科学技術
トップ  > コラム&リポート 科学技術 >  File No.23-02

【23-02】資金投入体制を整備し、基礎研究発展をサポート

張 鶴 (中国人民大学財政金融学院准教授) 2023年01月19日

image

画像提供:視覚中国

 中国共産党第20回全国代表大会の報告は、「基礎研究を強化し、オリジナリティを際立たせ、自由に模索することを奨励する。テクノロジーへの資金投入の効果を高め、財政によるテクノロジー経費の分配・使用メカニズム改革を深化させ、イノベーションの活力を活性化する」と強調している。

 2012年の中国共産党第18回全国代表大会以来、中国の基礎研究とオリジナルイノベーションの能力は増強され続け、一部の重要コア技術のブレイクスルーが実現している。基礎研究への資金投入を見ると、2013--21年、年平均15.4%のペースで増加した。また、国家自然科学基金を通して科学研究プロジェクト43万件を資金援助し、資源配置がさらに合理的になっている。しかし、中国にはまだ基礎的研究への資金投入は依然として不足しており、資金投入体制のさらなる整備が待たれるといった問題が存在する。世界で100年に1度の大きな変局に直面し、資金投入体制をさらに整備し、科学研究者が自由に研究を行えるよう奨励し、中国がテクノロジー強国、イノベーション大国となることができるよう一層努力すべきだ。

複数措置を並行して講じ、基礎研究への資金投入ルート拡大を

 基礎研究は公共財としての属性が非常に強いため、世界各国の政府が資金投入に非常に力を入れている。しかし、トップダウン方式の行政主導のスタイルだけでは、「イノベーション型国家」建設という目標を達成することはできない。そのため、財政・税収政策、経済レバレッジ、管理体制などの革新を通して、企業、科学研究当局、科学研究従事者が基礎研究に積極的に従事するよう誘導することこそ、問題解決のカギとなるのだ。

 まず、産業ニーズを方向性とした基礎研究協力計画を制定し、基礎研究機関を設立し、企業の資金を呼び込み、中央財政の基礎研究への資金投入を効果的な補完とするべきだ。また、企業がニーズを出すとともに入札を行い、大学と科学研究機関が競争入札を通してプロジェクトを獲得できるようにする。国は、プロジェクトの重要性に基づいて、必要な資金と政策を提供して、「大学、研究機関--産業--政府」という三重らせん構造を形成し、各種組織・機関が交互的な連携と有機的な連携により基礎研究を展開することもできる。

 次に、包摂型と特恵型が並行する税収優待政策を実施すべきだ。税収優待策は、異なる発展の段階や所有制のタイプ、地域、業界によって、企業に異なる影響を与える。中国は現在、主に研究開発費用加計控除や固定資産加速減価償却、免税といった方法で、特定のグループに対して特恵型の所得税優待政策を実施している。それ以外に、付加価値税の税率引き下げといった、包摂的な付加価値税税収優待策導入も検討すべきだ。なぜなら、企業は、減税優待を受けた後、節約できた資金を研究開発活動に投入し、価格交渉力を高めることによって、サプライチェーンにおいてさらに大きな発言権を持つようになるからだ。このほか、ハイテク企業の中で割合の高い民間企業や発展のペースが遅い中・西部地域を対象に、政策を適切に傾斜させるべきだ。

 さらに、財務レバレッジを活用する。今年11月に中国政府が発表した「中央企業(中央政府直属の国有企業)のテクノロジーイノベーション公司債権発行支援に関する通知」は、各種金融資源が加速しながらテクノロジーイノベーションの分野に集中するよう誘導することを目的としている。しかし、現時点では、中央企業のテクノロジーイノベーション公司債権発行、融資だけを支援しているが、今後は、債権市場をさらに規範化し、企業の直接融資ルートを拡大し、中・小型民間企業への支援を強化することができる。

 最後に、ベンチャーキャピタル(VC)の方向性を合理的に誘導することだ。中国に集中しているVCによる投資額は米国に次ぐ世界2番目の多さとなっている。しかし、中国大陸部のVCによる投資は国有系企業をメインとしており、民間資本は活発ではない。投資の方向性も、VCの本質からずれており、初期の中小型ハイテク企業に流入した資金は非常に少ないのに対して、成熟して近い将来上場する企業には大量に流入している。さらに、話題集めのためのコンセプトプロジェクトに投じられている資金さえある。そのため、制度と政策を通して、VC市場をさらに規範化し、多元化した投資者を呼び込み、寄付基金、投資銀行、ノンバンク金融機関、大手企業、銀行持株会社(BHC)、保険会社、海外の投資家といった投資を統合し、ミドルステージの企業、事業拡張期のテクノロジー企業に、資金が向かうよう誘導し、資金が基礎研究を行っている企業に流れるように誘導する。

基礎研究に長期間、安定した資金サポートを

 中国は建国初期に、ソ連の「プロジェクト制」を参考にして、高度計画型の科学研究体制を構築した。その後、改革開放(1978年)に伴い、中国のテクノロジーへの資金投入は、「計画制」から、次第に競争的な科学研究プロジェクト経費配置スタイルへと移行した。このようなスタイルは、科学研究経費の使用効率を大幅に向上させ、個人と団体の研究に対する積極性を呼び起こすことができることに疑問の余地はない。しかし、科学研究経費をめぐる過度の競争や科学研究の断片化、分散化といった弊害をもたらしたことも事実だ。このほか、一部の分野では、短期的な効果に注目する現象が依然として存在し、往往にして、一定期間内に申請したプロジェクトや発表した論文の数などを通して、科学研究者の評価を行い、こうした指標と、奨励・出来高、職階・昇進などを紐づけている。そのため、多くの科学研究者は、評価に対するプレッシャーや昇進・昇給などのために、短期間のうちに成果を挙げやすい研究に傾斜しがちになり、時間がかかり、多くのエネルギーを費やさなければならず、確実に成果が出るか分からない基礎研究は敬遠しがちだ。

 そのため、科学研究者が基礎研究とオリジナルイノベーション創出に取り組むことができるよう、多くの先進国は、長期的視野に立ち、安定して支援する包摂型の資金サポートスタイルを採用している。また、資金源を多様化し、失敗に寛容な姿勢を示すと同時に、資金が創造性ある活動にサービスを提供するようにして、科学研究者の不安と懸念を取り除いている。そして、科学研究者がプロジェクト申請のために多くのエネルギーを費やしたり、プロジェクトを請け負うために、科学研究任務と関係のない仕事をしたりする必要がないようにしている。海外のノウハウを参考にして、中国も長期的視野に立って、基礎研究に対して、安定して包摂的な資金支援を提供する必要がある。こうしてはじめて科学研究者は、他の事に気を取られることなく、長期にわたって基礎研究に没頭することができるのだ。


※本稿は、科技日報「完善資金投入体系,助力基礎研究発展」(2022年11月30日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。