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【19-12】中央経済工作会議とマクロ経済政策

2019年12月27日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 2019年12月10日~12日の日程で中央経済工作会議が開催された。今回は同会議で取り上げられた2020年のマクロ経済政策運営方針について検討したい。

中央経済工作会議で示された現状認識と方針

 新華社が同会議の終了後に会議の内容を配信した。2020年の中国のマクロ経済政策運営方針については、成長目標を今年の6~6.5%から6%程度に引き下げるかどうかが注目されているが、この点は来年3月に開催される全国人民代表大会で明らかにされるので、今回の報道ではまだ公表されていない。現在の経済状況については、構造的、体制的、周期的問題が相互に交錯し、三つの問題が重なることによって経済成長を下押しする圧力が増大している、との認識を示している。一方で長期的にみると、中国経済は、改革開放政策開始以来蓄積した分厚い技術があり、巨大な規模の市場と内需の潜在力を有し、膨大な人材資源を擁するという有利性を持つとも指摘している。

 このような認識の下、2020年の重点政策として以下の6点を挙げている(以下はそれぞれの概要)。

①新発展理念の貫徹。イノベーション、グリーン経済、対外開放などの新発展理念を実行する。

②三大堅塁戦に打ち勝つ。貧困の撲滅、環境汚染の防止、金融リスクの抑制の3つの大きな課題に打ち勝つ。

③民生の保障と改善。生活困難な人々の基本的生活の保障、就業の増加など。

④積極的財政政策と穏健な金融政策を継続する。

⑤質の高い発展を推し進める。イノベーション駆動、農業改革、科学技術体制改革など。

⑥経済体制改革を深化させる。国有企業改革、財税体制、金融体制改革など。

 積極的財政政策については、財政支出の効率を高めることと、減税や政府の手数料の引下げをさらに進めることが挙げられている。

 また、中国人民銀行は12月13日に党委員会の会議を開催し、中央経済工作会議を受けて以下の4点の方針を掲げた(以下はそれぞれの概要)。

①金融政策については穏健な金融政策を適度に弾力的に運営し、カウンターシクリカルな調節を強化、合理的に充足した流動性を保持する。

②重大な金融リスクを抑制する。マクロレバレッジ比率を安定させ、重大金融リスクを発生させないという最低ラインを堅持する。

③金融の実体経済のサポート機能を発揮させる。製造業や民営企業、零細企業をサポートする能力を改善する。住居は住むためのものであり、投機のためのものではないという原則を堅持する。

④金融の供給サイドの構造改革を進め、対外開放を一層進める。中小銀行と農村信用社の改革をすすめ、中小銀行の資本を充実させ貸出能力を向上させる。人民元の国際化と資本取引の自由化を徐々に推し進める。

マクロ経済政策は充分か

 以上の、中国経済の現状認識と来年のマクロ経済政策運営方針を筆者なりに解釈すると、米中貿易摩擦や国内の債務圧縮、そして景気循環的な動きも重なって、中国経済は悪化が続いている。経済成長率は2019年第3四半期に前年同期比6%の水準まで落ち込んでいる。これに対して、財政政策で公共投資を大規模に行ったり、明確な金融緩和政策を推し進めると、財政赤字を拡大させ、さらにバブル発生の危険性を高めてしまう。そこで、財政政策では主に減税による刺激策で消費を中心に盛り上げ、金融政策は金融リスクの発生を抑制しながら、マイルドな金融緩和政策を実施する。そして、短期的には成長率の多少の鈍化は受け入れつつ、中長期的には、従来の公共投資や輸出に依存した経済成長ではなく、需要サイドでは消費を中心とした内需主導、供給サイドではイノベーション駆動型の成長モデルへの転換を実現するということになる。

 中国では現状の6%成長という統計は正確ではなく、実際にはすでにゼロ成長に陥っているという論者もいるようである。6%、さらには5%程度の成長率であれば、日本でいうと1960年代の高度成長期が終了した後の1970年代半ば程度の状況ということになる。しかし本当にゼロ成長に陥っているのであれば、一気に日本の1990年代半ば以降にあたることとなる。そうだとすると、中央経済工作会議で示された財政政策と金融政策の方針は充分ではない。財政赤字やバブルの発生などの金融リスクを回避するために大規模な公共投資を控えたり、大幅な金融緩和政策を回避するというのは、日本の90年代以降の状況と重ね合わせるとずいぶん余裕のある対応に思われる。本当に経済が深刻な状況に陥っている場合、財政赤字やバブル回避などと言っている余裕はなく大規模な公共投資や急激な金融緩和が要求される。現状の金融政策をみると、預金準備率こそ小刻みに低下させてきているが、銀行の貸出と預金の基準金利の引き下げは2015年10月以来行われておらず、それに替わるものとして2019年8月に導入された貸出市場報告金利(LPR)も、1年物貸出基準金利4.35%に対し同じ1年物で導入時4.25%、12月段階で4.15%と小幅な引き下げにとどまっている。慎重な財政刺激政策とマイルドな金融緩和政策という方針をみる限り、そもそも党や政府の経済状況に対する認識もバブル崩壊後の日本ほど深刻なレベルには達していないものと考えらえる。

大規模な政策を要求する意見も存在する

 中国国内でも異なった見解が存在する。例えば、著名な経済学者で元人民銀行金融政策委員会の委員も務めた中国社会科学院の余永定研究員は12月2日付の「財経」誌において、経済成長率が以前の10%を超える水準から現状6%まで低下したが、この低下にブレーキをかけなければならない。さらに中米貿易戦争のマイナスの影響を相殺するためにも充分拡張的な財政政策を主とし、それを支援するため明確に緩和姿勢を打ち出した金融政策が必要であると主張している。

 比較的抑制的な財政政策とマイルドな金融緩和政策により経済成長の多少の鈍化を受け入れるか、充分拡張的な財政政策と明確な金融政策により、これ以上の経済成長の鈍化を回避すべきか、判断はむつかしいところであろう。2020年は第13次5か年計画の最終年であり、中国の第一の百年目標である小康社会を実現する2021年の一年前でもある。そのため、今回の中央経済工作会議においては、経済政策の運営を良好に行うことの重要性が指摘されている。そしてキーワードとして挙げられるのは「穏」(安定)の一文字である。今回の会議では、多少の経済成長の鈍化を受け入れてもバブルの発生と崩壊の可能性を回避し、経済の大きな変動を防いで、安定した経済成長を実現することが選択されたとみるべきであろう。

(了)