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【23-30】オープンソースで次世代車のフレームワークをつくる中国のOpenSDV連盟

2023年07月04日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
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 OpenSDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェアで定義された乗り物)という概念がある。自動車などの乗り物をソフトウェアの集合体として捉え、ソフトウェア中心に考えていこうというパラダイムで、自動運転やEVなどで大変革が起こりつつある自動車業界で注目されている考え方だ。

 このOpenSDVのパラダイムをより普及させるために、自動車の制御プログラムや自動車同士を繋げて配車するシステムなど多くのソフトウェアを体系化し、業界標準などを含めてオープンソースで作り上げようという中国の官民一体の取り組みであるOpenSDV連盟が上海でカンファレンスを行った。

上海で大規模なオープンソースカンファレンス「GOTC 2023」開催

 2023年5月27、28両日、上海市の張江科学会堂で、オープンソースカンファレンス「GOTC 2023」(The Global Opensource Technology Conference)が開かれた。中国のオープンソース組織Open Atom Foundation、オープンソース企業OSCHINA、投資集団の上海浦東ソフトウェアパークに加え、世界的オープンソース組織LINUX FOUNDATIONの計4組織が共催し、多くの企業や投資機関、ユーザグループが関わる大規模なものとなった。イベントは2日間にわたり、張江科学会堂の全スペースを使って行われた。

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「GOTC 2023」開会式の様子。浦東地区の投資銀行や上海市政府などの政府VIP、LINUX FOUNDATION代表のジム・ゼムリン氏(リモート)らのあいさつが行われた。(筆者撮影)

 初日(27日)は大会議室で全体の共有が行われ、2日目(28日)は「オープンソースとセキュリティ」「オープンソースと投資」など全体で17の分科会が行われた。自動車についての分科会は前述のOpenSDV汽车软件开源联盟(以下OpenSDV連盟)が主催となり、丸一日に渡って開催された。

自動車をオープンソースするOpenSDV連盟

 SDVは国際的な用語で、特定の技術や製品でなく、ソフトウェア中心に乗り物を考えるアプローチ全般を指す。乗り物全体に幅広く関わる概念の中で、OpenSDV連盟は中国科学院の呼びかけで立ち上がったアライアンスで、乗り物に関わる全部分のソフトウェア、オープンな半導体やセンサーなどのハードウェアを含めた全体を対象にしている。

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OpenSDVは国際的非営利団体として、業界全体の向上を意図している。(筆者撮影)

 分科会の冒頭発表をしたOpenSDV連盟の倪永富秘書長のスピーチでも、広い範囲のアライアンスになることと新しい分野であることが強調されていた。

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OpenSDVの原則。(筆者撮影)

 OpenSDVの活動範囲、原則としては、

・オープン(開放):オープンソースであることで、立場に関わらず多くの企業や開発者を呼び込むことができる

・中立:開発側とサービス側のどちらにも寄らない

・バリュー(価値):価値を作り、価値を流通させる

・イノベーション:投資インキュベーションや知財保護などのビジネスが可能になる

の4つがある。

 前提として、これからのモビリティは、さまざまなソフトウェアの集合体として構成されるものになる。クルマ用と農薬散布ドローンなどで共通のソフトウェア基盤を使ったサービスもありえるし、乗っている人に快適に過ごしてもらうという点だと、スマートホームや音楽サービスなどとも共通するところが出てくる。また、デバイスやセンサーというところまで具体化すると、工業用ラインのソフトウェアと連携することもありえる。つまり、「自動車産業」というくくりをソフトウェア中心に再定義して、どういうソフトウェアとどういう連携があるのかをまとめなおし、広報することには意味がある。

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IoT時代ではモノ同士が通信で連携するが、今後は端末それぞれがインテリジェントな判断をすることになり、これまでの「中央・末端」と違う形のネットワークになるため、技術やソリューションへの要求が変わる。(筆者撮影)

 OpenSDV連盟の発起企業の中にはファーウェイなどオープンソース開発に親しんでいる企業もあれば、自動車会社も多い。自動車産業の多くはソフトウェア中心の開発や、オープンソース開発の経験が少なく、そうした企業に向けてオープンソース開発手法の啓蒙活動を行っていくのもOpenSDV連盟の業務となる。倪秘書長は第14次5カ年計画でオープンソースの推進が明示的に表れていることに触れ、まだオープンソース開発が浸透していない多くの企業への浸透について述べた。

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丸1日に渡って行われた分科会。連盟の意義、企業内のオープンソース推進、具体的なソリューションの紹介など、テーマは多岐にわたる。米国企業Redhatの自動車部門からも発表が行われた。(筆者撮影)

オープンソースによる標準化づくりは中国の戦略

 また、中立な連盟となることで、自動車に関わる標準化づくりで効果的なアクションが起こせることについても主張された。

 米中貿易戦争の中、中国のテクノロジー製品の輸出はどうしても色眼鏡で見られる傾向がある。その中でオープンな標準化を作ることは、中国製品を世界に向けて販売する上で効果的な方法であり、中国政府が注目する方法でもある。Linux Foundationなどの世界的なOSS連盟にならい、標準化の検討や土台作りそのものもオープンな連盟で行っていくのは、中国の他の産業にも波及しそうなアプローチだ。

 世界的にも自動車の技術はよりソフトウェア中心に向かう中、OpenSDV連盟のアプローチは注目に値する。今後の活動も追いかけていきたい。


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