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【23-03】2022年中国10大科学技術ニュースを読み解く

陸成寛(科技日報記者) 2023年01月31日

 2022年、中国では歴史に刻まれる科学技術の成果が続々と誕生した。果てしなく広い宇宙から、ぬかるんだ水田に至るまで、中国の科学技術者たちはさまざまな分野で足跡を刻み、「自立自強」の道をしっかり進んだ。この1年、私達は新時代における中国の科学技術事業の勢いある力の目撃者となってきた。成果という花が咲き誇り、夢が次々と現実に変わり、イノベーションの力が強い勢いで繁栄する時代を支え、イノベーションのトーチが、世界科学技術強国建設の歩みを明るく照らしている。

1.ゲート長が最短のトランジスタを開発

 人類はまた「ムーアの法則」の限界に挑んだ。今回は中国人がチャレンジャーの役を演じた。

 清華大学集積回路学院のチームが、ゲート長が1ナノ以下のトランジスタを初めて開発した。同トランジスタは、良好な電気的性質を備えている。関連成果は3月15日付の学術誌「ネイチャー」にオンライン掲載された。

 過去数十年、トランジスタのゲート長は縮小し続けてきた。ただ、その長さがナノレベルに達するにつれ、電子移動率の低下や静的消費電力の増大といった問題が深刻になり、新構造と新材料の開発が急務となっている。現時点で、工業界で主流となっているトランジスタのゲート長は、12ナノ以上だ。清華大学のチームは、1ナノ以下のトランジスタを開発するためのボトルネックを打破するために、ゲートにグラフェン薄膜を巧みに活用し、グラフェンの横方向電場を通して、垂直の二硫化モリブデン(MoS_2)の溝のスイッチをコントロールすることで、効果が同等の物理的長さが0.34ナノのゲートを実現した。グラフェンの単原子層の厚さと高い電気伝導性能が、実験的にチップ上で実現したのだ。

 ニューヨーク州立大学バッファロー校のナノ電子学者・李華民氏は、「この成果により、ゲート長の限界が、炭素原子一層の厚さにまで縮小された。今後相当長い間においては、この記録を塗り替えるのは非常に難しいだろう」との見方を示す。

 単層グラフェンの厚さはわずか0.34ナノで、元々平面構造であるため、溝は垂直構造でなければならないというのが課題である。また、グラフェンは、サイドウォールはグリッドコントロールできるだけでなく、その表面もグリッドコントロールできるため、グラフェン表面の電場を遮蔽するのも難しい。そこで、中国のチームは、酸化アルミニウム層を活用して、それら問題を解決した。

 多くの人が期待している、二次元薄膜の集積回路が近い将来、フレキシブルで、透明かつ高密度の半導体を実現することになるだろう。新材料を活用すれば、CPU、ストレージなども含めて完全にフレキシブルな上、省エネのスマートフォンを実現することができるだろう。

2.二酸化炭素がグルコースと脂肪酸に「変身」

 でんぷんだけでなく、食糧も人工的に合成できる新たな方法が開発された。

 4月28日、国際学術誌「Nature Catalysis」に、中国の科学研究者が電極触媒反応と生合成を組み合わせることで、二酸化炭素と水を高純度の酢酸に効果的に合成し、さらに微生物を利用して、グルコースと脂肪酸を合成することに成功したという最新の研究成果が、巻頭記事の形で掲載された。

 グルコースと脂肪酸は、食糧の主な成分。電極触媒反応を通して、二酸化炭素と水を、グルコース、または脂肪酸に変えるというのはこれまで長期間にわたり、農作物の栽培が唯一の手段となってきた。

 今回の研究において、科学研究者はまず、二酸化炭素を効果的に電解還元して、高純度の酢酸を合成した後、醸造用酵母を使って、酢酸を発酵させた。そのプロセスは、まず、二酸化炭素を、醸造用酵母の"エサ"となる「酢」に変換し、酵母がそれを食べることで、グルコースと脂肪酸が合成されると説明することができる。

 中国科学院の院士で中国化学会催化委員会の李燦会長は、「これは、人工的、または半人工的に『食糧』を合成する新たな技術を提供している」との見方を示す。

 また、中国科学院の院士で上海交通大学微生物代謝国家重点実験室の鄧子新室長は、「この研究は、電気化学と生細胞を組み合わせてグルコースを含む食糧産物を合成する新たな方法を切り開いた。電力駆動に基づく、新型農業とバイオ製造業のさらなる発展に新たな範例を提供している」との見方を示す。

 研究チームは今後、電極触媒反応と生物発酵という二つの働きの相関性と互換性をさらに研究していく計画だ。また、将来的にはでんぷん合成や色素製造、医薬品生産なども、電極触媒反応装置を変えずに、発酵に使用する微生物を変えるだけで実現できると期待されている。

3.「中国天眼」が、反復高速電波バーストを世界で初めて発見

 貴州省にある「中国天眼」と呼ばれる500メートル口径球面電波望遠鏡(FAST)が、今年も数多くの画期的な成果を挙げた。

 6月9日、学術誌「ネイチャー」に、高速電波バースト(FRB)に関する研究成果が掲載された。中国科学院国家天文台などの機関の研究者が、「中国天眼」を利用して、新たな反復高速電波バーストFRB 20190520Bを世界で初めて発見したのだ。この発見は、FRBという宇宙のミステリアスな現象に対する理解を深める上で重要な意義がある。

 FRBは、宇宙において最も明るい電波バースト現象で、太陽が1年かけて放出するエネルギーをわずか1ミリ秒で放出する。2007年に初めて発見されたFRBは、常に天文学の最前線の研究方向となってきたものの、その物理的発生源や放出メカニズム、周囲の環境などは依然として明らかになっていない。

 2019年、研究者は、システムを通して、「Commensal Radio Astronomy FAST Survey」(CRAFTS)のデータを処理していた際、5月20日のデータに、反復する高分散パルスが存在していることを発見した。そして、そのパルスが、新しいFRBFRB 20190520Bから来ていることをすぐに突き止めた。

 その後の観測で、研究者はほかのFRBが、1回きりしか検出されないのと違い、FRB 20190520Bは継続的で、ずっと光を放っていることも発見した。

 このFRBの「家」、つまりホスト銀河を探すために、研究者は複数の国際設備を使った宇宙・地上から協同観測を計画し、電波アレイ、光学、赤外線望遠鏡、高エネルギー天体観測衛星のデータを総合的に検討して、「FRB 20190520B」の発生源が地球から30億光年離れた金属欠乏矮小銀河であることを特定した。そして、発生源に近いエリアにこれまでに知られている最大の電子密度を持つことを確認した上、それと対応した緻密な反復した電波発生源を発見した。

 それについて、FRBを発見したダンカン・ロリマー氏は、「FRBは異なる種類があるかもしれない。FRBサンプルの持続的な増加に伴い、今後数年内に、FRBの謎を解明できる見込みだ」との見方を示す。

4.中国の3隻目の空母「福建」が進水

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中国船舶集団有限公司・江南造船所で行われた中国の3隻目の空母「福建」の命名・進水式。画像提供:人民視覚

 中国船舶集団有限公司・江南造船工場で6月17日午前、中国の3隻目の空母の命名・進水式が行われたというニュースが、中国軍のファンの間で、瞬く間に話題をさらった。「遼寧」、「山東」に次ぐ3隻目の空母は「福建」と命名、艦番号は18となった。

「福建」は、中国が独自に設計・建造した初のカタパルト空母で、フルストレートデッキを採用し、電磁カタパルトと制動装置を配備し、満載排水量は8万トン余りとなっており、前世代の「山東」より2万トン増えた。米誌「ザ・ディプロマット」の編集者であるロバート・ファーリー氏は、「『福建』は、有史以来、米国以外で建造された最大で、最新型の空母となるだろう」との見方を示す。

「福建」の外観において、最も大きな改良となったのはフルストレートデッキが採用されている点だ。スキージャンプデッキと比べると、フルストレートデッキは、戦闘機を搭載するスペースが広い。スキージャンプデッキは、先端が反り上がっているため、船首の後部に戦闘機・殲-15(J-15)を数機しか搭載できない。一方、「福建」は戦闘機を搭載するスペースが大幅に増え、艦上機を甲板の先端まで並べることができる。

 また「福建」には、エレベーター2基、電磁式カタパルト3基が搭載され、革新的な電磁式発艦装置/電磁式着艦装置が配備されている。「福建」は、スペースをフル活用した場合、最大で戦闘機20機以上が着艦できると分析されている。

 ある専門家は、「電磁式カタパルトを採用することで、甲板の発艦地点3ヶ所を同時にフル活用できる能力を備えるようになった。また、長い発艦地点には、3機目のカタパルトを搭載し、斜めにずらしたアングルドデッキを採用して、複数の方向に同時に発艦できるようにもなっている」と説明する。

5.SHMFFが世界記録を更新

 8月12日、安徽省合肥市から朗報が舞い込んだ。中国の国家重要テクノロジーインフラである「定常強磁場施設」(SHMFF)で、45.22ガウス(G)というこれまでで最も強い定常磁場を地球上で発生させることに成功し、科学技術のさらなる高みへと登り詰めたのだ。これは1999年に打ち立てられた世界記録を、23年近くぶりに更新するもので、科学者の研究をサポートする世界最高の定常強磁場施設となった。

 SHMFFは、物質科学研究に必要な極限環境下での実験を行うことができ、重要な科学的発見を後押しする施設となっている。

 世界の科学技術強国は強磁場を発生させることのできる施設の建設を常に重視してきた。現在、世界には5大定常強磁場施設があり、それぞれ米国、フランス、オランダ、日本、中国の合肥科学島にある。

 2016年には、中国科学院・合肥物質科学研究院の強磁場チームは、中心の電界の電界強度が40万ガウスのハイブリッド磁石の独自開発に成功した。電界強度は一気に世界2位に躍進した。

 それから5年余りで技術の研究開発に急ピッチで取り組み、強磁場チームは、磁体構造を革新し、新材料を開発し、製法を最適化し、最終的に重要な技術的ブレイクスルーを実現した。今回、SHMFF が45.22万ガウスの磁場を産み出したことで、極限環境での実験を行う中国の科学施設建設が、中国だけでなく、世界の強磁場技術発展において重要な一里塚を築いた。

 2017年9月、SHMFFが稼働開始して以来、稼働時間は50万時間を超え、中国内外の機関170以上に実験環境を提供し、3000項目以上の先端研究を行い、一連の重要な科学技術成果を上げてきた。

6.中国が初めて発見した月の新鉱物「嫦娥石」

 果てしなく広い宇宙にある月の研究の新たな章が始まった。9月9日、中国国家航天局と国家原子力機構は共同で、中国の科学者が月で新たな鉱物を発見し、「嫦娥石」と命名したことを発表した。月無人探査機「嫦娥5号」が回収した月の土壌サンプル研究が、重要な科学成果をまた一つもたらした。

「嫦娥石」は、中国が発見した初の月の新たな鉱物で、人類が月で発見した6種類目の鉱物ともなった。その発見により、中国は月で新たな鉱物を発見した3番目の国となった。

 専門家によると、「嫦娥石」は、「嫦娥5号」が回収した玄武岩の粒子の中に含まれていたリン酸塩鉱物の一種の柱状結晶体で、メリール石に属し、粒子の大きさは2--30マイクロメートル。

 2021年、中核集団核工業北京地質研究院は、「嫦娥5号」が回収した科学研究用の月の土壌サンプルの研究を行う機関第1陣として名乗りを上げ、認可を受けた。そして、科学研究用の月の土壌のサンプル50ミリグラム、研磨片サンプルの1点を相次いで受け取った。同院の研究チームは、月の土壌の粉末サンプルの鉱物学研究を行う過程で、新しい鉱物を発見する手がかりを得た。

研究者は、X線回折などの一連の技術的手段を駆使して、14万個の月の粒子サンプルの中から、約10マイクロメートルの粒を分離し、その結晶体構造の解析に成功した。そして、国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物命名と、分類委員会(CNMNC)の投票を経て、新たな鉱物と確認された。

7.「夸父1号」が太陽探査の旅スタート

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「夸父1号」のイメージ図。画像提供:視覚中国

 10月9日、中国は酒泉衛星発射センターから、総合的宇宙太陽観測衛星「夸父1号」を打ち上げ、太陽探査の旅を本格的にスタートさせた。

 同衛星の設計寿命は4年で、高度約720キロの太陽同期トワイライト軌道から太陽の観測を行う。その科学目標は、太陽の磁場と、太陽における2種類の最も強烈な爆発現象である太陽フレアとコロナ質量放出を観測し、その形成、変化、相互作用、相互関係を研究すると同時に、宇宙天気予報にサポートを提供することだ。

 科学目標を達成するため、「夸父1号」には、ペイロード3台が搭載されている。そのうちの全日面ベクトル磁力計(FMG)は、太陽の全日面ベクトル磁場を観測し、ライマンアルファ線太陽望遠鏡(LST)は、主にコロナ質量放出の形成と白色光コロナの伝播を観測し、硬X線イメージャー(HXI)は主に太陽フレアの非熱的放射の形態及びエネルギースペクトルの特徴の観測に用いられる。

「夸父1号」ペイロード3台が軌道上で観測をして2ヶ月経った12月13日、太陽に対する観測画像が公開された。それら科学画像は、複数の中国内外の「初」を実現しており、ペイロード3台の観測能力と先進性の高さを証明した。

「夸父1号」は今後、計画通り、軌道上でのテストを完了した後、できるだけ早く、軌道上での科学運営の段階へと切り替えられる予定となっている。また、「夸父1号」は、ペイロード3台を組み合わせた観測のメリットを十分に発揮し、中国内外との協力及びデータ開放・共有を強化し、太陽の磁場と太陽フレア・コロナ質量放出をめぐる科学目標をできるだけ早く達成し、太陽活動周期「サイクル25」の観測と研究に、中国の存在感を示すことのできる寄与を果たしていく計画だ。

8.教育・科学技術・人材を重視する中国共産党第20回全国代表大会の報告

 10月16日、中国共産党第20回全国代表大会が北京で開幕した。その20大報告は、教育、科学技術、人材を第5章に置いて、統一した計画を制定しており、一大イノベーションと見なされ、大きな意義がある。

 同報告は、1つの章を割いて「科学技術・教育興国戦略を実施し、現代化建設人材の下支えを強化する」について重要な計画を策定した。同報告は、「教育、科学技術、人材は、社会主義現代化国家の全面的な建設の基礎的で、戦略的な下支えである」と指摘している。科学技術を最大の生産力、人材を最重要の資源、イノベーションを最大の原動力とする姿勢を堅持し、科学技術・教育興国戦略、人材強国戦略、イノベーション主導発展戦略を踏み込んで実施し、発展の新たな分野、新たな競争の場を切り開き、発展の新原動力、新しい優位性を築き続けなければならない。このような体系的で、一体化、統一された計画は、三者が互いに補完し合い、共に力を発揮し、社会主義現代化強国建設の重要な戦略的地位を力強くサポートし、中国の2つ目の百年の奮闘目標達成に向けて突き進むための行動綱領を制定している。

 中国共産党第18回全国代表大会で提起された「イノベーション主導発展戦略実施」、中国共産党第19回全国代表大会で提起された「イノベーションは発展を牽引する最大の原動力」、中国共産党第20回全国代表大会で提起された「ハイレベルの科学技術『自立自強』実現」を振り返ると、党指導部が科学技術イノベーション活動を、一貫して非常に重視していることがはっきりと分かる。

 新たな科学技術革命と産業変革が現在、世界のイノベーションの勢力図、世界の経済構造などの再構築を加速させている。科学技術イノベーションは、百年未曾有の大変局におけるカギとなる変数となっている。世界知的所有権機関(WIPO)が発表した「世界イノベーション指数報告」の中国のランキングは、2012年の34位から、2022年には11位にまで上昇した。科学技術イノベーションの実力が、中国の発展の前途を左右するというのが、全党・全国の共通認識となっている。

9.中国の宇宙ステーションが歴史的な「合体」に成功

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他の2つのモジュールとのグリッド管理が実現した実験モジュール「夢天」。宇宙ステーションのさらに大規模な宇宙研究実験と新技術実験などの展開をサポートしている。画像提供:中国有人宇宙事業弁公室

 海南文昌航天発射場で10月31日午後3時37分、中国の宇宙ステーション「天宮」の2つ目の実験モジュール「夢天」を搭載したキャリアロケット「長征5号B遥4」の打ち上げに成功。11月1日午前4時27分に、「夢天」は、これまで打ち上げたコアモジュール「天和」との正確なドッキングに成功した。その後、「夢天」は、平面移動により位置を変え、3つのモジュールが、左右対称の「T」字型を形成している。中国の宇宙ステーションにとって、歴史的な「合体」となった。

「夢天」は、中国の宇宙ステーションの3つ目のモジュールであり、2つ目の科学実験モジュールでもある。作業キャビン、積載キャビン、貨物エアロックキャビン、資源キャビンからなり、打ち上げ重量は約23トン。その構造は、マトリョーシカ人形に似ており、4つのキャビンの先端と後部が連結されている。作業キャビンは、実験モジュールの最前部にあり、科学実験装置が搭載されている。その後ろの2つのキャビンには、貨物を出す通路が設置されている。

 中国が「天宮」を建設している主な目的は、最高レベルの国家宇宙実験室を建設し、科学に寄与し、重要科学技術成果を産み出すことだ。現時点で、軌道上の科学実験プロジェクト約40項目が計画されている。科学者は、「夢天」を利用して、10年以内に、1000回以上の科学実験を行う計画を立てている。最高性能の実験モジュールとしての「夢天」を利用して、微小重力下の植物細胞や骨格・筋肉、材料融解、タンパク質結晶といった各分野の現象を研究することができる。

10.雲南省で多年性のイネ品種開発に成功

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水田で多年生イネの研究を行っている雲南大学のチーム。画像提供:視覚中国

 毎年、イネの育苗・田植えを行うがイネ栽培の常だ。しかし、雲南大学はこのほど、多年性のイネ品種になるかもしれないイノベーションを行った。1回の植え付けで、何度も収穫できるため、育苗・田植えの手間を省き、コスト削減にもつながる。雲南大学の研究チームが22年10月に試験栽培に成功し、実際の生産に投入できる多年性のイネ品種を栽培できることを確認した。関連の研究成果が11月7日、英誌「Nature Sustainability」に掲載された。

 イネの野生種Oryza longistaminataの発達した地下茎を利用して開発した多年性のイネ品種は、耕作・栽培技術も確立されており、1回植え付けると、2期目からは代掻き、種の購入、種まき、育苗、田植えなどが不要になり、適切に管理さえ行き届ければ、残るのは収穫作業のみとなる。

 雲南大学のチームは1997年から、多年性のイネの実験に取り組んでいる。2016年からは、水田での試験栽培を始め、多年性イネの適応性、安定性、豊作性、病虫害対策といったことに対してコツコツと実験を行ってきた。そして、多年性の野生種のイネと、一年生の栽培イネとのハイブリッド種開発に何度も挑み、多年性のイネの品種を育成。最終的には、3品種が国の審査をクリアした。

 新品種のイネは、1ヶ月の最低平均気温が13.5℃以上で、4℃を下回る日が5日以下の条件下であればどこでも栽培することができるという。一度植えれば4年連続で年に2期収穫でき、1期当たりの平均生産量は、一年生イネの生産量をやや上回るという。多年性のイネは、育苗や田植えといった作業を省くことができるため、全体的に見て、生産コストを半分に削減することができるほか、栽培層の土壌の構造を改善し、土壤の有機質の含量を増やすことができるため、環境にもやさしい技術となっている。


※本稿は、科技日報「2022年国内十大科技新聞解読」(2022年12月26日付2面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。