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【23-15】SF映画のような産業用ロボット、実用化進む

葉 青(科技日報記者) 2023年04月13日

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発電所内の変電施設を走行するスマート巡回点検ロボット(画像提供:取材対象者)

 最初±10ミリだったロボットの移動精度が現在、極限といえる±3ミリまで近づいている。これは、ロボットがさらに広範囲で自由かつ正確に移動できるようになったことを意味する。

 今年の春節(旧正月、2023年は1月22日)、中国では映画「流浪地球2(流転の地球2)」が大ヒットした。そこで描かれている未来の世界の多くは、現在の産業シーンやテクノロジー発展の実情に根ざしており、現実の工業生産と社会生活を映し出す鏡とも言える。未来の世界に対する無数の空想の中では、ロボットが未来社会に欠かせない重要な一部になっている。

「流浪地球2」の複数のシーンで登場する産業用モバイルロボットは、広東省の企業、深圳優艾智合ロボット科技有限公司(以下「優艾智合」)が製造したものだ。これらのロボットは、SF映画に登場するだけでなく、実際の工業生産で幅広く応用されており、映画には本来の姿のままで登場した。

幅広く活用されている映画の中のロボット

「流浪地球2」では、形態の異なるロボットがさまざまなシーンに登場している。例えば、ロボットアームを搭載した点検ロボットが自動でモニタリング指標を操作して、宇宙ステーション内の人命を守っていた。また、地球連合政府の会議ホールでは、ロボットがそばにいて、人間の科学的な決定をサポートしていた。北京宇宙センター・データセンターでは、巡回点検ロボットが膨大なデータの安定した運用を支援し、惑星にあるエンジン格納庫では、モバイルロボットが整然と物を運んでいた......。

 優艾智合の関健マーケティングディレクターは「巡回点検ロボットや産業用物流ロボットなど、われわれのさまざまな産業用モバイルロボット14種が映画に登場した。このうち、巡回点検ロボットは実際の生活でも重要な作業を担っている。例えば、海上石油プラットフォームやゴビ砂漠、洋上風力発電プラットフォーム、露天掘り炭鉱といった極端かつ複雑な環境で、ロボットが活躍している」と紹介した。

 関氏はさらに「映画に登場した産業用モバイルロボットは動きがスムーズだったが、レーザーSLAM融合ナビゲーションと2次元バーコードを組み合わせた2つの主要技術が駆使されている。当社の産業用モバイルロボットには、レーザーSLAMとナビゲーションを融合した方法が採用されており、ルート計画にはバーチャルトラッキングが使われ、自動で計画する。ロボットは検証済みマップの環境情報やセンサーによって、リアルタイムで感知した周囲の環境情報を総合的に評価し、最適な経路を導き出すとともに、動いている障害物を回避しながら進むことができる。この技術は主に、点検運用・保守系のロボットに応用されており、電力や炭坑、鉄鋼、石油化学などの分野で活用されている」と説明した。

 では、なぜ産業用モバイルロボットが応用されているのだろうか? 関氏は「発電所では、高低圧配電キャビネットの通電や遮断を作業員が行っていた。だがその作業には一定の危険が存在し、2人が呼吸を合わせて取り組む必要がある。1人がマニュアルを読み、もう1人が順番に操作しなければ、ミスによって死傷事故が起こる可能性がある。ロボットなら、周囲の環境を識別し、誤差を±5ミリ以内に抑えながら、自動で配電キャビネットの前まで移動し、スイッチボタンの位置を自動で判断し、作業員の代わりに通電、遮断してくれる」と語った。

 産業用モバイルロボットには苦労を厭わず専門性が高いという強みがあり、半導体業界のスマート化生産を支える中核となっている。

 ウェハーは高価な半導体原材料で、極めて脆い。輸送の過程で振動が発生すると、破損して不良品になる可能性がある。だが、産業用モバイルロボットが登場したことで、その問題が解決した。ロボットのシャーシーが安定した走行を確保し、機械を自動コントロールすることで、人の動きが異なることで発生した損失を防ぎ、良品率を高めることができる。

実践でアルゴリズムを価値あるものに

 優艾智合のロボットと「流浪地球2」との「縁」は2021年から始まった。同年、上海で開催された世界人工知能大会で、監督らは優艾智合のロボットの性能に魅了されたという。

 だが、ロボットの研究開発の過程について関氏は「決して順風満帆ではなかった」と振り返る。「チームには技術的優位性があったが、その技術がどんなシーンや業界で価値を発揮するのか、はっきりしていなかった。起業してからの2年間、数多くの業界で応用してみた結果、工業物流とスマート点検の運用・保守という2つのシーンに焦点を合わせるようになった」と語った。

 レーザーSLAMとナビゲーションを融合したアルゴリズムが、商業的実践において実際の価値を生み出すかが、研究開発チームが直面した最大の課題だった。例えば、点検運用・保守ロボットの核心は、モバイルシャーシープラットフォームにあり、業界ごとのニーズに合わせて、完全なロボットの形状と上位の業務用ソフトウェアシステムを構築し、ソリューションセットを提供しなければ、運用・保守の自動操作を実現できなかった。

 関氏は「当社の技術開発はいつも応用シーンを方向性としている。まず、一つのシーンでロボットに対する全体的な要求を理解しなければならない。それには、操作の精度だけでなく、安全性やプロセスマニュアルなどの問題も含まれており、実際のニーズに合わせて、設計、調整を行わなければならない」と述べた。

 高強度の作業でロボットが工場の清潔度要件を満たすようにするだけでも、研究開発チームは工夫を重ねたという。関氏は「車輪が地面を転がって走ると必ず摩擦が発生する。車輪にカバーをかぶせるわけにはいかない」とし、「材料の選択から、車輪の装着、運用、保守に至るまで、長い時間をかけて試行錯誤し、やっと最終的な基本プランを確定することができた」と振り返った。

 10万平方メートル以上の空間において、産業用モバイルロボットを高い精度で移動させるのも大きな課題だ。関氏は「技術開発では常に精度を重視している。最初の段階でロボットの移動精度は±10ミリだったが、現在は極限といえる±3ミリまで近づいている。つまり、ロボットはさらに広範囲で自由かつ正確に移動できるようになっている。産業用モバイルロボットの技術は、コツコツと時間をかけて発展させるもので、飛躍的に発展するものではない」と強調した。

スマート化建設に強固な基盤を提供

 産業用モバイルロボットは現在、先進的で成熟した生産力となり、各業界のシーンで大きな価値を生み出している。「流浪地球2」で描かれた未来の世界のように、産業用モバイルロボットは自動で搬送や操作、点検といった任務を遂行できる。

 関氏も各業界が産業用モバイルロボットに熱い視線を送っているのを感じている。「数年前はクライアントからロボット1~2台の注文が入るというのが普通だった。大型工場において、ロボット2台では実際に価値を生み出すことはできず、クライアントはそれを使って新技術応用の信頼性や安定性、実行可能性を検証していた。検証終了後、クライアントは通常の生産に影響を与えない状況で、生産ライン全体の改造を試した。今では、多くのクライアントがロボットを完全に信頼しており、100台以上のロボットを導入して、工場の1フロアや建物全体を改造するようになった」と説明した。

 産業用モバイルロボットの応用が成熟しているかという質問について関氏は「業界によって違う。製造業では電子関連分野が既に非常に成熟している」との見方を示した。

 ここ数年、モバイルインターネット業務が急速に発展し、中国の「東数西算(東部地域のデータを西部地域で保存・計算すること)」という戦略的措置が全面的に始まり、大型・超大型データセンターが次々と稼働している。優艾智合の巡回点検ロボットは、サーバールームを自動点検し、膨大なデータがスムーズに動くよう確保しており、スマート化建設に強固な基盤を提供している。

 関氏は「映画の中の未来世界がアルゴリズムやデータ、新エネルギーに基づき構成されている点は、われわれの業務展開と一致している。どちらも、データセンターや新エネルギーといった現在の産業生産で最も先見性と戦略性を備えた重要分野を反映している。これは未来世界を構築する要素であり、社会・産業発展の基本的な考え方だ。われわれは今後、ロボットの連携動作技術についての難関を攻略し、ロボット全体の使用率を高めていく。われわれは既に関連する国家重点研究開発プロジェクトにも参加している」と語った。

 SF映画は、現実の産業基盤とテクノロジーの発展に根ざすとともに、科学技術の進歩に合理的かつロマンチックな空想を提供している。広東工業大学機電工程学院スマート製造・ロボット研究所の管貽生所長は「これは国のテクノロジー力を反映している。ロボットは複数の専門分野と関係しており、工業製造の頂点で輝く宝石のようなものだ。高いロボット技術を持つ国ほど、テクノロジーの水準が高いことになる」との見解を示した。


※本稿は、科技日報「科幻中的工業移動機器人正走進現実」(2023年2月9日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。