【22-59】世界最大規模のインテリジェント・コンピューティングセンターが稼働
崔 爽(科技日報記者) 2022年11月07日
自動運転や生命医学、スマート製造といった分野が近年、急速に発展するにつれて、超大規模人工知能(AI)モデルと膨大なデータが生まれ、計算力の必要性が高まり続けているのに伴い、中国ではインテリジェント・コンピューティングセンターの建設が進んでいる。
インテリジェント・コンピューティングとは、簡単に言うと、AI専用のデータ処理センターのことで、現時点で主流の計算力センターの一つだ。そして、AIの計算に必要な専用の計算力を提供し、計算インフラの新しい建設スタイルをもたらしている。
アリババグループ(阿里巴巴)のクラウド事業であるアリババクラウド(阿里雲)は最近、演算処理性能が12EFLOPS(浮動小数点演算を1秒間に1200京回)の「張北スーパーインテリジェント・コンピューティングセンター」が正式に稼働開始したことを発表した。グーグルの9EFLOPSとテスラの1.8EFLOPSを超えて、世界最大のインテリジェント・コンピューティングセンターとなった。AIの大規模モデルトレーニングや自動運転、地理空間といったAIの応用模索にスマート計算力サービスを提供する。
同センターが稼働開始したのを受け、阿里雲は同センターの技術を支える「飛天インテリジェント・コンピューティングプラットフォーム」を正式に対外開放した。パブリッククラウドとプライベートクラウドのモデルを通して、各種機関にサービスを提供することができる。開発者はプラットフォーム上でデータ保存、データガバナンス、データ分析、モデル開発、モデルトレーニング・推論などを行うことができる。このほか、開発者がさらにスピーディーにAI応用の開発を進めることができるように、同プラットフォームは、プレトレーニングモデルも提供することができ、音声、画像、自然言語処理、意思決定といった分野のモデリング能力も提供している。
計算力は、今の時代の必需品だ。政府の主管当局から、関連業界の企業に至るまでが、中国の計算力の総和とレベルを高めるべく、計算力の展開を最適化するよう取り組んでいる。深く根を下ろすと、木が大きく成長するように、強大な計算力は、AIの発展により深く、より強固な基礎を築くことができる。
インテリジェント・コンピューティングのインフラ整備を推進
計算力は、重要な「インフラ」であり、カギとなる生産要素でもある。「阿里雲智能」のグローバル販売を総括する蔡英華氏は、「飛天インテリジェント・コンピューティングプラットフォーム」の発表会で、「現時点で中国の企業の58%がAIを使用しており、世界平均水準を遥かに上回って先頭を走っている。デジタルトランスフォーメーションは膨大なデータをもたらすだろう。2025年までに、中国のデータ量は486垓バイトに達する見込みだ」と語った。
このほか、中国の計算力構造も変化している。第13次五カ年計画(2016‐20年)期間中、中国の計算力の規模は5倍近くとなり、一般的な計算力は約3倍、スマート計算力は100倍近くとなった。スマート計算力が計算力全体に占める割合は40%に達しており、将来的はその割合がさらに高くなる見込みだ。蔡氏は、「計算力の発展は、生産力のレベルが高まっていることを示しているだけでなく、産業革新の原動力ともなっている」との見方を示す。
一般的な計算と異なり、スマート計算は、膨大なデータを使って、AIモデルのトレーニングを行わなければならない。計算力はデータ移行や同期などで消耗するため、スマート計算に対する要求がさらに高くなる。そのため、インテリジェント・コンピューティングセンターは、効果的な計算力、AIによるエンパワーメント、独自のイノベーション、グリーン・省エネといった複数の特徴を備えていなければならない。一方で、その建設により、計算力資源の配置最適化を推進し、各業界のデジタルトランスフォーメーションにエンパワーメントし、産・学・研・用(企業、大学、研究機関、実用化)が一体となったAI産業クラスターの構築を牽引することができる。
中国工業・情報部(省)の統計によると、2021年末の時点で、中国のデータセンターの標準サーバーラック数は計520万台で、データセンターで使用中のサーバーの数は1900万台、計算力の総規模は140EFLOPS以上に達している。中国全土で使用中の超大型データセンターと大型データセンターは450ヶ所以上で、インテリジェント・コンピューティングセンターは20ヶ所以上となっている。同部情報通信発展司の謝存曾司長は、「当部は今後も、計算力インフラ整備を推し進め、グリーンで、スマートな計算力インフラを統一して展開し、一体化したビックデータセンター体制を構築し、データとネットワーク、データとクラウドコンピューティング、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングが協同し、グリーンでスマートなマルチレベルの計算力施設体制構築を加速させ、計算力のレベルを継続的に、大幅に向上させ、デジタル経済発展の『計算力の基盤』を築いていく」と話す。
科学研究がインテリジェント・コンピューティングセンターの重要な応用シーン
生命科学の分野を見ると、北京深勢科技有限公司は「飛天インテリジェント・コンピューティングプラットフォーム」を活用するようになって以降、クラスター性能を100%以上に最適化し、分子動力学のシミュレーショントレーニングの効率が5倍になった。工業の分野を見ると、智己汽車科技有限公司は、同プラットフォームが提供する高性能計算を活用し、スマート運転トレーニングの効率を70%向上させ、ニューモデルの自動車の研究開発、発売が加速した......。これらはインテリジェント・コンピューティングセンターの科学研究へのサービス提供の一つの縮図に過ぎない。
阿里雲智能の副総裁を務める、業界ソリューション・営業部の霍嘉マネージャーは、「たくさんの大学と科学研究機関の研究者は、コンピューターを専門とはしていない。しかし、彼らは確実にAIを使って研究を行わなければならない。専門知識とインターネット技術の間にある隔たりが、研究者にとって悩みの種となっている」と説明する。
阿里雲のビッグコンピューティング製品研究開発の責任者・曹政氏によると、「一般的なデータセンターと比べると、インテリジェント・コンピューティングセンターは、計算力の規模と効率に対する要求がかなり高いほか、クライアントにソフトウェアプラットフォームレベルの製品とサービスを提供しなければならない。これが、計算力を『ラストワンマイル』に応用するカギだ」という。
霍マネージャーは、「人々が現在必要としているのは『箱を開けたらすぐに使用できる』スマート計算サービスで、これが最もリアルなニーズだ。AI開発というレベルで、インテリジェント・コンピューティングセンターは、『ビッグデータ+AI』の一体化プラットフォームによる開発と維持管理のオールプロセスのサポートを提供できる。特に、モデルトレーニングという部分では、分散トレーニングの枠組みが分散戦略を、自動で組み合わせ、調整し、トレーニング効率が11倍以上向上した。また、このインテリジェント・コンピューティングセンターはユーザーに、ワンストップ型の一般推論最適化ツールも提供し、アルゴリズムモデルの量子化、剪定、疎性、蒸留といった操作を行い、推論効率を6倍以上向上させている。このほか、阿里雲は、内蒙古(内モンゴル)自治区烏蘭察布(ウランチャブ)市のインテリジェント・コンピューティングセンターも同時に稼働開始させた。その演算処理性能は3EFLOPSだ。この2ヶ所の超大規模インテリジェント・コンピューティングセンターが現在、AIビッグモデルトレーニングやリモートセンシング、デジタルヒューマン、自動運転、メタバースといった先端のスマート応用にサービスを提供している」と説明する。
※本稿は、科技日報「全球最大規模智算中心啓動 智算為人工智能夯実"算力底座"」(2022年9月19日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。