【22-31】20大を終えた中国が向かう先
2022年11月11日
富坂聰(とみさか さとし):拓殖大学海外事情研究所 教授
略歴
1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。
著書
- 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
- 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
- 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数
中国共産党第20回全国代表大(20大、もしくは党大会)会が閉幕し新しい最高指導部の顔ぶれも出そろった。だが秋の中国には、当初期待されたような晴れやかな空気は戻ってきてはいないようだ。
「やっぱり、新型コロナウイルス感染症の影響がダラダラと続いてしまっていることが大きいですね。外国への扉も、相変わらずオープンにはなっていません。党大会が終わったら一気に動き出すという期待も萎んでしまいました。そのことが社会を停滞させていることは明らかです。とにかく経済を良くしてほしい」と北京の会社経営者は嘆く。
そんな中国のネットではいま、一つのキーワードが注目を浴びている。
中国語で「空格」。「スペース」と訳されるが、習近平国家主席を指す隠語だ。書き込みが削除されるから空白だ。
この「空格」はいまもう一つの意味でも注目されている。国務院の「空格」だ。来春まで人事が動ないことを受け、経済対策が空白になるのでは、という懸念を示している。
景気対策もそうだが、動的ゼロコロナも「党大会が終わったから終わるかも」という人々の期待には応えられていない。
そもそも中国にはゼロコロナ以外の選択肢はないのだから仕方がないのだが、国民のなかに溜まったモヤモヤを少しでも早く解消する対策は必要だろう。
ただ、短期的な問題はあるとしても一つの長期目標を定めて着々と前進する中国共産党の勢いは、あらためて20大で見せつけられた。
日本では、台湾問題と胡錦涛元国家主席の強制退席の問題ばかりに光が当てられたが、本来、党として最も力を入れて打ち出していたのは「中国の現代化」だった。「中国の現代化」は6中全会(中国共産党第19期中央委員第6回全体会議)でも触れられた言葉で、今回が初出というわけではないが、今後中国が今世紀の中葉に向けて発展してゆく、その大きな方向性を示したという点で注目すべきテーマだろう。
大雑把に解釈すれば、前例のないレベルの現代化に挑む大国の指針だ。
興味深かったのは最高指導部人事が整い、新たな外交がスタートして迎えたドイツのオラフ・ショルツ首相との首脳会談でのやりとりだ。
習近平国家主席は、会談の席で、党大会の意味をとうとうと説明し始めたのだが、そのときに、やはり焦点を当てたのは「中国の現代化」の意義についてだった。
以下、その内容だ。
「どの国の人々も現代化を目標として期待しているが、それぞれの状況に応じて進む道を選ぶべきである。中国の現代化は各国の現代化に共通する特徴も持つが、国情に基づいた中国のより特色にあふれている。
これは中国独自の客観的条件により決定され、中国の社会制度と国政理念より決定される。また現代化を実現するための長期にわたる実践で得られた規則性によって決定されている。
中国は一貫して自らの発展によって世界の平和を守り促進している。中国の発展と世界の発展は互いに融合し支え合っている。今後も中国はハイレベルな対外開放と、経済のグローバル化を堅持し、オープンな世界経済の構築に推進し各国の利益を拡大してゆく」
誤解を恐れずに意訳すれば、中国の現代化の道のりは独特であり、西欧型とは違うものになる。しかし、それは我々自身がよくよく考えて選んだ道だから理解してほしい、となるのだろう。
では、どう独特なのか。
中国の謝鋒外交副部長(外務次官)は、「中央企業と連携、世界と対話」というイベント(11月2日)で行った基調演説のなかで、「中国では、現在の先進国の人口の合計を上回る14億人余りの人口全体が現代化社会へと邁進している。中国は世界の耕地の9%、淡水資源の6%で、世界の人口の20%近くを養わねばならず、既存のモデルには踏襲できるものがない」と言い切っている。
また同時に、「国際社会の一部は中国の制度と手法を『権威主義』だと中傷しているが、これにはまったく事実の根拠がない」と不満も漏らしている。
中国の現代化がどんなものになるのか、現状では具体的な姿は見えてきていない。しかし、明らかに中国が一つの現代化のモデル、発展のモデルを示そうとしていることに疑いはない。
それを「権威主義」を苗床とする「誤ったモデル」と切り捨てるのは簡単だが、一方で現在の世界は一つのモデルしか持たず、制度疲労に陥っている。中国の提案するモデルにきちんと目を向けることがあっても良いはずだ。
少なくとも世界はかつて「民主化なき発展」を完全否定していたのではなかったのか。
富坂聰氏記事バックナンバー:
2022年06月15日 コロナ禍のなかで進められた強い中小企業の育成