高橋五郎の先端アグリ解剖学
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【21-07】第18回 中国食品関連ゲノム編集技術の変化―CRISPR9以降のCRISPR技術の応用―(1)

2021年09月09日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会前会長
研究領域 中国農業問題全般

はじめに

 筆者はこの方面の専門家ではないので、専門用語をさまざまな媒体を駆使して調べてみたが、分かりやすく解説してあるものはほとんどなかった。

 筆者のような中国農学研究者にとって、食料生産や加工の技術変化は中国農業・食料部門を研究するうえで非常に重要なファクターであり、実態の動きになんとかついて行こうと思っているのだが、技術の変化のスピードはまことに早い。

 ゲノム編集とはDNAの塩基配列(塩基は4つ=A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン。配列とは塩基の並び方。配列によって遺伝子DNAの基本情報が決まる)を人為的に改変することをいう。DNAとRNAは強く結びついており、RNAはDNAの遺伝情報を写し取っており、その情報を他に伝達する。mRNAはその一つでメッセンジャーRNAとされている。

 その遺伝情報を伝達する核酸(DNA/RNA)を切断(ノックアウト)と導入(ノックイン)する役割を持つのがさまざまな酵素で、この酵素をヌクレアーゼという。CRISPR/Casはヌクレアーゼの一種であり、以下に説明するCas9、Cas12、Cas13などがある。

 ただし、問題は改変の意図・目的を実行するには人の手が直接持つハサミやピンセットでは無理で、ヌクレアーゼを使って行う改変の意図・目的を実行するための目標となる核酸の特定をしなければならない。この作業は人間の手では無理なのでヌクレアーゼを核酸の該当部分を探し、送る物質が必要。その配達先を知る運送業の役割を持つ物質をガイドRNA(gRNA)という。そこに着いたら、いよいよヌクレアーゼの本来の出番だ。

 なおDNAには二本鎖DNA(double-stranded DNA:dsDNA:二重らせん構造を持つDNA。二本の相互補完的な塩基配列を持つDNA鎖が互いに逆向きに結合したもの)と一本鎖DNA(Single-stranded DNA:ssDNA。塩基配列は一本)がある。

 また意図した箇所の改変が常に問題なく実行できるとはかぎらず、失敗することがある。これをオフターゲットという。これを避けるためにも、ゲノム編集技術はCas9から次の世代へと発展した。

 さて、前稿回 を受けて、本稿は中国食品関連ゲノム編集技術の現状について次回と分けて述べたい。本稿では、CRISPR/Cas12、CRISPR/Cas13などの技術を使ったゲノム編集がどのような場面で活用されているか、その概要を掴んでみたい。

 最初に、本稿理解の一助のためにCRISPR/Cas9、CRISPR/Cas12、CRISPR/Cas13の基本的な違いを整理しておきたい。

1. 各CRISPRの特徴について

(1)CRISPR/Cas9

 最初で最も特徴的な単一タンパク質CRISPRエフェクター。Cas9は、平滑末端二本鎖DNA(遺伝子)切断を行う。非相同末端結合(DNA二本鎖切断のDNA修復メカニズムの一つ)またはドナーテンプレートDNA(遺伝情報を染色体に移行するDNA分子)との相同組換えのいずれかによって修復され、部位特異的な編集ができる。

 これらのうちタイプII-ACas9は一般に高いゲノム編集効率を持つが、意図しないゲノム部位でのオフターゲット切断が起こるリスクがある。そこで様々な手段がこれらの制限を克服するように設計されているが、タイプII-CCas9は、当然、より高い実効性がある。

(2)CRISPR/Cas12

 Cas12は、二本鎖DNAにずらした切断をするコンパクトで効率的な酵素。Cas12は独自のガイドRNA(メッセンジャーRNAとしてコロナワクチンで有名に。遺伝やタンパク質合成を支配するリボ核酸。gRNA)を処理し多重化能力が高い。混合物中の少量のターゲットDNAを検出するための強力なツールである。Cas9に比べ、効率的といえる。

(3)CRISPR/Cas13

 Cas13は、エピゲノム編集(DNA塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現制御方法)のプラットフォームとしても設計、DNAではなくRNAをターゲットにするCRISPRの世界では異端児ともいえる。

 crRNA配列(CRISPRが転写された後のリボ核酸)に相補性を持つssRNA配列(一本鎖リボ核酸配列―Cas9は二本鎖)によって活性化されると、非特異的なRNase(リボヌクレアーゼ:遺伝情報の担い手である生体内物質の核酸を分解する酵素の総称)活性を解き放ち、配列に関係なく近くのすべてのRNAを切断する。この特性は畜産物を含む哺乳類細胞での効率的で多重化可能な特定のRNA切断やRNA配列編集に使用できる。

 Cas13は、ゲノム配列を変更せずに遺伝子発現に影響を与えるための潜在的に重要な手段となる。

 以上簡単な情報を比べただけであるが、ゲノム編集技術で最新のCRISPR技術は複雑さを増していることがうかがわれよう。(以上"RESEARCH ARC"から訳出し、テクニカルワードには筆者が解説を加えた)。

 表1はそれぞれの補足的情報を一覧にしたものである。同表には、上掲にはないCas14を加えてあるので参考にされたい。

表1 各Casの特徴
出所:funakoshi「ゲノム編集」2021.6から筆者作成。
注:DNA:遺伝子デオキシリボ核酸。RNA:リボ核酸。DNAを鋳型として遺伝子情報を伝達、タンパク質の合成をする。
dsDNA:二本鎖DNAのこと。
ssDNA:一本鎖DNAのこと。
ssRNA:一本鎖RNAのこと。
tracrRNA:Trans-activating Criapr RNAの略語。標的の配列に誘導するRNA。
  Cas9 Cas12 Cas13 Cas14
編集の主な標的 dsDNA ssDNA/dsDNA ssRNA ssDNA
必要なPAM配列の制約 要求が高い 中程度 要求が低い なし
tracrRNA 必要 必要 不要 必要
分子サイズ 大きい 大きい 大きい 小さい

 同表によるとCRISPRによるゲノム編集技術は日進月歩であり、目を見張るほどとの感想を持たざるを得ない。4つのCasを比べると、子細な差異はともかく、9よりも10、10よりも12、12よりも13というように、数字が増えるにしたがって、ゲノム編集技術が進歩しているように見えるのだがどうであろうか。

2. 中国のCRISPR/Cas9の後

 CRISPR/Cas10以後のゲノム編集技術には多様な目的がある。今回は、それらのうち2つを取り上げ、やや詳しく紹介する。

 以下は筆者が収集した、これに該当する中国のゲノム編集技術である。◆印のついた2つは、中国で発明特許を取得したものである。

①CRISPR/Cas13を使ったSPVD耐性サツマイモの育種方法

②CRISPR/Cas13aタンパク質に基づいて、アフリカ豚コレラウイルスを迅速に検出する方法

③◆CRISPR/Cas12a技術に基づくリンゴ茎溝ウイルス視覚的検出システムおよび検出方法

④Cas12aタンパク質、植物ゲノム指向性編集ベクター(遺伝情報の運び屋)、およびTTTVおよびTTVの二重PAM部位を同定する方法

⑤食品媒介病原体の核酸ナノ蛍光トレースを検出するためのCRISPR/Cas13aベースの方法

➅ガチョウ由来のアストロウイルス核酸(RNAウイルス)CRISPR/Cas13a検出システムとRPAプライマーペアおよびcrRNA

⑦◆CRISPR/Cas13dシステムに基づくsgRNA高効率作用ターゲットのスクリーニング方法とその応用

3. Cas12、13の事例

(1)CRISPR/Cas13を使ったSPVD耐性サツマイモの育種方法

 本ゲノム編集技術はバイオテクノロジーおよび植物保護学の分野に属し、より具体的には、SPVD耐性サツマイモ(サツマイモ複合ウイルス病耐性サツマイモ)を有する育種方法に属する。

 本技術はSPVD耐性サツマイモを育成するための育種方法であり、上記の方法に基づいて、対応するCRISPR/Cas13ベクターを構築し、農業株EHA105によるサツマイモの浸潤治癒と分化誘導を行い、SPVD耐性を有するトランスジェニックサツマイモ株を得た。そして材料混合、毒源グラフト実験、毒昆虫感染などの方法により、トランスジェニックサツマイモの耐性を系統的に検証した。

 検証結果は、SPVDサツマイモ複合ウイルス病耐性を有するトランスジェニックサツマイモを生成するためのこの技術は、SPVD耐性を有する新しい種子を作成するために、他の品種や栽培種のサツマイモにも使用できることを実証した。

 やや詳しく説明すると、RfxCas13d(CRISPR/Cas13変異体)および標的SPCSV RNase3(ヌクレアーゼの一種)の特異的配列を用いて、サツマイモ複合ウイルス病(SPVD)に対するサツマイモの栽培耐性を向上させるための分子育種スキームを考案した。

 その内容は、RfxCas13dタンパク質と標的ウイルスコアタンパク質SPCSV RNase3の核酸配列に基づいて、SPCSV RNase3を標的とするサツマイモ安定化遺伝子形質転換ベクターを設計・構築し、胚性カルス細胞形質転換法によりイモ29を遺伝形質転換し、陽性形質転換株(細胞外部からDNAを導入し、その遺伝的性質をプラスに変えること)を得るというものである。

 自然培養条件、温室環境下での昆虫媒介接種ウイルスや培養室移植接種ウイルスなど、異なる検証方法により、SPCSV RNase3を標的とするRfxCas13d陽性サツマイモ形質転換植物が、同じウイルス感染条件下でSPVD発症過程における主要ウイルスSPFMVの複製を有意に抑制し、サツマイモSPVDウイルス病の予防と治療を実現し、また、本発明はサツマイモSPVD耐性を有するトランスジェニックサツマイモの作成に成功している。

(2)CRISPR/Cas13aタンパク質に基づいて、アフリカ豚コレラウイルスを迅速に検出する方法

 本ゲノム編集技術はCRISPR/Cas13aタンパク質に基づいて、アフリカ豚コレラウイルスを迅速に検出する方法であり、全く新しい技術である。

 またCas13aタンパク質の調製、RPA増幅に適したプライマーの設計および合成、Cas13aタンパク質に適したcrRNA(ガイドRNA:gRNAの前半部分(36塩基)のRNA)の設計および合成、RNAレポーター分子(ある遺伝子が発現しているかどうかを容易に判別するために、その遺伝子に組換える別の遺伝子)の設計および合成、陽性粒子の設計および合成、陽性粒子の調製、増幅検出システムおよび検出の調製を含む。

 この方法は、アフリカの豚コレラウイルスDNAを迅速かつ正確に同定することができ、操作が容易であり、PCRのような温度変化装置による増幅検出を必要とせず、37°Cで等温増幅を行うだけで検出を完了することができる。

 アフリカ豚コレラ(African swine fever:ASF)は、アフリカ豚コレラウイルス(African swine fever virus:ASFV)によって引き起こされる豚の伝染病である。

 アフリカ豚コレラは急速に広がり、致死率が高く、養豚産業に深刻な被害をもたらし、世界動物保健機関(OIE)によって報告を必要とする動物疾患として分類され、動物疾患の一種とされている。これまで中国をはじめアフリカ、ヨーロッパ、アメリカなど数十カ国で発生している。特に中国では2018以降、深刻な被害をもたらした。

 アフリカ豚コレラウイルスは、有効なワクチンや医薬品がない。さらに、アフリカ豚コレラウイルスは生命力が強く、今後も拡大を引き起こす可能性が非常に高いと見られている。

 したがって、アフリカ豚コレラウイルスの簡単で迅速かつ正確な検出方法を確立する必要があった。現在、アフリカの豚コレラウイルスの検出方法は、主に免疫検査と分子検査しかない。

 免疫検査、すなわち抗体と抗原酵素結合免疫吸着検査、血清抗体の検出への適用、操作の容易さ、感度が高いという特徴を持ち、また大量試料の検出に適している。

 世界動物保健機構は、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay は、試料中に含まれる抗体あるいは抗原の濃度を検出すること。酵素結合免疫吸着検定法や酵素結合免疫吸着法などの訳語がある)をASFの診断のための好ましい血清学的方法として用いている。分子検出は、主にPCR法であり、現在、アフリカにおける豚コレラウイルスの最も一般的な実験室検査方法となっている。

 このような血清学的方法による抗体の検出は、ウイルス感染および疾患の発生および発達の経過を把握できるが、抗体はウイルス感染が一定期間まで続くため、一部の豚コレラは急速に進行し、発症後も抗体は出現しない。したがって、抗体検出は、アフリカ豚コレラのアウトブレークを迅速に制御する方法として制限があった。またPCR検査はアフリカの豚コレラ病原体検出の重要な方法となっている。

 PCRは高価な機器を必要とし、実験会場や人員に対する要求が高い。したがって、これらの問題を解決するために、新しい技術プログラムが緊急に必要とされていた。

 本ゲノム編集技術は、その代替効果を持つ技術である。(以下、次稿)

主要参考文献:

  • JST『俯瞰報告書ライフサイエンス臨床医学分野』(2021)。
  • Funakoshi『ゲノム編集』2021, 6。
  • RESEARCH ARC "CRISPR Systems: What's the Difference?"
  • 中国知産権局HP.