【24-115】自己免疫疾患の治療に希望をもたらすCAR-T細胞療法
江 耘(科技日報記者) 2024年12月16日
浙江大学医学院付属児童医院が主導した「CD19(リンパ球の発生、活性化、分化の調節に関与するシグナル伝達分子)を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法による難治性小児全身性エリテマトーデス(SLE)治療」の臨床研究がこのほど、20人目の患者へのCAR-T細胞の輸注完了に伴い、無事終了した。
同医院の副院長を務める腎泌尿センターの毛建華主任は「これは現時点で世界最大規模のCAR-T細胞療法による難治性小児SLE患者の治療研究となった。この療法により、他の自己免疫疾患を治療することもできるという確信が強まった。現在のところ20人の患者にはいずれもアレルギー反応は出ていない」と説明した。
T細胞と呼ばれるTリンパ球は、免疫系で最も重要な細胞の一つだ。新興治療技術であるキメラ抗原受容体T細胞療法(以下「CAR-T細胞療法」)は、患者からT細胞を採取して改変した後、これらの細胞を再び患者の体内に戻すことで、それらが標的抗原を持つ疾患細胞を認識し、攻撃する治療法だ。このような改変されたT細胞は、体内で持続的に増殖するため、長期間にわたる治療効果が得られる。
毛氏は「現在、CAR-T細胞療法は主に、再発または難治性の急性リンパ性白血病(ALL)や非ホジキンリンパ腫といった、B細胞関連の血液系がん治療に応用されている。近年は固形がんや自己免疫疾患の治療にも徐々に用いられるようになっている」と述べた。
CAR-T細胞療法は臨床現場では、T細胞の採取量が足りない、T細胞の機能に欠陥がある、毒性や副作用が大きい、治療費が高額といった難題に常に直面している。身体的理由や治療の需要などが原因で、患者自身のT細胞の採取が困難という患者もいる。このような患者は、他家CAR-T細胞療法を検討することができる。同療法では、健常者ドナーから採取したT細胞を改変して作り置きされたCAR-T細胞が使われる。他家CAR-T細胞療法は、患者自身のT細胞の数と質の影響を受けることはなく、作製の成功率も高いため、治療費が下がると見られている。
浙江大学医学院付属児童医院は、他家CAR-T細胞療法を採用し、CAR-T細胞療法の研究を、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎やステロイド抵抗性ネフローゼ症候群、強皮症といった他の自己免疫疾患にも拡大させる方針だ。関連業務は既に、倫理審査をクリアしているという。
CAR-T細胞療法関連の研究は近年、多くの成果が上がっている。概算統計によると、中国内外では現在、CAR-T細胞療法を自己免疫疾患の治療に応用する臨床研究が20件以上実施されている。中国では、CAR-T細胞療法関連の製品数種類が承認され、成人の再発または難治性のマントル細胞リンパ腫(MCL)、再発または難治性の多発性骨髄腫などの疾患の治療に使われている。
中国人民解放軍海軍軍医大学の徐滬済教授が筆頭となり、華東師範大学と浙江大学医学院第二付属医院の研究チームと共同でまとめた科学研究論文が今年7月、国際的学術誌「セル」に掲載された。同チームは、ゲノム編集の最新ツール「CRISPR-Cas9」を使って、健常者ドナーから採取したCD19を標的としたCAR-T細胞を遺伝子改変して、次世代他家CAR-T細胞療法を開発し、自己免疫疾患のリウマチの患者3人の症状を効果的に改善させることに成功した。同研究により、他家CAR-T細胞療法は、有効性や安全性といった面で大きなポテンシャルを秘めていることが明らかになった。
ただし毛氏は「CAR-T細胞療法は、一部の分野で顕著な治療効果が得られているものの、決して万能薬ではない。その治療効果は、患者の病情や治療法、個人差といった要素の影響を受ける。今後は、臨床研究と基礎研究を組み合わせることを重視し、治療法を改善し続け、さらに多くの患者に利益をもたらすようにする必要がある」と指摘した。
※本稿は、科技日報「CAR-T细胞疗法为免疫疾病治疗带来新希望」(2024年11月26日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。