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【12-005】中国の「債権の持分・株式化」に関するルールについて

康 石(中国律師(弁護士)・米ニューヨーク州弁護士)  2012年 5月 30日

 債権を持分・株式に転換する財務改善方法のルールについて、中国国家工商行政管理総局は「会社デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)登記管理弁法」[i](以下「DES登記弁法」又は「本弁法」という。)を定め、2011年11月23日に公布、2012年1月1日に施行した。世界金融危機の影響で、資金難に直面する企業(特に中小企業)が増えたため、企業の再建、財務体質の改善を容易にするため、本弁法は制定された。DES登記弁法は19条から成り、出資の対象となる債権の限定、当事者による承諾制度、債権評価及び出資検査制度、登記情報及び処罰情報の公開制度等、DESに伴うリスクをコントロールするための重要な制度が定められている。

1.DESの定義と出資対象債権の種類

 本弁法が規定するDESとは、中国国内に設立された有限責任会社又は株式会社(以下「対象会社」という。)に対する債権を、債権者が対象会社の持分・株式に転換することにより、対象会社の登録資本を増加させる行為を指す(2条)。

 本弁法は、第三者に対して有する債権による出資は認めていない。DESと第三者に対する債権による出資の主な違いは次の通りである。DESの場合、出資を受ける会社は債務者であり、出資を受けた後、債務は消滅する。これに対して、第三者に対する債権による出資の場合は、出資後も出資の根拠となった債務は引き続き存在し、出資を受ける会社が債権者となる。

 債権による出資を認める場合、リスクの一つは、出資の根拠となる債権が将来回収できない可能性があるという点である。本弁法は、第三者に対する債権による出資を排除することにより、こうしたリスクが発生しないよう定めている。また、債権による出資は、設立済みの対象会社に対する増資としてしか認められない。

 本弁法のDESの対象となる債権には、以下のようなものが含まれる(3条)。

①契約債権:債権者と対象会社の間で発生した契約債権で、債権者が当該債権に対応する契約上の義務をすでに履行しており、かつ法律、行政法規、国務院の決定又は対象会社の定款に禁止規定に違反しない場合

②人民法院の確定判決により確認された債権

③人民法院が承認した対象会社の更生計画又は和解協議に含まれる債権

2.リスク防止

 債権による出資を認める場合、上述した債権回収の不確実性以外のリスクも考慮しなければならない。例えば、不当に高く評価された債権、又は架空の債権によって出資が登記されると、虚偽の出資を認めてしまうことになり、他の株主又は債権者の利益が損なわれる。こうしたリスクに対処するため、本弁法は以下のような制度を規定している。

(1)当事者承諾制度

 契約債権をもって出資する場合、債権者及び対象会社は、DESの対象となる債権が本弁法の規定に適合する旨の承諾書を会社登記機関に提出しなければならない(10条1項1号)。その他の二種の債権(確定判決で確認された債権及び更生計画又は和議協議に含まれる債権)の場合は、人民法院がすでに債権の真実性、有効性、合法性に対して確認を行っているため、承諾書の提出は不要である。

(2)債権評価制度

 DESの対象となる債権は、法に従って設立された資産評価機関による評価を経なければならない(7条1項)。また、債権による出資の額は、当該債権の評価額を超えてはならない(7条2項)。

(3)DES出資検査制度

 DESは、法に従って設立された出資検査機関による出資検査を経なければならない。出資検査機関が発行する出資検査証明は,下記の内容を含む必要がある(8条)。

①債権の基本状況:債権の発生時間及び原因、契約当事者の氏名又は名称、契約対象物、債権に対応する義務の履行状況

②債権の評価状況:評価機関の名称、評価報告の文書番号、評価基準日、評価額

③DESの完成状況:DES契約の締結、債権者による対象会社債務の免除、DESに伴う対象会社の会計処理状況

④DESの認可取得状況

(4)情報公開制度

 DESの登記情報並びにDESの過程における債権者、対象会社及び資産評価機関、出資検査機関による違法行為は、社会一般に公開され、だれでも会社登記機関において調べることができる(14条及び15条)。また、行政処罰を受けた資産評価機関又は出資検査機関のリストも公表される(15条2項)。

(5)処罰規定

  本弁法は、DESの過程における違法行為に対して、新たな処罰規定は設けず、「会社法」、「会社登記管理条例」等の関連規定に基づいて処罰する(13条)。

3.DESに対する規制緩和

 本弁法の制定によって、DESが完全に自由化されたことを意味するものではない。本弁法は、法律、行政法規又は国務院の決定によって、DESは認可を必要とし、法に基づいて認可を得なければならず(5条),また、本弁法に規定する事項について、法律、行政法規又は国務院の決定に別途の規定がある場合、その規定が適用され(17条)、DESに関する従来の規制を基本的に維持している。

 従って、例えば、国有企業によるDESは、国有資産管理部門の認可、上場会社によるDESは、第三者割当増資に関する証券監督管理委員会の認可、外商投資企業によるDESは、増資行為に対する商務部門の認可を、現行法に基づいて取得する必要がある。

 ただし、国有企業、上場企業、外商投資企業以外の一般的な中国国内企業のDESについては、これまで工商管理部門が、法的根拠がないことを理由に債権による出資を受け付けてこなかった。その意味からは、本弁法の制定によってDESが以前より比較的に容易になったと言えるだろう。

4.外商投資企業の増資実務への影響

 外商投資企業の外国人株主によるDESは、これまで、外国人株主が外商投資企業に対して持つ債権で、かつ外債登記を行っている債権(中長期的な株主ローンがその典型例である)による増資しか認められていなかった。本弁法は、DESの対象となる債権を、中国国内の債権又は外国人株主が債権者となる債権に限定していない。

 外商投資企業の中国人株主又はその他中国企業が外商投資企業に対して持つ債権、外国人株主以外の外商投資企業に対する債権等による出資も理論上可能になっている。

 外商投資企業(及びその株主)が、こうした債権による出資に同意する場合、商務部門がそれを認可するか、または、外債登記をしていないクロスボーダー債権(売掛債権等の経常項目取引に基づく債権)による出資に対して。外貨管理部門が何らかの制限をしてくるかどうか、などが、今後のDES取引において注目すべきところであると言えよう。


[i]中国語名は「公司債権転股権登記管理弁法」。

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康 石

康 石(Kang Shi)

中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士。上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エクイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

 


【付記】

 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。