日中の教育最前線
トップ  > コラム&リポート 日中の教育最前線 >  File No.20-07

【20-08】学際的学科の設置に解決が待たれる難題とは?

2020年9月11日 張盖倫(科技日報記者)

image

画像提供:視覚中国

科学におけるブレイクスルーやイノベーションは現在、学際的学科にますます依存するようになっている。生物化学、ナノテクノロジー、人工知能(AI)などは、実際にはどれも、異なる学問分野にまたがった研究分野だ。

 中国でこのほど開催された全国大学院教育会議で、中国は新しい学問分野として、学際的学科を増設する計画を発表した。これで、中国の大学院の学問分野は14分野となる。

 中国高等教育学科専攻目録は、大学院生学科専攻目録と学部生学科専攻目録からなり、うち、前者は、学問分野、一級学科、二級学科の3段階からなる。専攻目録は1980年代から今に至るまで、何度も調整が加えられてきた。

 中国人民大学教育学院の李立国教授は、「学問分野に新設される学際的学科には、従来の学問分野と同等の資格が与えられる」と説明する。

 学問分野の次に行われるのが一級学科と二級学科の設置と人材育成をすることだ。

科学のイノベーションはますます学際的学科に依存

 中国の大学院には現在、哲学、経済学、法学、教育学、文学、歴史学、理学、工学、農学、医学、軍事学、管理学、芸術学の13の学問分野がある。

 学際的学科がこれまでに専攻目録に盛り込まれたことはないが、大学にはすでにその影があった。例えば、2009年に発表された「学位授与と人材育成学科目録設置・管理規則」は、「学際的学科は、目録外に増設した二級学科のプロセスに基づいて設置し、それがまたがる学科の基礎理論に近い一級学科の下位分野に設置して教育統計を行う」と規定している。この規定は実質的には、大学に自主的に学際的学科を設置する権限を与えている。

 中国教育部(省)学位管理・大学院教育司が2019年に発表した「一般大学が自設する学際的学科リスト」によると、各大学は500以上の学際的学科を設置している。

 華中師範大学の周洪宇教授は取材に対して、「高等教育には、学科の垣根を越えて融合するというのが重要な発展のトレンドとなっている。これは、早くから見られる世界的なトレンドでもある。中国が高等教育改革、イノベーションによる発展を行う状況下で、そのトレンドがより際立つようになっている。そのようなトレンドに適応する必要がより大きくなっている」と説明した。李教授は、「学際的学科は学科の知識の高度な分化、融合の現れで、直近25年で50%近くのノーベル賞受賞者の成果が学際的学科の分野に属している」と説明する。

 科学におけるブレイクスルーやイノベーションは現在、学際的学科にますます依存するようになっていると言える。学科間の境界がはっきりしているわけではなく、大部分の場合、その境界は流動的だ。生物化学、ナノテクノロジー、人工知能などは、実際にはどれも、異なる学問分野にまたがった研究分野だ。

 しかし現行の制度では、学科専攻目録が、学位授権審査・学科管理、人材育成・学位授与の展開、関連の教育統計の基本的な拠り所となっている。以前、「現在の中国の学科・専攻の設置において、新興の学際的学科は、その学科的ポジションを見つけることが難しく、発展のための政策的推奨、制度的保障を得ることができない。正式なポジションがあれば、さらに多くのリソースを得て、大きな声を上げることができるようになる」と指摘した学者がいた。

学科の発展には統一した計画と管理が必要

 学際的学科が正式に学問分野に登録される前、関連大学は学際的人材の育成をすでに何年も行ってきた。

 浙江大学中国科学教育戦略研究院の副研究員・呉偉氏は、人材育成を、▽プロジェクト依託型(大学が特定プロジェクトの定員を決め、学際的学科の育成プロジェクトを開設する)▽機関従属型(専門の実体プラットフォームまたは研究機関に従属する)▽学科依頼型(既存、または新設の二級学科)―の、3つの育成パターンに分けている。

 呉氏は以前、一部の大学の学際的人材の育成状況を調査・研究したところ、大学院生の学科をまたがる育成は、功利性、単純化設定という苦境に直面し、一部の大学の学科をまたがる育成は、ある分野のテクノロジー・イノベーション活動を推進するための資源獲得手段となっていることを発見した。

 呉氏は取材に対して、「一部の大学の関係責任者がかつて、『学際的学科の発展の最大の障害は、組織の設置だ。小さな機関が独立しており、互いの間に溝があり、事務的なしがらみもあるため、協力が困難。また、実験室を開放できるか、他の学科、または学院のカリキュラムがそれらを選ぶかなどの問題もあり、調整が非常に困難』と言っていた」と話した。

 教員のポストや資金、設備などを、異なる学院が提供するとなれば、それぞれの機関が設置している管理体系が、学際的人材の育成実現の足かせとなる。

 また、プロジェクト制の育成スタイル下では、学生募集と育成が別々になっている。

 これについて周教授は、「現在の学際的学科の授業は、主に異なる学科の教員が行っている。もし、学科間の隔たりが小さく、同じ学科群に属しているなら、比較的容易である一方、学科間の隔たりがあまりにも大きい場合、教員がそのような学科間の授業を両立させるのは非常に難しくなる。大学の教員自身が受けてきたのは、一つの専攻に細かく絞った教育で、新しい育成スタイルに適応するためには、認識や能力をさらに向上させる必要がある」と指摘する。

 学生が卒業する時になると、別の問題も生じる。学際的人材の育成スタイルを依然として確立できていない一部の大学は、往々にして学際的学科の専門家バンクを構築していない。そして、学生の卒業論文を、単一の分野の専門家に評価、審査してもらっても、納得してもらえない可能性がある。

 呉氏は、「もし、大学において、管理機関または委員会による、しっかりとした統一した学際的学科の計画、管理が行われていなければ、学生の育成ガイドラインをどのように制定するか、学生の卒業基準をどのように設置するか、カリキュラム体系をどのように設置するかなどの面で、多くの問題に直面するだろう」と指摘する。

 周教授は、「学科の枠を超えて授業を行う教員の能力を向上させ、学際的学科の専攻の評価作業をきちんと行うことが、今後解決を模索する必要がある課題となっている。それらの問題を解決するには時間が必要で、力を入れて研究することが必要だ」と指摘する。

育成メカニズムの制定は「学生中心」が原則

 学際的学科を卒業した大学院生はどこへ行くのだろう?

 2006年に設立された北京大学前沿交叉学科研究院(Academy for Advanced Interdisciplinary Studies、AAIS)は、中国で最も早く設立され、発展している学際的学科機関の一つだ。十数年の模索と運営を経て、AAISはすでに何年にもわたり、新しく設立した学際的学科を卒業した、学際的学術人材を、持続的に安定して育成してきた。

 2019年、AAISの教員がまとめた「AAISを例にした理工系学際的学科人材の就職状況の分析」の2013‐18年の就職統計によると、AAISの学生は広い分野に就職しており、学生の約60%が卒業後に就職し、3分の1以上の卒業生が海外、または中国国内のトップレベルの大学で科学研究に携わっている。

 就職の情勢は良好だが、セルフアイデンティティやソーシャルアイデンティティなどの面では、まだ強化が必要だ。AAISの教員は、「学科を明確に指定して人材を募集する企業、機関には往々にして、学際的学科の卒業生に対する言葉では言い難い偏見がある。学際的学科を学んだ学生は、従来の単一学科で学んだ学生と比べると、どの学科に帰属するのかが明確でなく、取り残されたり、受け身になったりすることがある」と指摘する。

 今回、学際的学科が正式に学科目録に盛り込まれても、解決が必要な問題はまだ山積みだ。

 北京大学教育学院の瀋文欽・准教授は取材に対して、「学際的ハイレベル人材をどのように育成するかという問題は、さまざまな分野と複雑に絡み合って関係しており、今後、中国の大学院教育にとって大きな挑戦となるだろう。カリキュラムの設置や指導教員の招聘などの面で、学際的意識を構築し、学際的人材育成の規定を整備し、学際的学科指導委員会、審査委員会、学位決定委員会などの組織体系を整備し、指導教員の参加の積極性などの問題を解決しなければならない」との見方を示した。

 呉氏は、「大学は、統一した管理メカニズムにより全局を統率し、トップレベルデザインという観点から学際的人材の育成を確保しなければならない。また、入口では優秀な新入生を選考し、出口では、育成の質をしっかり確保し、育成過程の管理メカニズが役割をしっかり果たすようにすべきだ。そして、メカニズムが育成過程に作用するよう下支え、保障し、学際的プロジェクトのために良好な環境、リソースを提供すべきだ」とし、「『学生中心』という理念を遵守して育成メカニズムを設計し、育成の効果を改善しなければならない」と強調する。


※本稿は、科技日報「交叉学科"自立門戸"還有這些難題待解」(2020年8月28日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。