【19-15】東アジアのメタン放出量中国9割 国立環境研究所など分布地図公表
2019年6月21日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
二酸化炭素(CO2)に次いで影響の大きな温室効果ガスとされるメタンの放出量がアジア地域全体で年平均6,731万トンと全世界の放出量の約13%に相当することが、国立環境研究所と海洋研究開発機構の研究で明らかになった。このうち中国から放出される量が約92%を占める。温暖化対策において東アジア地域、とりわけ中国の重要性があらためて示された形だ。2015年12月に採択された気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定「パリ協定」は、各国に温室効果ガスの削減目標を作成し、目標達成のため国内対策をとる義務を課している。今回の研究結果は、各国の目標達成状況を把握する上で役立つ、と国立環境研究所は言っている。
メタンはCO2同様、工業化が進んだ18世紀後半の産業革命以降大気中に含まれる量が増え続けていることが、南極氷床の研究や大気の観測から分かっている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書(2013年)によると、大気中の平均濃度が工業化(産業革命)前は、722ppb(10億分の1)だったのが2011年には1,823ppb、に増えている。これは年平均4.8ppb増え続けていることを示す。
同じように産業革命以降、増え続け、温暖化に最も大きな影響を及ぼすと考えられているCO2に比べると、大気中の平均濃度は200分の1以下。しかし、温室効果は同じ重量のCO2に比べ、20年間でみると84倍、100年間でみると28倍も高いとされている。産業革命以降の大気中の増え方もCO2の伸び約1.4倍に比べ2.4倍と大きい。大気中の量はCO2よりはるかに少ないものの、温暖化に及ぼす影響はCO2に次いで大きいといわれる理由だ。
一方、発生源ごとの放出量など詳しい研究の蓄積はCO2に比べ少なく、温暖化の実態解明や予測に大きな不確実さを残す要因となっている。国立環境研究所と海洋研究開発機構の研究は、発生源ごとの放出量を放出モデルや統計データを用いて算出し、アジア地域の放出分布地図を作成した。
東アジアにおけるCH4放出(自然+人為起源の合計)分布とその内訳(2000-2012年平均)
(国立環境研究所と海洋研究開発機構プレスリリースから)
研究の結果、2000年から2012年の年平均で、東アジアの自然起源によるメタンの放出量は753万トン、人為起源放出量は5,978万トンで合計6,731万トンとなった。発生源別では、人為起源が全体の88.5%を占め、自然起源を大幅に上回った。年々の変化を見ると、1990年代には年間6,120万トンだったのが、2012年には7,800万トンと約30%も増えている。合計放出量を国・地域別でみると、中国が6,170万トンと飛び抜けて多く、東アジア地域全体の91.7%を占める。2位以下は日本(191万トン)、韓国(145万トン)、北朝鮮(97万トン)、モンゴル(75万トン)、台湾(37万トン)、香港(15万トン)となっている。
東アジアにおけるメタン放出・吸収推定結果(2000~2012年平均)
(国立環境研究所と海洋研究開発機構プレスリリースから)
研究の対象となった東アジア地域は、世界のメタンの放出状況を知る上で、重要な地域とされている。森林から乾燥地までさまざまな生態系を含むため、突き止めにくい自然起源のメタン放出量と吸収量を調べるのに好都合な条件を備えているからだ。自然起源では、酸素を使わず有機物からエネルギーを得ている微生物の働きで多量のメタンが生成される湿原、植物繊維を分解してメタンを作り出す微生物を腸内に持つシロアリが生息する地域、不完全燃焼によってメタンが放出される火災がそれぞれ発生源となる。逆に森林、草原、砂漠は、土壌内のメタン酸化菌の働きでメタンを吸収する地域となっている。
さらに、化石燃料採掘や都市活動、農畜産業、廃棄物といった人為的な原因による放出が加わる。ガス田やパイプラインからの漏出や、人工的な湿原といえる水田や、反すう動物である牛、羊が、メタンの大きな放出源となるわけだ。国立環境研究所と海洋研究開発機構の研究は、生物や環境条件を考慮して微生物によるメタンの生成と、大気への放出を算出するモデルを用いた評価で自然起源の放出量を求めた。人為起原については、エネルギー使用や農業に関する統計情報にいくつかの補助的データを加えて算出している。
2000~2012年の年平均放出量6,731万トンのうち最も多いのは、化石燃料採掘に伴うものだ。年平均1,733万トンで全放出量の25.7%となる。次いで多いのは、水田・農業に起因する1,584万トン(全放出量の23.5%)。以下は、廃棄物・埋め立て地からの1,077万トン(16.0%)、家畜から吐き出される1,034万トン(15,4%)、湿原からの943万トン(14.0%)、産業・輸送・都市活動に起因する550万トン(8.1%)となっている。
東アジアにおけるCH4放出・吸収の年々変動とその内訳.2013−15年の人為起源放出はCO2とCH4の放出比に基づく推定のため総量のみ表示
(国立環境研究所と海洋研究開発機構プレスリリースから)
大気中に含まれるメタンの量は、南極氷床データの分析と大気中濃度の観測結果から産業革命後に増え続けていることが分かっている。ただし、1990年代に入ったころから顕著に増加速度が鈍り、一時は減少に転じ、2007年ごろから再び増加している。国立環境研究所、宇宙航空研究開発機構などが開発した温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」が2009年から続けている観測結果からも、2009年以降、地球大気中のメタンは増え続けていることが確かめられている。ただし、近年、見られるこうした10年規模の変動原因は今回の研究でも分からず、研究チームは「今後さらなる研究が必要」と言っている。
関連サイト
国立環境研究所、海洋研究開発機構プレスリリース 東アジアのメタン放出分布をボトムアップ手法で詳細にマップ化(お知らせ)
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