【24-41】AIが従来の検索エンジンに取って代わる存在に?(その2)
呉純新(科技日報記者) 2024年05月08日
AI(人工知能)技術の発展に伴い、「AI+検索エンジン」が新たな競争の場となり、各大手メーカーが次々と参入している。グーグルやマイクロソフトといったテクノロジー大手が既に参入しており、スペインメディアは関連記事を掲載して、検索エンジンとAIの関係について分析している。では、AIが従来の検索エンジンに取って代わることがあり得るのだろうか?
(その1 よりつづき)
最強の競争相手が長期にわたり併存する可能性も
現在、AIをはじめとする新たな技術革命の波が押し寄せており、検索エンジンを運営する企業は、長期的な視点で、その競争に資金をできる限りつぎ込んでいる。これらの企業は豊富な計算能力、データ、アルゴリズム、人材資源を持っているため、コアコンピタンスの面で大きな強みがある。
検索エンジンに大規模言語モデルが搭載されると、利用者とさらに対話できるようになるが、データクローリングやデータ整理といった面では、グーグルを含む従来の検索エンジンに及ばず、提供される検索結果に利用者が満足できないことが多い。
北京大学武漢人工智能研究院で副院長を務める馬修軍教授は「『AI+検索エンジン』のメリットは、広告がないため利用者が広告だらけの表示画面から必要な内容を苦労して探す必要がないことだ。そのような検索スタイルは、コンテンツのクオリティや対話スタイルなどの面で大きな強みがあるものの、依然としてデメリットも存在しているため、従来の検索エンジンに取って代わることはできない。検索エンジンは信頼度がカギであるが、AIはハルシネーションやプレトレーニングを実施した当時のデータが古くなるといった問題で、信頼度が影響を受け、答えが正確でなかったり、間違っていたりするという可能性もある。これが現時点での『AI+検索エンジン』の最大のウィークポイントとなる」と指摘した。
AIのハルシネーションの問題を解決するために、企業は回答を表示する際に情報源も表示するなどの努力を払っているが、その問題を完全には解決できないことが、これまでのテストで分かっている。
そのため、馬氏は「大規模言語モデルや生成系AIの価値は非常に高く、検索の分野にたくさんの新たな体験をもたらしているが、短期的には、市場に変革をもたらし、グーグルをはじめとするテクノロジー界大手の立場を揺るがすまでにはまだ至らないだろう」と認識している。
業界の専門家は、これまでグーグルとヤフーが共存してきたように、短期的には、ChatGPTのような対話型AIと、グーグルなどの従来の検索エンジンが共存する可能性がある。将来的にAIが従来の検索エンジンに取って代わるようになるかについては、時間が経ってみなければわからないとの見方を示している。
AI検索の競争に加わる中国企業
「AI+検索エンジン」という競争の場において、中国企業も事業を展開し始めている。
2023年8月、北京のインターネット企業・崑崙万維(クンルン・テック)は「天工AI検索」を発表した。これは、何度かの言葉のやり取りを通じて、正確かつ効果的でインタラクティブな情報を利用者に提供しようとするもので、従来の検索に存在する情報の一般化や冗長性、広告が多いといった課題を解決しており、検索の効率を大幅に高めている。
百度検索の関係者は「2023年8月にAIチャットサービス『文心一言』が一般公開され、百度検索の大規模言語モデルに基づいて構築したAI機能もリリースされた。百度が打ち出した『新検索』は、『究極の満足度』『おすすめの活性化』『複数回のインタラクション』という3つの特徴を備えている。『究極の満足度』とは、何かを検索した際、検索エンジンが大量のリンクを提供するのではなく、内容を理解し、文字や画像、動的グラフなどを生成し、マルチモーダルな回答を提供することだ。『おすすめの活性化』とは、利用者が関心を寄せる可能性がある話題をリアルタイムでおすすめをすることだ。『複数回のインタラクション』とは、ヒントを提供したり、調整を加えたりして、利用者の個別ニーズを満たすことだ」と説明している。
360集団は今年初め、大規模言語モデルを活用した検索ツール「360AI検索」のアップデート版をアンドロイドのアプリストアでリリースした。同集団の創業者である周鴻禕氏は「検索は、利用者が実際に必要なものであるが、今ある検索機能は使いにくい。利用者が探したいものは、1ページ目にはないことが多く、何ページもクリックしてはじめて、適切な内容を見つけることができる。一方、『360AI検索』は、AIアシスタントのようで、ヒットしたコンテンツにまず自ら目を通し、全てを見たうえで回答をまとめ、利用者に提供する」と述べている。
「AI+検索エンジン」は既に他の複数のシーンに応用されている。例えば、ネット通販大手「淘宝」は2023年9月、検索機能によるショッピングサポートをアップデートし、大規模言語モデルを応用した対話型の買い物アドバイス機能「淘宝問問」の内部テストを始めた。また、2023年12月には、ショート動画共有アプリ「抖音(中国版TikTok)」も、アプリ内のスマート検索機能「AI搜」のテストを始めている。この機能を使うと、商品や共同購入、利用者、動画などが並んで表示されるようになる。
※本稿は、科技日報「人工智能会取代传统搜索引擎吗」(2024年4月1日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。