中国レポート
トップ  > コラム&リポート 中国レポート >  【07-06】中国における高成長が続くハイテク産業の現状及び動向(上)~基本的な用語の整理及び新たな位置づけ~

【07-06】中国における高成長が続くハイテク産業の現状及び動向(上)~基本的な用語の整理及び新たな位置づけ~

2007年6月20日

1.はじめに

 中国「寧波」といえばあの懐かしい「寧波湯団」の味を思い出すのではなかろうか。金木犀の花びらの砂糖漬けのほんのりした甘い透明なスープに浮かせた可愛い胡麻餡の白玉団子は、実に美味しいね!やはり忘れられない「寧波一品」である。

 2007年3月24日、中国国務院、科学技術部、火炬高技術産業開発センター、浙江省等の要人は現地の関係者とともに中国寧波市に一堂に集まり、「寧波高新技術産業開発区」という中国で54番目になる国家ハイテク産業開発ゾーンの誕生祝賀会で喜び合い、科学技術部副大臣曹氏は重要な講話をなされた。

 今日、自動車産業がほとんどの産業部門を引っ張っているように、高成長が続く中国国家ハイテク産業開発ゾーンはそのイノベーションへの飽くなき追求によっ て中国ハイテク産業全般を牽引するとともに、中国の技術、経済、ひいては社会の持続的な発展に大きな影響を及ぼしつつある。2005年の全国一人当たりの GDPが1千米ドルになるかどうかであるが、国家ハイテク産業開発ゾーンの一人当たりのGDPは1万米ドルに達している。

image

 そこで、本稿では文献だけでなく、筆者のいままでの関連業務の中、「足で得た実感」の一部も含めて、まずは「基本的な用語の整理及び新たな位 置づけ(上)」について述べ、次に「主な関連政策や多彩な現場の例示(中)」を紹介し、最後に「日本における中国研究へのアプローチ(下)」を提示する。

2.基本的な用語の整理

 中国では地方レベルも含めたさまざまな「特区」は現在3500以上あると言われている。「深圳経済特区」は例示するまでもないが、技術関連でいえば「科技園区」、「高新技術産業開発区」、「経済技術開発区」、「高科技園区」、「新技術開発区」、「新 技術産業開発実験区」、「大学科技園」などが例示できる。これらの用語は同義か異議かを整理することは中国のハイテク産業を正確に知る上で必要であり、本 稿ではまずなぜ以下の三つの用語を用いるかについて述べておく。

2.1 ハイテク

 ハイテクとは中国語の「高新技術」の訳である。確かに、高技術=ハイテク、新技術=ニューテクと理解され、「ハイテク・ニューテク」と訳すことも可能であ るが、実際、中国でいう「高新技術」は何が高技術=ハイテクか、何が新技術=ニューテクかについて基準が明示されていないし、公式な英訳表記では全部 「Hi-Tech」となっている。

 ちなみに、中国では上記意味でのハイテクは「バイオ及び新医薬技術、新材料及び応用技術、先進的な製造技術、航空宇宙技術、海洋技術、原子力の応用技術、 新エネルギーや省エネルギー技術、環境保護の新技術、現代的農業技術、その他の伝統的な産業の改造に応用可能な新技術等」といった諸分野を指している。

2.2 ハイテク産業

 ハイテク産業とは中国語の「高新技術産業」の訳である。それを構成するものは前掲図1で示したように、ハイテク産業開発ゾーンのほか、大学サイエンスパー ク、ソフトウェアパーク、重点実験室や研究センター、帰国留学人員創業パークやインキュベーター、ハイテク製品の輸出基地等である。

 2007年5月現在、国家ハイテク産業開発ゾーンは54となっているが、国家大学サイエンスパークは44、国家ソフトウェア産業基地は29、国家インキュ ベーターは135のほか、国家重点実験室、国家研究センターなども数多く存在する。本稿では、このような「ハイテク産業」という用語の射程範囲を念頭に置 きつつ、国家ハイテク産業開発ゾーンを中心に述べる。

2.3 ハイテク産業開発ゾーン

 ハイテク産業開発ゾーンは「高新技術産業開発区」や「高科技園区」などを含む訳語である。中国国家ハイテク産業開発ゾーンの中に、確かに北京中関村科技園区(Zhongguancun Science Park)、上海張江高科技園区(Shanghai Zhangjiang Hi-Tech Park)、武漢東湖新技術開発区(Wuhan East Lake Hi-Tech Development Zone)、大連高新技術産業園区(Dalian Hi-Tech Industrial Zone)といった標記も存在するが、ほとんどのハイテク産業開発ゾーンは地名+国家高新技術産業開発区(National Hi-Tech Industries Development Zone)という名称になっている。そのため、本稿では上記多様な標記を含む「国家ハイテク産業開発ゾーン」という統一した表現を用いる。

 このほかに、50余りの国家「経済技術開発区」(Economic & Technological Development Zone)という特別なエリアも存在している。これらの開発区は中国科学技術省ではなく、中国商務省が主管している特区であり、「国家ハイテク産業開発 ゾーン」とは組織的にも内容的にも違うもう一つのエリアとなる故、本稿では基本的にそれを対象外とする。

image

3.国家ハイテク産業開発ゾーンの新たな位置づけ

 中国が1990年代初頭から全国各地に本格的に国家ハイテク産業開発ゾーンを設立し始めたのは中国ハイテク産業の育成や振興、産業構造の改革、伝 統的な産業の改造、国際的な競争力の増強を狙った重大な戦略である。10数年間、零からの出発であったが、政府主導による段階的かつ戦略的な拡大策によっ て、前例を見ない高成長が続き、2005年現在の統計は以下の結果を示した。

 すなわち、寧波を除く53の国家ハイテク産業開発ゾーンの工業生産高の増加率、利潤、納税、及び輸出で得た外貨はそれぞれ全国のハイテク産業合計の 41.5%,42%,39.5%,46.2%となり、国家ハイテク産業開発ゾーンの一人当たりのGDPは1万米ドルに達し、研究開発の投入は全国平均レベ ルの9倍に上った。中国全土からみた場合、53の国家ハイテク産業開発ゾーンは僅かなエリアであるが、そこで得たハイテク産業の経済的効果は全国の半分近 くになっており、しかも高成長がいまなお続いている。

 ちなみに、2006年12月に開催された「全国ハイテク産業発展会議」によると、中国のハイテク産業の発展は「第11次5カ年計画」の最初の年となる2006年に幸先よいスタートを切り、ハイテク産業の増加額は前年同期比20%増の9400億元以上になると予想された。

 ところで、2006年1月に開催された「全国科学技術大会」では、15年をかけて「創新型国家」(イノベーション型国家)を建設する」という戦略目標が掲 げられた。一方、国家ハイテク産業開発ゾーンについては温家宝首相が明言した「四位一体」という新たな位置づけが再確認された。四位とは①技術の進歩と自 らのイノベーション能力を増強する「重要な運営ステージ」、②経済構造の調整や成長方式の転換を実現させる「強力なエンジン」、③ハイテク産業の国際競争 への参入をサポートする「サービス・プラットフォーム」、④世界のハイテク産業の戦略的な制覇地域を「制する最前線」といった内容である。

 これによって、中国国家ハイテク産業開発ゾーンの方向性が再度明確に示された。ハイテク産業の集積からイノベーションの集積へと発展する中で、激変する世 界に対する空間的な視野の広さを持ちながら、「資本集約型」、「頭脳集約型」、「生態維持持続型」、「イノベーション連鎖型」などといった多様な発展モデ ルの進化を遂げることにより、中国国家ハイテク産業開発ゾーンの高成長は続くと期待される。中国国家ハイテク産業開発ゾーンは単なる特別なエリア的な存在 ではなく、中国の未来の一面が窺える限りない空間である、と言えよう。

 2007年5月17日、中国国家ハイテク産業開発ゾーンの一つ、上海張江高科技園区の設立15周年記念イベントがスタートした。中国科学技術省大臣万氏、 上海市副市長楊氏等多くの要人が開幕式に参加された。(下記写真)集積回路、ソフトウェア、バイオ製薬を三つの柱とした上海張江のハイテク産業の発展振り は内外の関心を集めている。

image

 上海張江に限らず、54の国家ハイテク産業開発ゾーンの現状はどのようなものか、高成長が続くハイテク産業をめぐる関連政策はどのようなものかなど、次回、それらを中心に拙稿を続ける予定である。

 なお、余計な一言であるかもしれないが、冒頭で述べた「寧波湯団」も結局は団子族に属されるものと思われるが、中国の「湯団」はいくら小さくても中身が詰 まっているものが多く、またスープの中で生きている場合が多い。これに対し、日本の団子は小さいほど中身の入っていないものが多いようである。いずれも美 味しく味わえる方法はあるが、当然、それぞれに使われる材料に大差がなくても、作り上がるまでの工程が違うし、かかるコストも違うと推測される。しかし、 なぜそうなるのか、その違いから何を連想するのであろう。

(次号に続く)


名前

張 輝 (Zhang Hui):
株式会社技術経営創研社長、経営コンサルタント、博士

略歴

 1961年中国上海生まれ。88年留学に来日。
95年立教大学博士(国際的な技術ライセンス規制の研究)。体系的、実証的、比較的な中国ハイテク産業論の提唱者。
95年以降、科学技術政策シンクタンク主席研究員、経営戦略コンサルティング・グループMOT統括マネージャ、中国管理科学研究院総合研究誌国際編集委員、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科( MBA/MOT)兼任講師、NPOビジネスモデル学会運営委員、日中テクノビジネスフォーラム代表などを務め、DND「イノベーション25戦略会議」への提言連載コラム中国版編訳責任者、情報サイト「 中国ハイテク産業の窓」「東京博客」(中国語)等を主宰。
日本総務省、国土交通省、文部科学省関連機関(宇宙航空研究開発機構、産業技術総合研究所)、本田技研工業、NTT、富士通、朝日航洋などからの委託市場調査、事業開発、戦略策定、比較研究、日 中交流等に取り組む。
2003年から現職。

著書・論文

『中国知的財産権ハンドブック』(東京布井出版、共編著)1997年
『図解入門 テクノビジネス・ストラテジー』(LexisNexis&東京布井出版)2003年
『中国におけるハイテク・スタートアップス調査研究報告書』(産業技術総合研究所、共編著、非売品)2007年
米日中の科学技術政策の比較検討や知財ビジネス、テクノビジネスなどに関する論文多数発表。

受賞暦

1986年高品質新製品賞(前中国電子工業省、現中国情報産業省
1994年改革提言賞(中国管理現代化研究会等)
2006年世界傑出華人賞(中国外務省世界傑出華人大会組織委員会)