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【20-14】外国人労働者や留学生にも支援を 問われる日本が目指す共生社会

2020年5月08日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 新型コロナウイルスは日本で生活する外国人労働者や留学生にも大きな経済的被害を与えている。解雇や再入国拒否などが各地で伝えられる中、法務省出入国在留管理庁は4月17日、解雇などにより仕事がなくなった技能実習生などに再就職を支援し、最大1年間引き続き日本滞在を認める雇用維持支援策を明らかにした。しかし、特定非営利活動法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事は4月28日記者会見し、支援策の不十分さを厳しく批判した。外国人材を積極的に受け入れ共生社会を目指すとしている日本政府の本気度が、新型コロナウイルスによって問われる事態となっている。

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新型コロナウイルスの外国人労働者に対する影響について語る鳥井一平「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表理事

 鳥井氏の記者会見は、氏の事務所と日本記者クラブの司会者、事前に申し込んだ日本記者クラブ会員、報道機関記者のパソコンをビデオ会議システムで結んで行われた。鳥井氏は、中国の旧正月、春節に帰国した中国人技能実習生が、帰国中に新型コロナウイルスを理由に日本の受け入れ先から解雇通告を受けた例を紹介し、「われわれの活動で自宅待機とさせたが、こうした例がほかにもたくさんあると思われる」と話した。

 鳥井氏は、日本の空港に到着した時に受け入れ企業からすぐ帰国するよう告げられ、自費で帰国せざるを得なかったベトナム人技能実習生の例も紹介している。さらに受け入れ先から解雇を通告され寮を退出するよう迫られたものの、帰国できない技能実習生もいるという。こうした例は、日本国内の報道でもいくつか明らかになっている。埼玉県越谷市の製造会社が、中国人技能実習生の女性に待機を指示した後、実習の中断と退職に同意するよう求めた確認書を送った。この技能実習生は中国に一時帰国し、日本政府による訪日規制の対象外地域だったため日本に戻ったところ、こういう仕打ちに遭ったという。また、北海道栗山町のキノコ工場で働いていた20~30代のベトナム人技能実習生17人が実習期間の満了前に事実上予告なく解雇された、という報道もある。

 さらに鳥井氏は、日本の自動車関連企業で働く外国人労働者や、外食産業をアルバイト先にしていた外国人留学生たちが働く場がなくなりたちまち生活が苦しくなっている状況にも注意を促した。2007~2008年のリーマン・ショックでペルーやブラジルから来日していた日系外国人労働者が仕事を失い、帰国せざるを得なくなった際には一定の補償がなされたことを挙げ、今回の支援、補償策が非常に乏しいことを強く批判した。

 2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、新しい「持続可能な開発目標」(SDGs)が掲げられている。「だれ一人取り残されない」というSDGsに盛り込まれた理念が、新型コロナウイルスに伴う滞日外国人労働者や留学生に対する支援でも貫徹されるべきだ、と鳥井氏は強く主張している。

国籍別外国人労働者内訳

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(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)」から)

 厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)」によると、日本には昨年10月末時点で165万人を超す外国人労働者がいる。国籍別でみると最も多いのは中国(香港等を含む)で、41万8,327人と全体の25.2%を占める。次いで多いのはベトナムの40万1,326人(24.2%)。3位以下は、フィリピン17万9,685人(10.8%)、ブラジル13万5,455人(8.2%)、ネパール9万1,770人(5.5%)といった順となっている。ベトナムが前年の同じ時期から1年間に84,486人も増えている(26.7%増)のが目を引く。

 日本政府は、2018年に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を策定し、外国人材を積極的に受け入れ、共生社会を目指す政策に大きく舵を切った。新しい外国人材受け入れ政策の柱の一つが、「特定技能」制度の新設。介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業という14分野を対象にしている。相当程度の知識・経験を必要とする技能を要する業務、あるいは熟練した技能を要する業務にそれぞれ従事する外国人材が該当する。要するに人材不足が深刻あるいはこれから予想される分野で即戦力となる外国人材を求めることを狙った新たな在留資格だ。

 これに対し、40年近い歴史を持つ技能実習生制度の狙いは、日本で身に着けてもらった技能、技術、知識を出身国である開発途上国へ移転し、それぞれの国の経済発展を担う「人づくり」に協力すること。両制度は目的がまるで異なる。

 しかし、すでに技能実習生という形で外国から来日した人々が実質的な労働力としてさまざまな現場で日本の産業を支えているのは周知の事実といえる。厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)」によると、昨年10月の時点で技能実習生の数は、38万3,978人で、外国人労働者の総数165万8,804人の23.1%を占める。「永住者」、「日本人の配偶者」、「永住者の配偶者」、「定住者」などを指す「身分に基づく在留資格」の53万1,781人(32.1%)には及ばないが、「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「高度専門職」、「経営・管理」、「法律・会計業務」、「医療」、「研究」、「教育」、「介護」などを指す「専門的・技術的分野の在留資格」の32万9,034人(19.8%)より多い。31万8,278人に上る留学生は、「規格外活動」の37万2,894人(22.5%)に含まれる。

 例えば中国(香港等を含む)からの労働者とみなされる41万8,327人のうち、20.8%の約8万7,000人は技能実習生。留学生も8万4,000人に上る。ブラジルとペルーは「身分に基づく在留資格」の割合がそれぞれ98.9%、99.1%とほとんどを占める。フィリピンも 69.7%と高い。一方、ベトナムは「技能実習」が48.3%で「資格外活動(留学)」が32.6%、 インドネシアでは「技能実習」が63.3%、ネパールは「資格外活動(留学)」が49.3%と国によってどういう人たちが日本の労働力となっているかには大きな違いがみられる。

在留資格別外国人労働者数

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(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)」から)

 昨年4月から始まった「特定技能」は「専門的・技術的分野の在留資格」に入る。10月末時点で520人が「特定技能」外国人として就労している。鳥井氏が記者会見で示したグラフは、厚生労働省の報告より数字が新しい。昨年12月31日の時点で特定技能外国人は1,621人にまで増えている。しかし、この数字は日本政府の期待よりはるかに小さい。厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)」によると、技能実習生の方は、前年の同じ時期に比べ1年間で7万5,489人も増えているのだ。さらに鳥井氏は、特定技能外国人1,621人のうち92.8%は技能実習生を経験した後、特定技能外国人の資格を得た人たちであることに注意を促している。技能実習生が特定技能の資格を得ることは制度として織り込み済みだからそれ自体は不当ではない。しかし、試験を受けてなった人が15人(7.2%)しかいないことは、特定技能制度の趣旨からするとおかしい、と鳥井氏は主張している。

 実習期間が終わったら帰国して実習で得た技術や知識を活用して母国の経済発展のためにつくすというのが技能実習生制度の目的。だから滞在期間も最大3年間と限られている。技能実習生制度の目的からすれば実習が終われば速やかに帰国し、自国の経済発展に貢献しなければならないはずが、特定技能外国人として引き続き日本のために働くのは、本来、おかしい。新型コロナウイルスは、技能実習生と特定技能制度のこうした偽装をあらわにする結果ももたらした、というのが鳥井氏の厳しい指摘だ。

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(鳥井一平移住者と連帯する全国ネットワーク代表理事記者会見資料から)

 鳥井氏が代表理事を務める「移住者と連帯する全国ネットワーク」は3月18日、「新型コロナウイルス流行にともなう緊急アピール」を出している。アピールは、新型コロナウイルスの流行にともない、移民や民族的マイノリティに対する差別、排外主義的な言動が、国内外で数多く報告されていることに強い懸念を表明している。求められているのは国境・民族を超えた信頼と連帯だとして、移民・民族的マイノリティの人権保障および脆弱な位置におかれた人びとを保護することや正確で公正な情報発信を政府、報道機関、市民に要請した。

 今回の記者会見でも鳥井氏は、技能実習生や留学生などに対する十分な支援・補償がなされていないことを指摘し、日本が共生社会をどう実践していくのかが問われている、と訴えている。

関連サイト

日本記者クラブ会見リポート「『新型コロナウイルス』コロナ禍で見えた移民社会の実像と今後の課題(鳥井一平「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表理事)

同「YouTube会見動画

移住者と連帯する全国ネットワーク「【声明】新型コロナウイルス流行にともなう緊急アピール

法務省「特定技能外国人受入れに関する運用要領

出入国在留管理庁「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組

出入国在留管理庁「新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技 能実習生等に対する雇用維持支援について

厚生労働省「外国人技能実習制度について

厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)