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【19-03】中国「高考」の改革―当事者に聴く中国教育事情

2019年4月16日 王璨(JTB日中教育交流中心)/日本語校正 伊藤裕子

はじめに

 毎年この時期になると学校では「高考」が話題の中心になります。

 「高考」とは毎年6月初旬に全国一斉に行われる中国の大学入試のことです。

 「高考」は一人の学生、一つの家庭、そして一つの国の教育政策にかかわるほど重要視されており、学生のプレッシャーも相当なものです。

 今回は今年1月に発表された「中国高考報告」をもとに、中国「高考」の改革について説明したいと思います。

中国「高考」の改革

①.試験青書:中国高考報告(2019)と40年間の変化

 2019年1月18日、「高考」40年シンポジウム及び『試験青書:中国高考報告(2019)』発表会が北京で開催され、中国社会科学院、北京大学、清華大学、中国人民大学、北京師範大学、華中科技大学、国家教育行政学院、中国教育科学研究院など、約30の関係機構の専門家・学者が出席し、改革開放から40年間の「高考」の発展と改革について討論を行いました。

 「中国高考報告」のデータからみると、40年間の中国の高等教育(大学レベル教育)の進化がわかります。総人口から見て1960年から高等教育を受けている人の比率はどんどん上がっています。1990年生まれの人では、三分の一以上が高等教育を受けています。また、去年のデータによりますと、2018年度、「高考」の受験者はおよそ975万人で、その内715万人が入学、入学率は73%です。中国において以前は「エリート教育」であった高等教育は今では「一般教育」に変わってきています。この40年間の国の発展に伴い国民の教育レベルも大きく発展しました。

 著しく発展したといえども、中国の「高考」が将来に向けて解決すべき問題はまだ多数あります。以下「中国高考報告」の中で取り上げられていた「5つの問題」を要約し解説します。

②.中国の「高考」が将来に向けて解決すべき問題と改革

(一)試験内容の改革

 試験内容は常に最も重要なテーマとして扱われています。教育の核心は「立德树人」(日本語では優れた品性、能力のある人材を育てるという意味に近い)となり人間教育、知識教育、社会実践教育のあらゆるプロセスに浸透していきます。高等教育へのみではなく、基礎教育、職業教育も含み、科目設置、教学体制、教材システムや管理システムも「立德树人」を軸に改革を推進すべきであるとしています。

(二)学生負担の軽減

 この従来的な問題に対して、負担軽減の合理性は討論が集中している要点であります。単に授業時間を短縮し教育内容を容易にしたところで、試験の難易度は変わらないので、学校外の教育機構(塾などの民間教育機構)で補習授業を受ける必要があり、結局学生の負担を減らすことにはなりません。学校内での教育だけでなく、課外授業や塾など民間教育機構への管理も必要になるとしています。

(三)試験科目の選択

 一番の注目を集めている「高考」の改革は試験科目を受験生が選ぶことができるようになったということです。2014年に発表されたこの改革は、2017年からまず上海市と浙江省において実験的に実行されました。学生の興味や長所を尊重し、自分の得意な科目を選択して受験することができます。

 上海市と浙江省で実施してから2年間にわたり、高校の資源や設備の不足などいくつかの問題点が出てきました。

(四)試験エリアの区分

 今までは中国「高考」の試験は「全国Ⅰ巻」、「全国Ⅱ巻」、「全国Ⅲ巻」と「○○省巻(省が試験内容を決め実施する)」※1に分けられていました。試験エリアの区分は「高考」改革で模索している部分です。「○○省巻」の出題側は各省にあり、「全国巻」の出題側である中国教育部考試中心(日本語訳:中国教育部試験センター)と比べ、出題チームの出題の技術経験などやや足りない部分があったので、2004年から全国統一試験に変える傾向が一時期あったのですが、ここ最近は教材と地方人材応用性の多様性などから、全国巻と○○省巻様式に戻る傾向もあります。なぜならば中国の各地区にはそれぞれ特色のある業種があり、それに応じて必要な人材が違っているからです。地方の発展を十分に考慮しながら、各地区にふさわしい人材を育てることに力を入れるべきという考えです。

(五)採用の多様化

 中国「高考」の厳しさも、受験生のプレッシャーも「高考」は高校生が大学に進学できる唯一の手段であり、年に一度の「一発勝負」にかけなければなりませんでした。2014年全国教育大会で発表された中国「高考」改革政策の影響を受け、近年は「自主採用制度」を取り上げている中国の大学も増えてきています。しかし実際は「自主採用制度」を実行している大学の数はまだ少数で、ほとんどは北京や上海など、教育資源が比較的多く配分されている地域に集中しています。将来的には地方の大学でも大学独自の望む人材像を築き、「自主採用制度」を採り入れていくべきだと考えられています。

私の考え

 以上の問題を解決し、「高考」改革を遂げるためには現在の高校教育の管理システムや資源配分、施設ではまだ不十分です。

 例えば試験科目の選択について、上海市では「6科目から3科目選択※2」では20種類の組み方ができ、浙江省の「7科目から3科目選択※3」では35種類の組み方ができます。学生達の選択に徹底して対応するには現状では教室も教師も不足しています。今後これは高校の資源配分(教員・教室)や管理制度にとって大きなチャレンジになります。

 また、教師は学生が試験科目を選択する時に将来性を考え、キャリアデザインや人生設計の面から学生を導くことも大変重要であると考えられます。しかしキャリアデザインという科目はまだ新しく、指導できる教育者も十分に認識している学生もまだ少ないです。この点について政府から呼びかけ、政策をかける必要があると思います。

 メールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2017年第60号でも「高考」をテーマに、「高考」試験科目:英語の改革(2回受験チャンス)について説明しました。今回の「高考」改革には、三大基本科目の数学にも変更があります。今まで、数学科目は「文系数学」と「理系数学」を分け、文系数学は比較的難易度が低いといわれていましたが、これからは文系と理系を分けず、難易度、総合性、応用性などを統合して出題するようになります。受験生の数学能力に新たな要求が加わることになりました。

 三大基本科目の中で変更がまだ確定していないのは国語です。「高考」改革の環境下で、国語のみ変化なしというわけにはいかず、「高考」の選抜機能を果たす一環として改革策を求められています。

 このように、今回の「高考」改革は今までにない多くの問題と挑戦に向かっています。改革策の実施も始まっているので、受験側の高校生、受入側の大学、そして政府側など、どのように変化し影響するのか引き続き注目していきます。


ご参考に

※1 試験用紙の分類(2018年まで)
①「全国Ⅰ(甲)巻」9地区
河南省、河北省、山西省、江西省、湖北省、湖南省、広東省、安徽省、福建省
②「全国Ⅱ(乙)巻」11地区
甘粛省、青海省、内モンゴル自治区、黒竜江省、吉林省、遼寧省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、陝西省、重慶市
③「全国Ⅲ(丙)巻」4地区
雲南省、広西省、貴州省、四川省
④「○○省巻」5地区
海南省:全国Ⅱ(乙)巻(国語、数学、英語)+独自出題(政治、歴史、地理、物理、化学、生物)
山東省:全国Ⅰ(甲)巻(外国語、文系総合、理系総合)+独自出題(国語、文系数学、理系数学)
江蘇省:独自出題(全科目)
北京市:独自出題(全科目)
天津市:独自出題(全科目)

※2 「6科目から3科目選択」
上海市を代表に実施されております。三大基本科目(国語、数学、英語)は変わりなく、「政治」、「歴史」、「地理」、「物理」、「化学」、「生物」から任意で3科目を選んで、「高考」で受験します。

※3 「7科目から3科目選択」
浙江省を代表に実施されております。三大基本科目(国語、数学、英語)は変わりなく、「政治」、「歴史」、「地理」、「物理」、「化学」、「生物」、「技術」から任意で3科目を選んで、「高考」で受験します。「技術」科目は浙江省の教学には、「情報技術」と「通用技術」に分けられています。


※本稿は、JTB日中教育交流センターが発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2019年・第71号を、JTB日中教育交流センターの許可を得て編集し転載したものである。

筆者より

 「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。

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