【07-01】中国独自の携帯電話規格が実用化へ、知財権を確立した政府主導の標準化で市場に参入
2007年 1月19日
執筆:馮 惟嵩(フリーライター、在上海)、編集:内野 秀雄(中国総合研究センター フェロー)
中国は独自の3G規格を開発する
中国が独自の知的財産権を持つ第三世代(3G)携帯電話規格TD-SCDMAの商用サービスに向けた最終テストが2006年11月、北京、青島、アモイ、保定の4ヶ所と上海の一部の地域で実施された。TD-SCDMAとは、Time Division Synchronous Code Division Multiple Accessの略で、従来のCDMA方式に時分割複信(TDD)技術を加え、上りと下りを時分割で細かく切り替えて通信する技術のことである。5つの都市で企業関係者とフレンドリーユーザーと称されるテスト用ユーザー約千人にTD-SCDMA規格の携帯番号が付与された。テスト参加者の数は少ないものの、中国で5、6年も前から騒がれてきた中国標準の3G携帯電話がついに世間に現れた。高速データ通信、会議電話、ウェブサーフィン・・・・・・といった中国産の3Gの「美味」を味わえる国民も出てきた。
中国では、1998年中国電信科学院を母体に発足した通信インフラ設備の大手企業集団である大唐電信(ダタン・テレコム)を中心に、中国が独自の知的財産権を有するTD-SCDMAの開発が進められ、2001年4月に最初の通話実験に成功した。しかしその後の開発が思うように進まず、2003年ごろから毎年のように「今年3Gサービスを開始する」と予告するが、掛け声ばかりで商用化の目途が立たないため、国外の利益集団からいやというほどの非難を受けてきたという。それでも、中国政府は、国にとっての重要性を考慮した上で、「中国が独自の3G規格を開発する」との姿勢を貫き、ついに実現にこぎつけた。
3Gとは……
3Gとは3rd Generationの略で、無線通信とインタネットなどマルチメディア通信が一体化した第3世代の携帯電話方式の総称である。国際電気通信連合(ITU)によって定められた「IMT-2000」標準に準拠したデジタル携帯電話のことである。1980年代のアナログ方式の携帯電話を第1世代、90年代のデジタル方式を第2世代と呼ぶのに対し、第3世代(3G)と呼ばれている。
3G携帯電話は画像、音楽、ビデオストリーミングなどのマルチメディア信号を処理し、インタネット接続、テレビ電話、電子ショッピングなど各種情報サービスを提供する。
現在3G技術をサポートしているのは主として3つの方式である。一つはW-CDMA方式。GSMシステムを主とするヨーロッパ勢及び一部の日本企業がこの方式を支持するグループに入っている。エリクソン、アルカテル、ノキア、ルーセント及び日本のNTT、富士通、シャープなどがある。二つ目はCDMA2000方式。米クアルコム社が中心に提案した方式である。モトローラ、韓国のサムスンなどが参与しており、現在韓国が当該規格の主導国になっているが、CDMA2000の支持者の数はW-CDMAほど多くない。三つ目はTD-SCDMAである。中国が独自に制定した3G規格である。中国が巨大な市場を抱えているため、世界の機器メーカーの半分以上がTD-SCDMA規格をサポートできると表明している。
中国が独自の知的財産権を持つ意義は大きい
国外の3G技術はとっくに成熟しており、米欧中の三つの規格から生まれる技術製品と機能には大差がない。海外の規格を直接輸入すれば、時間もかからないし、労力も省けるのに、中国は何故そうしなかったのだろう。実は全て3G携帯電話機に「メイド・イン・チャイナ」を印字し、中国独自の知的財産権を持ちたかったからだ。
これまで中国が独自の知的財産権を持たずに、通信事業を発展させてきた代償として、第1世代では2500億元(約3兆7500億円)、第2世代では5000億元(約7兆5000億円)以上のロイヤリティーを外国のメーカーに支払ってきた。中国が8年以上の歳月をかけて中国標準の3G規格を開発したのは、自主的イノベーションを通じて、独自の知的財産権を獲得し、莫大な金額のロイヤリティーをセーブ(節約)するためにほかならない。世界3大標準の一つとなった中国規格のTD-SCDMAが順調に商用サービスにこぎつければ、国のために巨額のロイヤリティーをセーブするのみならず、海外のメーカーや業者が使用する場合には、逆に海外からロイヤリティーを支払われることになる。携帯電話機のちょっとしたバージョンアップが国民経済全体に大きな技術的イノベーションの「嵐」を起こし、計り知れない経済的な効果と利益をもたらすだろう。
中国政府主導による中国標準の3G開発
曹淑敏・中国情報産業部電信研究院副院長は2006年11月15日、北京友誼賓館で開催中の「中国における3G」2006世界サミットフォーラムでの講演の中で、これまでのTD-SCDMAの研究開発と産業化の過程に触れ、「2002年から2004年にかけて、中国情報産業部が最初に3Gの実験を組織し、無から有にTD-SCDMA設備の開発に成功した。後に、3部・委員会(情報産業部、科学技術部、国家発展改革委員会)によって産業化推進プロジェクトが進められ、単一の企業によるサポートから複数の企業によるサポートへと体制が変えられ、産業チェーンの枠組みが完成した」と言い、「その後の応用技術の研究を通じて、携帯端末のデバイスの強化を経て、今年の技術実験に進んだ」と述べた。TD-SCDMA実験チームのリーダーも務めている曹氏によると、2006年2月から11月中旬まで実施されたテストは、「ネットワーク建設」「測定検証」「企業関係者及びフレンドリーユーザーへの番号付与」の3段階に分かれており、現在フレンドリーユーザーに対する番号付与の検証段階に入ったという。曹氏はこの一年間の3Gの研究開発について「TD-SCDMAは一里塚的な意義を持つ重要な進展があった」と述べた。
中国の3Gは政府の全面的なバックアップの下、最終的な産業連携の枠組みを完成し、一定規模のフィールド実験の段階に入っている。中国のTD規格に適合する3Gのチップ、ベースステーション、ネットワークなどの重要な技術が次々と開発されている。これは中国が初めて歩む独自の知的財産権を持つ第三世代「携帯電話の道」である。
中国標準の3G、100年にわたる通信史上最大の自主的イノベーションの成果
TD-SCDMA―中国が提案し、その自主的知的財産権を有する3G規格は、国際電信連盟(ITU)により三大主流方式の一つに認定された。この世界から認められた初めての中国標準は100年にわたる通信技術史上最大のイノベーションの成果と言ってもよい。中国に巨額の人民元の利益をもたらすものと期待されている。
2008年の北京五輪前に中国規格の3Gサービスが開始する
中国情報局が2006年12月6日付で伝えたところによると、王旭東・中国情報産業部長(大臣)は12月4日、香港で開催された「ITU TELECOM WORLD 2006」の席上で「2008年の北京五輪前に第3世代携帯電話規格のサービスを開始できる」と述べ、2年を切った北京五輪前の3Gの商用化開始に自信を示した。
また2006年11月16日付の「毎日経済新聞」によると、大唐電信(ダタン・テレコム)の唐如安総裁は、中国政府の3G支援について「国家発展改革委員会、科学技術部と情報産業部は総額約2億元(約30億円)の資金援助を提供し、設備の購入とネットワークの最適化に充てることを承諾した」と述べた。さらに唐氏は、3Gサービスの開始時期について次のように分析する。「オリンピックの開催スケジュールから推測すると、3Gのサービス開始時期が明らかだ。TD-SCDMAを採用して貰うには、オリンピック委員会の新技術、新システム採用の締切りが18ヶ月前なので、2008年8月から逆算すれば、2007年2月までに決まらなければならない」と語っている。
TD-SCDMAの研究開発に最初からもっとも深く関わってきた大唐電信(ダタン・テレコム)・唐総裁の言葉に狂いはないだろう。