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【22-33】低コストで開発周期が短いmRNA技術は新たな治療法革命をもたらすか

陳 曦(科技日報記者) 2022年08月30日

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画像提供:視覚中国

 mRNA(メッセンジャーRNA)はワクチンや医薬品の開発に活用でき、感染症予防やがんの免疫治療、タンパク質代替療法、ゲノム編集による遺伝性疾患治療などに応用されている。中国のバイオ医薬品企業は、独自に、または連携する形で新型コロナウイルスや帯状疱疹、狂犬病、インフルエンザ、結核、がんなどのワクチン及び治療薬の研究開発、mRNAワクチン及び関連産業チェーンの展開を行っている。

 世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、mRNAワクチンが大いに異彩を放つと同時に、mRNA技術の研究が、非常に注目度の高い分野となっている。実際には、2020年に新型コロナウイルスのmRNAワクチンが誕生する前から、mRNA技術は多くの医療分野で幅広く応用され、同技術関連の療法や製品が臨床段階に入っていた。

 百済神州(北京)生物科技有限公司(以下「百済神州」)は最近、深圳深信生物科技有限公司(以下「深信生物」)と戦略的提携に向け、合意したと発表した。「深信生物」は、固体脂質ナノ粒子(LNP)技術やmRNA医薬品の研究開発を得意とするテクノロジー企業で、今回の提携により、「深信生物」のイノベーション技術プラットフォームを活用してmRNA医薬品を開発する計画だ。

中継ぎ役という特殊性を持つmRNA

 天津大学薬学院の研究員・劉子川氏は、「mRNA技術を活用した治療法では、体外で合成したmRNAを人体の特定の細胞に送り込むと、mRNAは、細胞質において必要なたんぱく質に翻訳される」と説明する。mRNA技術を活用した治療法は、「セントラルドグマ」を通して、人体で目的のタンパク質表出、または抗原表出を誘導することにより、治療や免疫学的防御の目的を果たす。

 劉氏によると、mRNAはワクチンや医薬品の開発に活用でき、感染症予防やがんの免疫治療、タンパク質代替療法、ゲノム編集による遺伝性疾患治療などに応用されている。感染症予防・治療の分野を見ると、対応する病原体の抗原をコードするmRNAワクチンを接種すると、体内で特異性ある抗原表出のほか、細胞免疫と体液免疫を誘導でき、相応の抗体や免疫細胞が作られるよう刺激され、相応の病原体の侵入、感染を予防することができる。それに対して、がんの免疫治療を行う際、研究者は、腫瘍特異的抗原標的をコードしたmRNAを体内に送り込んで、腫瘍特異的抗原を翻訳して、免疫細胞に送ることにより、免疫系を活性化させる。すると、免疫系は、こうした抗原を表出したがん細胞を特異的に認識し、死滅させることができる。

 劉氏は、「さらにすごいのは、mRNAは理論上、すべてのたんぱく質を表出することができるため、たんぱく質が原因のほぼ全ての疾患の治療を模索することができる点だ。たんぱく質代替療法に応用することで、的を絞った治療の目的を達成することができる。たんぱく質代替療法は通常、希少単一遺伝子疾患の治療に用いられるが、体外で合成することが難しい一部のたんぱく質については、mRNAを利用して、人体をたんぱく質の加工工場にすることができる。理論的には、経済的に実現可能で、高い効果を見込める」と説明する。

 mRNAが各種疾患を治療することができる「マスターキー」となりえるのは、情報伝達の過程において中継ぎ役となる特殊な位置と密接な関係がある。遺伝情報の伝達の中間に位置するRNAは、遺伝情報と機能たんぱく質を連結する架け橋となり、情報(遺伝情報を保存)と機能(コードしたRNAの転写、ノンコーディングRNAの調整・コントロール)の両方の特徴を備えている。

 まず、mRNAが細胞内で翻訳されるとき、細胞核に進入する必要はない。DNA治療薬と比べると、宿主の遺伝子に組み込まれるリスクがない。化学修飾により合成し、そして蓄積・純化したヌクレオチドを利用したmRNAは免疫原性リスクも低い。また、多くの体外で合成することが難しいたんぱく質でも、全てをコード化して、mRNAによって体内で表出することができるほか、細胞外や標的受容体、循環器に分泌することもできる。そのため、mRNA療法は、一部の複雑な治療法を簡素化し、がんのワクチンやたんぱく質代替療法などの実現の難度を下げることができる。このほか、mRNA技術は、製品をスピーディーに生産できるというメリットもある。mRNAワクチンを例にすると、従来のワクチンよりも、研究開発の周期が短いほか、容易に配列を変えることができ、的を絞った個別化治療のために、迅速にアップデートすることができる。

 総じて言うと、mRNA技術は、プラットフォーム型技術で、複数の任意種類のたんぱく質を発現でき、コストが安く、治療薬の研究開発周期も短い。また、同じプラットフォームを繰り返し使用でき、異なるmRNA製品を生産でき、生産の品質管理と安全性を保証している。

mRNA療法の応用を後押しする2つの重点

 現在、mRNA療法の研究の重点は、特定の抗原のコードができるmRNA配列と、mRNAの送達システムの2つの部分に分けることができる。劉氏は、「mRNA療法は、特定の送達システムを通して、目的のたんぱく質コードを体内の細胞に送り込み、細胞がそれを取り込むと目的のたんぱく質に翻訳し、予防、治療の目的が果たされる。その2つの部分の技術の発展は、mRNA療法を応用するうえで、重要な推進的役割を果たす」と説明する。

 mRNA医薬品を開発するうえで、まず直面する難関は、修飾されていないmRNAは、免疫原性リスクが非常に高く、医薬品にするのは難しいという点だ。米ペンシルベニア大学の科学者2人は、mRNAのヌクレオチドを修飾した後、細胞へ送り込むと、自身の組織がmRNAを「敵」と認識するのを避けることができ、それを基礎にしてその後のmRNA医薬品の研究を進めなければならないことを発見した。

 劉氏は、「mRNAは、安定性をキープし、送達の過程で、分解されないようにすると同時に、必要なたんぱく質に正確に翻訳されるようにしなければならない。mRNAの『キャッピング・ポリアデニル化』の保護や配列の最適化、核酸修飾技術などを通して、mRNAの安定性と翻訳の効率を高めることができる。しかし、mRNAが単独で細胞内に進入すると、存続が困難であるほか、配列の最適化や核酸修飾、『キャッピング・ポリアデニル化』などのmRNAに対する保護作用も限られているため、送達システムを活用して、mRNAを細胞外から細胞内へと迅速に送り込む必要がある」と説明する。

 そして、「送達システムとmRNA分子が結合するためには、全身注射の際、血清において異化しないようにして、mRNAがスムーズに標的細胞に接触し、封入体の形式で、エンドサイトーシスを通して細胞に進入できるようにしなければならない。しかし、封入体が細胞質に入ると、直接リソソームに送り込まれ、分解されてしまう。そのため、送達システムは、封入体が分解される前に、封入体の中のmRNAを放出するようにしなければならない。mRNAが細胞質に入ると、細胞リボソームの作用で、必要なたんぱく質ができる」と説明する。

 さらに、「そのため、誰が『配達役』を担うか、どのルートを通って、mRNAを正確に目的地にまで届けるかを決める送達システムが特に重要となる。これはmRNA療法を応用するためのキーテクノロジーであり、難関でもある。科学者らは、ウイルスベクター、細胞ベクター、高分子化合物ベクター、たんぱく質ベクターといったmRNAのいろんな送達形式を試している。しかし、現時点で、固体脂質ナノ粒子(LNP)が、臨床で応用されている唯一の送達システムだ。3大mRNAワクチンメーカーであるモデルナ、キュアバック、バイオンテックの新型コロナウイルスワクチンには、いずれもLNP技術が採用されている。ただ、現時点で、同技術は依然として、ターゲティングの向上が必要であることや表出量が低いといった多くの課題に直面している」と指摘する。

多くの成果を挙げる中国の関連技術研究開発

 世界において、mRNA技術は既に、各大手医薬品メーカーとバイオテクノロジー企業が積極的に展開を行う重要な競争分野となっている。モデルナをはじめとする世界的な企業は、感染症の分野で、複数の予防ワクチンを開発しているだけでなく、一般がんワクチン、個別化がんワクチン、サイトカイン補充など、がん治療の分野においても展開している。しかし、現時点では、緊急使用されている新型コロナウイルスのmRNAワクチン以外の大半の医薬品は初期段階にあり、mRNAの研究開発全体の約40%は第1相臨床試験の段階だ。

 劉氏によると、海外と比較すると、中国のmRNAワクチンや医薬品の研究開発はスタートが遅く、配列設計や核酸修飾技術、送達システムプラットフォームといった面では、石橋を叩いて渡る初期段階にある。

 このような競争の構造に直面し、中国のバイオ医薬品企業は、政策の大きなサポーターの下、独自に、または連携する形で新型コロナウイルスや帯状疱疹、狂犬病、インフルエンザ、結核、がんなどのワクチン、治療薬の研究開発、mRNAワクチンや関連産業チェーンの展開を行っている。大まかな統計によると、現時点で、中国の新型コロナウイルスmRNAワクチン製品は18種類、非新型コロナウイルスのmRNAワクチンが40種類以上ある。

 このほかにも、中国国内企業のmRNA技術医薬の研究開発は、多くの成果を挙げている。例えば、上海藍鵲生物医薬有限公司が独自に研究開発を行い、ハイスループット3Dスクリーニングプラットフォームを構築し、送達システムを踏み込んで最適化し、独自の知的財産権を有する送達システムを開発した。嘉晨西海(杭州)生物技術有限公司が開発した自己複製mRNA中核プラットフォーム技術は、がん治療薬、個別化がんワクチン、感染症ワクチン、希少疾患治療といった分野に応用できる。同社が独自に研究開発した世界初の自己複製mRNAがん治療薬「JCXH-211」は、米食品医薬品局(FDA)が治験新薬(IND)の申請を承認した。成都威斯津生物医薬科技有限公司は人工知能技術を駆使して、mRNA配列と送達システムの2つのコア技術の面で、ブレイクスルーを実現した。

 全く新しい医薬品のジャンルとして、mRNA医薬品は、治療の分野において幅広く応用することができるため、今後、バイオ医薬品イノベーションのブレイクスルーポイントとなり、その将来が期待される。


※本稿は、科技日報「成本低、研発周期短mRNA技術或帯来新一輪療法革命」(2022年7月29日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。