究結果によると、ハスの葉の表面には、ワックスの結晶に覆われたマイクロメートル級の乳頭状突起が大量に分布している。また、各乳頭状突起上は、大量のナノ級の細枝状構造からなっているほか、ハスの葉の表皮には、ワックスの結晶に覆われた細い管がたくさん存在しているため、ハスの葉には独特の高い撥水性があるのに加え、粘着性が低い。

 宋会長は、「ハスの葉からインスピレーションを得て、チームと共に、原料としてマルチシリコンポリマー、植物油分解物、植物繊維 植物セルロースなどを採用し、純水を溶剤とし、マイクロエマルション法を使い、幾つかの工程を経て、有害物質を含まない超撥水『乳液』を開発した。この『乳液』を土壌の表面に使うと、土壌がハスの葉の表面のような微細構造を取得するようになる」と説明する。

 いわゆるマイクロエマルション法とは、撥水性材料をいかなる有機溶剤も含んでいない純水溶液に溶かし作成する方法の一つだ。この方法を使って作成したナノ粒子は単分散、界面性が相対的に良好で、サイズが均等で、ナノ撥水性材料の安定した性能、均等な分散性を保証することができる。

 吉林大学などの院・所の実験では、この「乳液」を土に吹きかけて作ったエコ超撥水土の強度は普通の土の約2倍で、超撥水土の表面と内部に「ロータス効果」が生まれていることが証明された。肉眼でも水滴が土の上で転がるのをはっきりと見ることができる。

複数の超撥水道路の建設に採用済み

 浙江省嘉興市平湖ファッションセンターのすぐ横では、エコ駐車場が泥層の上に建設されている。

 その駐車場の施工を担当した杭州啓晟建築工程有限公司の趙昌華社長は、「そのエリアでは施工の指示に基づいて、硬化処理をするのは非常に難しかった。掘削した時に、底に深い泥層があるのを発見したので、工事は続けられないのではないかと思った」と振り返る。

 その後、宋会長率いるチームが研究開発した環境保護型ナノ超撥水「乳液」を知った同社は、それを駐車場の施工に利用し、プロジェクトの引き渡しが保証された。検査が行われた時はちょうど雨季で、周辺の川の水位が上昇し、駐車場にまであふれていたという。趙社長は、「川の水がひいてから、13トンの建設機械を走らせて検査を行ったところ、全ての土の層にほぼ問題がないことが分かった」と述べた。

 宋会長は、「工事業者は、現場の土をならし、『乳液』を吹き付け、固めて平に整地し、自然に乾かすなどするだけで、エコ超撥水道路を建設することができる‌。実測によると、現段階でこの方法を使うと、コンクリート道路と比べてコストが約30%削減できることが分かっている」と説明する。

 同成果は既に、中国の複数の地域のさまざまなテストプロジェクトや商業プロジェクトに採用されてきた。例えば、浙江省金東区塘雅鎮の667ヘクタール以上の土地の整備プロジェクトのエコ超撥水農機用道路、上海のG15高速道路・嘉瀏区間のエコ超撥水土工事用仮設道路の延長、山西省大同市得勝堡村の超撥水土エコ文化広場などだ。

 上記のプロジェクトのほか、北京や上海などでもこの成果の応用が推進されている。例えば、北京と上海では、建築現場で一時的に使用された工事用仮設道路は、既に作物を栽培できる農地に戻された。

 交通運輸部・公路科学研究院の研究員・呉立堅氏は、「環境保護型ナノ超撥水『乳液』を使って道路を建設する目標は明確で、テクノロジー・ロードマップもはっきりしており、明るい応用の見通しがある。企業は、凍結融解や激しい雨といった環境下での強度に関する研究をさらに進めることができる」との見方を示す。

 宋会長は、「さまざまな土の質や道路に使われる土を対象にして、当チームは方向性ある試験と研究開発を行っている。そして、超撥水道路の施工方法を改善するほか、環境保護型ナノ超撥水『乳液』を道路に応用した場合の分解状況と道路の耐候性を継続的に追跡している。追跡に基づいて、エコ超撥水道路の寿命は10年以上と推算されている」と説明する。

期待が高まる生態修復への応用

 環境保護型ナノ超撥水「乳液」の研究開発をベースに、同チームはエコ超撥水土技術も研究開発し、その技術をさまざまな分野に応用している。

 浙江省生態・環境修復技術協会の副会長を務める浙江大学農業技術推進拡大センターの研究員・徐礼根氏は取材に対して、「土壌の構造と機能、土壌体の安全と安定は、親水性、撥水性の影響を大きく受ける。エコ道路の建設以外にも、エコ超撥水土技術及びその製品は、生態修復の分野でも大きな活躍の場になりうるだろう」との見方を示した。

 建築現場では、基礎工事のために穴を深く掘り、その穴の斜面に対して防水処理を行なわなければならない。一般的な方法は、鉄筋を網目のように設置して補強する方法で、鉄筋の組み立て、コンクリートの吹付といった工事が必要となる。また、工事が終わると、それを解体しなければならず、それには時間も手間もかかってしまう。

 宋会長によると、同チームは中交建雄安集団公司と提携して、エコ超撥水土技術を工事現場の穴の斜面の補強に応用し、施工期間中、土に水が染み込んだり、崩れたりすることがないようにした。工事終了後は、そのまま元に戻すことができるという。

 宋会長によると、工事現場の穴の斜面の補強に基づいて、同社は今後、徐教授率いるチームと共同で、土の固定と斜面の補強、緑化の機能強化に焦点を当て、超撥水土技術・製品を、道路・鉱山の斜面修復に応用する研究を行う計画だ。

 宋会長が率いるチームのエコ超撥水土技術は、道路工事に応用できるほか、土壌の親水性、撥水性を調整することで、生態修復にも活用することができる。

 中国の砂漠化対策は、「砂漠が前進して、人間が後退する」という状態から、「緑が前進して、砂漠が後退する」という状況への変化を実現するなど、顕著な成果を収めている。砂漠化対策・流動砂丘の固定と緑被率の引き上げは、砂漠の生態系の修復・保全のカギとなる。

 超撥水土技術に基づいて、宋会長率いるチームが研究開発した超撥水砂を使った層と層の間に栽培砂層を挟むと、地表の水分の蒸発と地下層の水分の浸透を防ぐ作用がある。

 これより先に実験室において、同チームは既に、超撥水砂の蒸発・浸透を防止する対照試験を行い、期待通りの効果を確認したという。同チームは今後、交通運輸部公路研究院や中国地質大学などと共同で、新疆ウイグル自治区塔中砂漠において、超撥水砂の応用を進める計画だ。

 宋会長は、「エコ超撥水土技術を発明したのは、私たちが生きていくために不可欠な土地を守るのが最初の願いだ。当チームは今後も、エコ超撥水土技術の応用・推進を改善し、その応用を生態系の分野へ拡大し、中国の農村振興とグリーンで持続可能な発展をサポートしていきたい」と語る。


※本稿は、科技日報「抹上這種神奇"乳液",土路下雨不和泥」(2022年12月12日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。